CASTマウスモデル:将来の新型コロナウイルス感染症大発生に備える重要なツール
Media Release

カテゴリー:遺伝感染症モデル作製

遺伝的に純粋な背景を持つマウスは、重度の新型コロナウイルス感染症にかかりやすい。

 

【メイン州バーハーバー 2024年12月5日】ジャクソン研究所(JAX)とトルドー研究所の研究者たちは、遺伝子組み換えを必要としない、重度の新型コロナウイルス感染症にかかりやすい初のマウス系統を発見しました。 Scientific Reports に報告されたこの研究は、感染症研究における極めて重要な一歩であり、新たなコロナウイルス変異体や将来的なパンデミックに対するワクチンや治療薬の開発に不可欠なツールとなります。

CAST/EiJマウスは、遺伝的に多様な8種類のマウス系統から成る研究パネルの一部であり、ベータ、オミクロン、デルタの各変異体を含む新型コロナウイルス感染に対する重篤な反応を顕著に示します。他の系統は回復するか軽度の症状を示したのに対し、CASTマウスは急性疾患を呈し、新型コロナウイルスに対する独自の感受性を明らかに示しました。

「ほとんどのマウス系統は、新型コロナウイルス感染症の変異株に感染しても症状がほとんど出ませんが、CASTマウスは致死的な反応を示すため、新型コロナウイルスの影響を研究し、次世代の治療法をテストするための貴重なリソースとなります」と、JAXのScientific Director兼Professorで、本研究の上席著者の一人である Dr. Nadia Rosenthal (ナディア・ローゼンタール)は述べました。

CASTマウスはもともとカスタニア島で捕獲され、1971年にJAXに持ち込まれました。JAXでは、遺伝的に純粋な系統を維持するためにCASTマウスを飼育し、CASTマウスのゲノムに可能な限り忠実なモデルを作製しました。この特性により、CASTマウスはクリーンな遺伝的背景で重度の新型コロナウイルス感染症の症状を調べるための理想的なモデルとなっています。

CASTマウスは肺に大量のウイルスを保有するだけでなく、重度の肺損傷を呈します。これは、重度の新型コロナウイルス感染症患者に見られる過剰炎症反応と同様です。研究者にとってこの独自の系統は、これまでの新型コロナウイルス感染モデルで問題とされてきた脳感染を伴うことなく、新型コロナウイルスに対してヒトと非常によく似た反応を示すモデルとなります。

抗ウイルス治療薬の初期の試験では、CASTマウスの生存率が改善するという有望な結果が認められており、将来的なコロナウイルス流行に対する治療法の開発におけるCASTマウスの役割に期待が高まっています。新しい変異体が出現し続けるなか、CASTマウスモデルはすぐにでもその対応を加速することができ、人命を救うことにつながる可能性のある知見を提供するでしょう。

 

マウスモデルの多様性が新たな視点をもたらす

この研究では、A/J、B6J、CAST、129S1、NSG、NZO、PWK、WSBという遺伝的に多様な8種類のマウス系統について、1型および2型糖尿病の感受性、肥満、痩せといった特徴を調査しました。これらのマウス系統の多様な遺伝的背景により、研究チームはウイルス感受性の違いを明らかにすることができました。

Dr. ローゼンタールと、JAXの研究プロジェクトディレクターであり、この研究の筆頭著者である Dr. Candice Baker (キャンディス・ベイカー)は、8種類のマウスすべてを用いて実験を開始し、CASTマウスが新型コロナウイルスへの感染に対して顕著に感受性が高いマウスであることを発見しました。CASTマウスは回復しませんでしたが、回復したものの新型コロナウイルス後遺症に似た長引く症状を示すマウス系統もありました。

「CASTマウスは新型コロナウイルス感染症の急性症状についての知見を与えてくれました。次は長期的な影響を調べるつもりです」とDr. ベイカーは語りました。

今後の研究で、Dr. ローゼンタールとDr. ベイカーは、同じ8系統のマウスのパネルを使用して長期的な影響を調査する予定です。

 

新型コロナウイルス感染症研究の初期の課題を克服する

パンデミックが始まったとき、従来のマウスモデルは新型コロナウイルスの研究には適していませんでした。新型コロナウイルスが結合するために必要な受容体が細胞になかったからです。2023年、 Dr. ローゼンタールとJAXの彼女の研究チームならびに米国国立衛生研究所(NIH)のロッキーマウンテン研究所のチーム は、ヒトに由来するこれらの受容体を組み込んだマウスを使用してこの問題に対処しましたが、結果として生じた感染症は過度に重篤で、ヒトが示すさまざまな反応を再現できませんでした。

Dr. ローゼンタールのチームは、遺伝子操作されたマウスをさまざまな系統と交配することで、ヒトと同様の反応を幅広く再現しました。しかし、これらの遺伝子操作されたヒト受容体は、必ずしも臨床的に関連する疾患の表現型を示すわけではありません。CASTマウスは、その遺伝的背景により人工的な受容体の改変を必要とせず、重度の新型コロナウイルス感染症の研究のためのより自然なモデルとなるため、非常に貴重です。

「新型コロナウイルス研究を変革し、将来の課題に備えるために、CASTマウスはすぐにでも利用可能です。同様に重要なのは、この研究が科学における遺伝的多様性の重要な役割を強く訴えているということです」とDr. ローゼンタールは述べました。

 

ジャクソン研究所について

ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立癌研究所指定のがんセンターを有し、米国、日本、中国の各地に約3,000名の従業員を擁しています。その使命は、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。詳細については、 www.jax.org をご覧ください。

JAXメディア担当:Cara McDonough  cara.mcdonough@jax.org

 

英語原文: CAST mouse model: A crucial tool for future Covid-19 outbreaks at the Jackson Laboratory

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