AIによる組織画像診断で小児がん治療を変革する
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カテゴリー:がん希少疾患

横紋筋肉腫をヘマトキシリン・エオジン(H&E)で染色した標本。

肉腫は小児がん全体の約1%に過ぎないが、肉腫を有する子どもとその家族にとっては、その希少性こそが診断を妨げる大きな壁となっている。

肉腫には100種類以上のサブタイプがあり、症状も体のどこかの痛み、腫れ、しこりなど、はっきりしないことがあります。肉腫の正確な種類を特定するには、遺伝子検査やタンパク質染色など、一連の複雑な検査が必要になることが多く、なかでも重要なのは、こうした稀な腫瘍を見分ける訓練を受けた病理医による判断です。

こうした専門知識を得るのは容易ではなく、特に大規模な医療センターのある大都市圏以外に住む家族にとってはなおさらです。肉腫に関する経験を持つ 高度な訓練を受けた病理医は世界的に不足しており 、組織検体が検査のために送られている間、家族は待機を余儀なくされることがよくあります。また、検査が行われても、専門医の間で意見が分かれることもあります。診断は専門医によって異なることが多く、その間にもがんは進行し、貴重な時間が失われてしまいます。標的療法が普及する今、正しい肉腫のサブタイプを特定することは不可欠です。分類を誤れば、治療が遅れたり、患者が最も効果的な治療を受けられなくなったりするおそれがあります。

 

AIによる組織画像診断で小児がん治療を変革する

UConn Health(コネチカット大学医療センター)とジャクソン研究所(JAX)の Dr. Chuang(チュアン)の研究室 に所属するPh.D. candidate(博士課程の最終段階)のAdam Thiesen(アダム・ティーセン)は、異なるアプローチに挑戦していいます。腫瘍外科医でありチュアン研究室の上級研究員でもあるDr. Jill Rubinstein(ジル・ルービンスタイン)の指導のもと、ティーセンは人工知能(AI)を訓練して腫瘍のスライドを直接読み取り、迅速かつ一貫性のある診断を提供することを目指しています。これにより、患者の家族がより良い治療法に早くたどり着けるようになります。 「私たちは、従来のような余分な負担を患者にかけず、組織画像だけで診断できるかどうかを試したかったのです。そして、これまでのところ非常に良い成果を上げています」とティーセンは語っています。

 

普通のAIとは異なるAIモデル

AIと聞くと、多くの人がテキストを生成する大規模な言語モデルを思い浮かべるでしょう。しかし、ティーセンのシステムは異なります。このシステムでは画像、具体的にはヘマトキシリン・エオジン(H&E)で染色されたデジタル病理標本を分析します。病理医はこれらの標本を検査し、細胞の形状や集塊、質感の微妙なパターンを見極めます。AIはこれらを大規模にスキャンし、各標本を数千のタイルに分割して、数値的な「指紋」に変換し、腫瘍がどの肉腫のサブタイプに最も類似しているかを予測します。

「病理標本をデジタル化することで、病理医が顕微鏡で観察していた情報を、コンピューターで分析できる数値データに変換しました。スマートフォンが写真の中から顔を検出するのと同じように、私たちのAIモデルは腫瘍のパターンを検出し、肉腫のサブタイプに分類することを学習します」とティーセンは語っています。

ディープラーニングは、肉眼では判別が難しいH&E染色標本のパターンを解釈できます。このAIプログラムは、H&E染色標本から複数のスケールで情報を収集し(左)、類似の構造が存在する領域を強調表示するオーバーレイを生成します(右上)。さらに「異形度」を測定することで、細胞の形状に関する情報のオーバーレイも表示できます(右下)。こうしたオーバーレイは、病理医がスキャン画像の特定の領域に注目し、さらに詳しく調べるうえでの指針となります。

 

重要なギャップを埋める

こうしたツールは専門家に取って代わるものではありませんが、専門的な評価が受けられる地域を広げる可能性があります。肉腫専門医がいない地域では、AIはバーチャル・セカンド・オピニオンとして機能し、医師や家族に迅速かつ明確な回答を提供します。トップクラスのがんセンターでさえ、大規模なデータセットで訓練されたAIモデルは、人間の目では見落とされることもある微細な特徴を捉える可能性があります。

このAIシステムはリソースの消費が少なく、高性能な機器を必要としません。スライドをデジタル化すれば、臨床医が標準的なノートパソコンで操作できるように設計されています。また、オープンソースであるため、他の研究グループから提供された画像を学習させて、このAIモデルを改良することも可能です。

「病理医がそのプロセスに関与すれば、これらのAIモデルはさらに強化されます。病理医は、高度なAIでさえ単独では見逃してしまう可能性のある、細胞の微妙な違い(形状、色、微細構造の変化など)を指摘することができます。病理医がこれらの特徴に注釈を付けることで、AIは臨床で本当に重要な要素を認識できるように学習するのです」とティーセンは述べています。

 

次のステップに向けて勢いをつける

ティーセンと共同研究者らは、予備データで、このアプローチが識別困難な肉腫のサブタイプを驚くほど正確に識別できることを示しました。次のステップは規模拡大です。より大規模で多様なデータセットを構築し、このAIモデルが最も希少な形態さえも認識できるように学習させる必要があります。

患者の家族に伝えられる約束はシンプルです。近隣の病院で生検を実施すれば、数週間や数ヶ月ではなく、数時間あるいは数日で信頼性の高い肉腫診断が得られる日が近いということです。より迅速な診断結果は、より迅速な治療決定を意味し、より良い結果につながる可能性があります。

 

英語原文: Seeing what’s hidden: Using AI to transform pediatric cancer care

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