希少疾患が医学全体について教えてくれること
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カテゴリー:遺伝希少疾患

遺伝的異常が一般的な疾患の鍵を握っている可能性─その理解を深めるためのさらなる研究資金投入が必要な理由

研究者たちが、PCSK9遺伝子に極めて低い、または極めて高いコレステロール値を引き起こす稀な変異を発見した時、それは単なる遺伝学的な興味にはとどまらず、画期的な成果へとつながりました。人口のごくわずかな割合にしか見られないこれらの遺伝子変異の発見がきっかけとなり、現在では何百万人もの人々に処方されている強力な新しいタイプのコレステロール低下薬が開発されました。

ジャクソン研究所(JAX)のScientific DirectorであるDr. Nadia Rosenthal(ナディア・ローゼンタール)にとって、そこから得られる教訓は明確です。「希少疾患は、しばしば生物学の根本的な仕組みを垣間見ることができる『窓』を与えてくれます。そして、その窓を通して見えるものは、より一般的な疾患についても教えてくれるのです」と彼女は述べています。

JAXのLaboratory for Mammalian Genetics(哺乳類遺伝学研究所)のProfessorであり、インペリアル・カレッジ・ロンドンの心血管科の学科長でもあるDr.ローゼンタールは、希少疾患と複合疾患の両方に罹患しやすくなる遺伝子変異の研究に長年のキャリアを捧げてきました。今月、 Trends in Genetics に掲載された論説で、彼女は説得力のある主張を展開しています。希少疾患の研究は、単に道徳的責務であるだけでなく、がん、アルツハイマー病、糖尿病といった一般的な疾患を理解し、最終的には治療へとつなげるための、最も賢明な方法の一つでもあるということです。

しかし、この論文は単なる科学的な概説にとどまりません。それは私たちに行動を促す呼びかけでもあるのです。

希少疾患はこれまで十分な注目を集めることが少なく、研究資金も限られていましたが、Dr.ローゼンタールは、この分野の研究は、希少疾患の患者のためだけでなく、人間の生物学的機構と疾患の正確な仕組みを解明するうえで、極めて重要な知見をもたらすと強調しています。そのため、この分野はもっと優先的に取り組まれるべきだと彼女は主張しています。

JAXのScientific DirectorであるDr.ローゼンタール: 英語原文記事 から動画「Why Study Rare Disease? JAX's Nadia Rosenthal Talks "Rare to Common"」をご覧いただけます。

 

遺伝子は単独で作用するわけではない

希少疾患は、その症状の辛さと臨床的な複雑さとは裏腹に、多くの場合、たった一つの異常な遺伝子から始まります。糖尿病、がん、アルツハイマー病などの一般的な疾患では、リスクは数百もの小さな影響を持つ変異に分散し、さらに環境要因によってリスクが左右されますが、希少疾患は一つの劇的な変異によって引き起こされる傾向があります。この「明確さ」こそが、科学者が、疾患によって生物学的な仕組みがどのように機能不全に陥るかを解明しようとする際に、強力なツールとなります。

希少疾患の研究は、より広範な集団にとって有用な薬剤標的の発見につながる可能性があるという見解が以前からあります。これは事実であり、PCSK9のような例がそれを証明しています。しかし、Dr.ローゼンタールの主張はそれに留まらず、希少疾患の研究は、健康に関するより大きく複雑な真実、つまり、ほとんどの人の病気は単一の要因によって引き起こされるわけではないという真実を明らかにするためにも不可欠だと考えています。

ここで重要になるのが、「遺伝的背景」、つまりゲノムの残りの部分という概念です。同じ稀な遺伝子変異を持っていても、症状の現れ方は人によって大きく異なります。寝たきりになる人、寿命が大幅に短くなる人もいれば、ほとんど影響を受けない人や、自分が変異を持っていることにすら気づいていない人もいます。そして、研究者たちは、こうした違いは単なる偶然ではなく、ゲノムの残りの部分によって形作られていることを明らかにしつつあります。他の遺伝子が、有害な変異の影響を増幅したり、緩和したりする修飾因子として機能しているのです。

この考え方は、希少疾患に限ったものではありません。それは、なぜ一般的な疾患の理解がこれほど難しいのか、そして現在の遺伝子モデルがなぜ不完全であることが多いのかを示す重要な手がかりでもあります。たとえば、ある人が心臓病や糖尿病を発症するのに、別の人が発症しない理由は、ゲノム全体に散在し保護的に働く軽微な遺伝的変異によるものかもしれません。そして、そのような違いの一端を明らかにする近道が、希少疾患の研究である可能性があるのです。

「なぜ自分の母親はがんになり、自分はならなかったのか、あるいはその逆なのかを知りたいなら、答えは遺伝子の修飾因子の中にあります」とDr.ローゼンタールは言います。

 

シンプルなシステムから得られる深い知見

心臓病やがんのような複雑な疾患の場合、遺伝子の修飾因子(それぞれの因子がごくわずかな影響しか与えない場合もある)を特定するのは困難です。しかし、一つの主要な変異に関連する希少疾患の場合、特にJAXのような膨大なマウスモデルのライブラリがあれば、その関連性はより容易に特定できます。

Dr.ローゼンタールとJAXの研究者たちは、希少疾患に関連する単一の変異を持つマウスを、遺伝的に多様な他のマウスの集団と交配させることができます。その結果、どのマウスが病気になり、どのマウスがレジリエンス(回復力)を示すかを調べることが可能になります。回復力のあるマウスは、病気の影響を緩和する修飾遺伝子を持っている可能性があり、新たな創薬の標的への道筋を示す可能性があります。

「ヒトのレジリエンス遺伝子を見つけるのは非常に困難です。背景にある『ノイズ』が多すぎるのです。しかし、マウスであれば条件を操作することで、何が違いを生んでいるのかを突き止めることができるのです」とDr.ローゼンタールは語りました。

一部のケースでは、こうした保護的な遺伝子修飾因子が、疾患遺伝子自体と同じ生物学的経路の一部を構成しています。また、他のケースでは、それほど目立たない形で、全く異なるシステムの中で機能し、ストレス下で体がどのように対応し、安定性を維持するかについて、予期せぬ知見をもたらしています。

「私たちが目にしているのは、単に何が壊れるかだけでなく、生物学的機構が自らを修復しようとする仕組みです。そして、こうした知識こそが、すべての人にとってより効果的な治療法を開発する上で役立つのです」と彼女は語りました。

最終的には、希少疾患の原因と治療法の研究を通じて、希少疾患と一般的な疾患の両方において、遺伝的背景が疾患リスクに与える影響が明らかになるとDr.ローゼンタールは考えています。遺伝子の異常がどのように疾患につながるのか、あるいはつながらないのかを研究することで、研究者は個々の変異だけでなく、生物学的経路全体をターゲットとした治療法の可能性を探ることができるようになります。

 

疾患の連続体

Dr.ローゼンタールの見解によれば、希少疾患と一般的な疾患の線引きは生物学的なものというより、むしろ人為的なものです。希少疾患に関連する遺伝子は、一般的な疾患においては背景要因として作用することが多く、一方、一般的な疾患に関与する遺伝子修飾因子は、希少疾患の症状の現れ方を形作る可能性があります。つまり、希少疾患と一般的な疾患は明確に分かれたものではなく、疾患の連続体として捉えるべきだというのです。

しかし、研究資金や社会の注目は、こうした相互関連性をほとんど反映していません。Dr.ローゼンタールは、生物学を前進させるには、希少疾患に関する大規模かつ徹底的な研究が必要だと主張しています。

「マウス1匹、細胞1個、患者1人だけでは、この研究は成り立ちません。多くの対象で研究を行う必要があります。なぜなら、それが疾患を引き起こす多様性と生物学的メカニズムを理解する唯一の方法だからです」と彼女は語りました。

 

希少疾患が医学全体について教えてくれること

Dr.ローゼンタールのメッセージは明確です。希少疾患の研究は、副次的なプロジェクトではなく、不可欠な取り組みです。希少疾患は、遺伝子がどのように機能し、どのように機能不全に陥り、そして体がどのように対応しようとするのかを探る「自然による実験」といえます。

希少疾患研究への投資は、直接影響を受ける何百万人もの患者とその家族を支援するだけでなく、すべての人々の医療を根本から変える可能性を秘めた、より広範な発見への扉を開くことにもつながります。

「希少疾患から学べることを、私たちは決して忘れてはなりません。希少疾患は『希少』かもしれませんが、その価値は決して小さいものではないのです」とDr.ローゼンタールは語りました。

 

英語原文: What rare diseases can teach us about the rest of medicine

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