画期的なアトラスにより、乳房組織の老化が乳がんのリスクを形成する過程が明らかになります

JAXの研究者たちは、加齢に伴う細胞および分子の変化が乳がんの発症にどのように影響するかを明らかにした
「年齢を重ねるのは名誉である」と言いますが、がんなどの加齢に関連する疾患を発症する可能性が高まるなど、リスクも伴います。ジャクソン研究所(JAX)の研究者たちは、健康な乳房組織の老化の画期的なアトラスを作成し、乳がんの発症に影響を及ぼす可能性のある重要な細胞、分子、遺伝子の変化を明らかにしました。最近 Nature Aging に掲載された彼らの研究結果は、研究者たちが老化や、がんリスクの増加に及ぼす老化の影響を調査するための貴重かつオープンアクセスなリソースです。
老化細胞の分子のストーリーを書き換える
研究者たちは、最先端の単一細胞と空間トランスクリプトミクス技術を使用して、交尾未経験の若齢雌マウスと高齢のマウスを比較し、乳腺の細胞構造が時間とともにどのように変化するかを明らかにしました。JAXのAssociate Professorであり、米国国立癌研究所指定の JAXがんセンター の共同プログラムリーダーである Dr. Olga Anczuków が共同リーダーを務めるチームは、健康な乳房組織を維持するために不可欠な上皮細胞、免疫細胞、間質細胞の数だけでなく、その分子的個性も変化することを発見しました。
- 乳がんのほとんどが発生する場所であり、乳管の内側を覆う上皮細胞は、その役割を失います。変化への対応能力が高まりますが、悪性化も起こりやすくなります。
- 乳房組織を構造的に支持する間質細胞は特殊な個性を失い、腫瘍の成長を促進する可能性のある混沌とした微小環境を作り出します。
- 免疫細胞は老化した組織に浸潤しますが、これらの細胞はがんから保護する代わりに、炎症や 疲労 を起こしやすく、腫瘍の発達を促進する可能性があります。
しかし、それだけではありません。
Dr. Anczukówと彼女の研究チームは、加齢に伴う遺伝子発現の変化と乳腺のクロマチンアクセシビリティとの直接的な関係を初めて証明しました。クロマチンアクセシビリティとは、核内のDNAがどれだけ密か、またはまばらであるかを指します。これは、どの遺伝子をオンまたはオフにできるかに影響します。たとえば、クロマチン構造の変化は、細胞増殖、DNA修復、および免疫応答に関与する遺伝子の調節異常につながる可能性があります。これは、腫瘍の成長に寄与することが知られているメカニズムです。
「乳房組織における加齢に伴う遺伝子発現の変化と、遺伝子活性を制御する分子の『台本』であるクロマチンアクセシビリティの変化の関連性を、私たちは初めて示しました。これは、乳房細胞が老化するにつれて発生するクロマチン構造の変化が、遺伝子活性の調節に重要な影響を与える可能性があることを示唆しています」と、JAXのProfessorであり本研究の共同上席著者である Dr. Duygu Ucar (ドゥユグ・ウカル)は述べています。
マウスからヒトへ:両者に共通する癌のつながり
こうしたマウスの加齢に伴う分子変化がヒトの乳がんリスクを反映しているかどうかを確認するために、Dr. AnczukówとDr.ウカルならびに研究チームは、マウスのデータをヒトの乳がんの遺伝子プロファイルと比較しました。そして、マウスの加齢に伴う分子シグネチャーは、ヒトの乳がんに見られるパターンと非常によく似ていることを発見しました。これは、乳房の微小環境の老化が、がんリスクに直接影響し、貴重な警告サインを提供できることを示唆しています。
「これらの共通する道筋を発見できて、胸が躍る思いでした。これは、健康な組織における加齢に関連した変化が、腫瘍が形成される前に、よりがんにとって活動しやすい環境を作り出す可能性があることを示唆しています」と、JAXのAssociate Research Scientistでこの研究の共同筆頭著者である Dr. Brittany Angarola (ブリタニー・アンガローラ)は語りました。
予防と早期発見のためのロードマップ
このオープンアクセスのアトラスは、がんのリスクに加齢が及ぼす影響を調査するための重要なリソースを世界中の科学者に提供します。このデータセットにより、研究者は早期発見のためのバイオマーカーの候補を特定し、予防と治療の戦略を立てることができます。
「この研究は、加齢とがんに関する理解を深めるだけでなく、高齢者のがんのリスクを軽減できる介入について将来の研究の基盤を築くものでもあります。さらにこの研究は、世界中のがん患者を助ける強力なツールも提供してくれます」とDr. Anczukówは述べました。
この研究は、JAXがんセンター、JAX老化研究センター、V財団、Tallen-Kane財団、Scott R. MacKenzie財団およびHevolution財団の支援を受けて行われました。

JAXのAssociate Research Scientistであり、この研究の共同筆頭著者であるDr.ブリタニー・アンガローラとAssociate ProfessorのDr. Anczuków(右)
ジャクソン研究所について
ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立癌研究所指定のがんセンターを有し、約3,000名の従業員を擁しています。その使命は、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。詳細については、 www.jax.org をご覧ください。
JAXメディア担当:Cara McDonough cara.mcdonough@jax.org
英語原文: Landmark atlas reveals how aging breast tissue shapes breast cancer risk at the Jackson Laboratory