哺乳類の遺伝子機能、健康、疾患への理解を深める道のりにおいてマイルストーン到達
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カテゴリー:遺伝希少疾患

By Mark Wanner

KOMP2の主要メンバーとして、JAXの研究者はこれまでに2,000匹以上のノックアウト マウスを作製して特性を明らかにしてきました。それは、哺乳類の遺伝学と、遺伝的要因が健康に及ぼし得る影響に関する重要な知見をもたらしました。

ノックアウトマウス表現型解析プログラム(The Knockout Mouse Phenotyping Program: KOMP2)は、壮大な国際的取り組みです。このプログラムには、マウスのほぼすべてのタンパク質コード遺伝子の機能の特性を明らかにするために取り組んでいる21の研究機関からなるコンソーシアムが関与しています。ジャクソン研究所(JAX)は長年にわたりこのプログラムで重要な役割を果たしてきましたが、このたび、2,000系統のノックアウトマウスを作製し、その特性を明らかにするという素晴らしいマイルストーンに到達しました。これは、これまでに世界中で作製された総数の5分の1をはるかに超える数です。2027年に終了予定のこの取り組みの集大成は、現在機能が知られていない遺伝子に光を当て、その他の遺伝子についてもさらなる知見を提供する、研究コミュニティ全体にとって基盤となるリソースになるでしょう。

これらのマウスは、ヒトの希少な単一遺伝子疾患の研究に非常に有益であることが既に証明されています。実際、現時点において、この世界的な研究活動の統括組織である国際マウス表現型解析コンソーシアム(IMPC)は、少なくとも1つの疾患症状を示す特定のマウス系統によって、希少疾患と遺伝子との既知の関係889種類が確立されており、希少疾患コミュニティの研究と発見のための重要なリソースを提供していると報告しています。そして、そのような系統の数は増え続けています。

「このプログラムは豊富なリソースを提供してきました。希少疾患のモデルとなるマウス、不妊のマウス、発達障害のあるマウスなど、さまざまなマウスがいます。新しい系統とデータはすべて研究コミュニティで利用可能であり、研究を加速し、哺乳類とヒトの遺伝学に関する重要な知見を提供しています」と語るのは、JAXのProfessorである Dr. Robert Braun (ロバート・ブラウン)です。彼はAssociate Professorの Dr. Stephen Murray (スティーブン・マレー)、Center for Biometric AnalysisのDirectorである Dr. Jacqueline White (ジャクリーン・ホワイト)と共にKOMP2センターを率いています。

 

遺伝子機能の未知の部分

ヒトのゲノムには、タンパク質をコードする遺伝子が約20,000あります。健康や病気に直接影響を与えるため、広く研究されている遺伝子もありますが (例:BRCA1/2[がん]やCFTR[嚢胞性線維症])、遺伝子の約3分の1の機能が明確になっておらず、そのうちの多くでは機能が全くわかっていません。KOMP2は、マウスの助けを借りて、この状況を変え、特定の遺伝子がヒトの健康に及ぼす正確な影響を特定しようと取り組んでいます。

ヒトゲノムの改変は不可能であるため、研究者はヒトの代わりとしてマウスを利用することに目を向けるようになりました。マウスとヒトは、20,000の遺伝子の大部分が共通しており、約19,000は相同性があります。つまり、2つの種が共通の祖先から劇的に異なる形で進化したにもかかわらず、その遺伝子は大きく変化していないということです。したがって、マウスでそのような遺伝子をノックアウトし、その結果を詳細に測定することは、ヒトの遺伝学と遺伝子機能を理解するための重要な手がかりになります。

各遺伝子を一つずつ正確に無効化し、その結果得られた何千ものマウス系統を注意深く表現型解析する(徹底的に特性を明らかにする)ことは、膨大な作業であり、1つの研究機関の能力を超えています。参加している21の研究機関のうち、米国には国立衛生研究所が支援する3つの主要施設があります。ジャクソン研究所(JAX)、ベイラー医科大学、カリフォルニア大学デービス校です。マウス遺伝学の世界的リーダーであるJAXが、この取り組みを最初から最後まで主導してきたのは驚くにはあたりません。

JAXでは、サイエンティストがCRISPR/Cas9ゲノム編集プロトコルを使用して各遺伝子を正確にノックアウトし、新しいマウス系統を作製します。生存能力のあるノックアウト系統が確立されると、JAXのこの分野での経験とIMPCの推奨事項に基づいたハイスループット表現型パイプラインを使用して、各系統をスクリーニングします。週ごとの体重、体組成、耐糖能、握力、視力と聴力、血液生化学データなど、複数の臓器系にわたる200を超える特性が、生後2か月齢~5か月齢の間に正確に測定されます。その後、特定の系統は15か月齢~18か月齢の間に再度スクリーニングされ、後になって発生する可能性のある異常を特定します。

 

生存にかかわる遺伝子とかかわらない遺伝子

各遺伝子は、一つまたは複数の生物学的機能を実行するタンパク質をコードしますが、ノックアウトする遺伝子ごとに、その結果は大きく異なります。発達に不可欠な遺伝子をノックアウトすると、両方の対立遺伝子を欠くマウスは生存できません。一方、冗長な経路を持つ遺伝子や明らかな役割を持たない遺伝子をノックアウトすると、徹底的な特性評価を行った後でも、野生型の(正常な)マウスとまったく同じように見えるマウスが生まれます。そして、その中間に当たる非常に多くのマウスは、生存能力はあるものの、生理学的および機能的に重要な変化が見られます。

2016 年、Dr.マレーは 必須遺伝子を研究する グループを率いていました。必須遺伝子とは、ノックアウトすると生存できなくなる遺伝子のことです。研究チームは、これらの遺伝子にヒトの疾患遺伝子が極めて豊富に含まれていることを発見しました。この研究結果から、遺伝子の必須性に関するIMPCデータが新しい疾患原因遺伝子を発見する助けとなり、不明な点が残る希少疾患をヒト遺伝学の研究者たちが診断するうえで有用であることが示唆されています。最近では、JAXの研究グループがKOMP2で作製された系統を使用して、 マウスの薬物摂取および関連行動に寄与する遺伝子 を発見しました。

 

終わりと始まりが視野に

2,000の新しい系統は素晴らしいマイルストーンですが、やるべきことはまだたくさんあります。プロジェクトが予定通り完了すると、KOMP2、IMPC、科学コミュニティの共同作業により、遺伝子の90%以上をターゲットにした哺乳類ゲノム機能の概要が完成します。したがって、公式のKOMP2プロジェクトの終了は、始まりでもあります。つまりこれは、さらなる発見と人々の健康の向上のために複雑な生物学を探求する中で、あらゆる種類の遺伝学調査の出発点となるのです。

 

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: KOMP2 involves a consortium of 21 research institutions (jax.org)

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