ジャクソン研究所の研究者は、ヒトのさまざまな病気を研究するために、マウスをより強力なツールにします
Research Highlight

カテゴリー:遺伝モデル作製

By Mark Wanner

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染色により大脳皮質のさまざまな層に見られる神経前駆細胞の種類が識別できます。

新しいプロトコールは、研究者がマウスとヒトの細胞を直接比較するための準備を整え、遺伝的多様性をマウスベースの研究に容易に組み込み、ヒトの健康状態により近づけてくれます。

[メイン州バーハーバー 2024年4月3日]ヒトにおいては、特定の遺伝子におけるまったく同じ変異が、大きく異なる結果を引き起こすことがあります。これは、異なるレシピに同じ量の塩を加えるのと似ています。他の材料の組み合わせによって、完成した料理への影響がまったく異なる場合があるのです。ジャクソン研究所(JAX)の研究者たちは、このようにさまざまな突然変異の結果の背後にある理由を研究するための強力なプラットフォームを開発しました。本日 Science Advances誌 に掲載されたこの研究は、治療介入の標的を明らかにする新たな機会を提供するだけでなく、 遺伝的多様性 の観点からヒトの疾患を研究するという重要なニーズに対処する上で、非常に大きな前進を意味します。

JAXのProfessor Dr. Martin Pera (マーティン・ペーラ)とAssociate Research Scientist Dr. Daniel Cortes (ダニエル・コルテス)およびその同僚によって開発されたこのプラットフォームは、8つの異なるマウス系統の幹細胞を使用して、ヒトに見られる遺伝的多様性を再現しています。このプラットフォームを使用することで、ヒトの自閉症、小頭症、知的障害と長い間関連付けられていたDYRK1A遺伝子に対する遺伝的背景の影響を調査することができました。その結果、8種類のマウス系統の幹細胞でDYRK1Aの機能を化学的に阻害するか、DYRK1A遺伝子をノックアウトしたところ、ニューロンの成長と修復に著しく異なる効果が生じ、何が自閉症の発症に対して抵抗性や脆弱性を与えるのかについての分子学的知見が得られました。

「1つの系統だけを用いていたら、これほど驚くべき多様性を認めることはできなかったでしょう。しかし8つの系統を用いることで、ディッシュの中の幹細胞モデルが病気の原因となる突然変異(この場合は自閉症スペクトラム症)に対する個体の感受性や回復力を正確に予測できることを示しました。感受性の高いマウス系統と回復力のあるマウス系統を細胞レベルで注意深く比較することで、治療介入の標的となり得るものを特定することもできました」とDr.ペーラは語っています。

このプラットフォームを作成するために、Dr.ペーラ、Dr.コルテスとJAX Associate Professorsの Dr. Laura Reinholdt (ローラ・ラインホルト)および Dr. Kristen O’Connell (クリステン・オコンネル)を含む同僚は、大きな壁を克服する必要がありました。一般的に用いられるプロトコールを使用してニューロンに分化させることができるのは、マウス系統129S1/SvlmJ(129)の幹細胞のみでした。そこでJAXの研究チームは、8つの系統すべてで機能するプロトコールを開発し、修正を加えることで複数種類のニューロンを高効率で生成しました。これは、まさにイノベーションです。

以前の研究で、Dr.ペーラは、幹細胞になるように誘導できる成人の皮膚細胞または血液細胞に由来するヒト人工多能性幹細胞(iPSC)におけるDYRK1Aについても調査していました。これらの幹細胞は、遺伝子から特定の指令が与えられると、体内の任意の細胞に再分化することができます。この状態は多能性として知られています。マウス細胞株用に開発されたプロトコールは、複数の多能性ヒト幹細胞株から同じ種類のニューロンを効果的に作製することができ、マウス細胞プラットフォームで得られた結果を実証しました。

さらなる研究により、マウス系統のうちC57BL/6J(B6)が、神経細胞の特異化および増殖中に低DYRK1Aレベルまたは阻害に対するヒトiPSCの応答を最も厳密にモデル化していることが明らかになりました。最も影響を受けなかった系統は、WSB/EiJ(WSB)とNZO/HlLtJ(NZO)でした。B6とWSBも軸索損傷に対して非常に異なる反応を示しました。こうした違いは神経発達障害に関与するとされてきましたが、系統間の包括的な比較により、この違いを決定する分子メカニズムが明らかになりました。

最後に Dr.ペーラのチームはJAXでDr. Zhong-Wei Zhang(ゾンウェイ・ジャン)と協力して生きたマウスを使用して研究し、マウス幹細胞で観察されたB6の感受性が生体システムに反映されているか、あるいは反映されていないかを確認しました。B6の背景を持つマウスでは、Dyrk1aのコピーが1つ失われただけでも生存産子が得られないのに対して、129マウスなど他の背景のマウスでは産子の生存に影響がなかったためです。しかしB6と129を交配すると、ヒトにおけるDYRK1A変異に関連する臨床的特徴を有する生存産子が得られ、アルツハイマー病、ダウン症候群、小頭症、自閉症、知的障害などの疾患を研究するうえで効果的なマウスモデルとなる可能性が示されました。

「この研究は、遺伝的多様性を疾患モデルに組み込むことの大いなる有効性を示しています。in vitroの研究で幹細胞を使用することで、マウスとヒトを直接比較し、ペトリ皿での結果を生体全体での結果と結び付けることができます。このアプローチは疾患遺伝学の分野で幅広く応用でき、マウスを用いた正確な疾患モデル化を前進、加速させるでしょう」とDr.ペーラは語っています。

ジャクソン研究所について

ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立がん研究所指定のがんセンターを有し、米国、日本、中国の各地に3,000名を超える従業員を擁しています。 JAXの使命は、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学 コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。詳細については、 www.jax.org をご覧ください。

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: JAX researchers make mice a more powerful tool to study a wide range of human diseases

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