研究者たちは、晩期発症型アルツハイマー病研究用のマウスモデルの完成に近づきつつあります
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カテゴリー:神経科学モデル作製

ジャクソン研究所の画期的な成果は、認知症の理解と治療に向けた取り組みを加速させる可能性があります。

【メイン州バーハーバー 2024年7月24日】マウスはアルツハイマー病にはなりません。これはマウスにとっては朗報ですが、この病気を理解し、新しい治療薬をテストしようとしている生物医学研究者にとっては大きな問題です。現在、ジャクソン研究所(JAX)の研究者は、遺伝的に晩期発症型アルツハイマー病にかかりやすい初のマウス系統の作製に取り組んでいます。このマウスは認知症研究に変革を起こす可能性があります。

ヒトの場合、アルツハイマー病のはっきりとした特徴の2つは、脳細胞間のアミロイド斑と、ニューロン内のタウタンパク質のもつれです。しかし、マウスでは、細胞間にアミロイド斑が生じても細胞内タンパク質のもつれを引き起こさないため、マウスは重大な認知障害を発症しません。「アミロイド斑を研究するためのマウスモデルを作製するのは簡単です。しかし、そのモデルで再現できるのはアルツハイマー病の非常に限られた側面だけです。そして、そのモデルで病気を治すことができるのであれば、20年前に実現していたでしょう」と語るのはJAXのBernard and Lusia Milch寄付講座教授の Dr. Greg Carter (グレッグ・カーター)です。彼は、JAXの同僚であるDr. Gareth Howell(ギャレス・ハウエル)、Dr. Mike Sasner(マイク・サスナー)とともに、Model Organism Development and Evaluation for Late-onset Alzheimer’s Disease ( MODEL-AD :晩期発症型アルツハイマー病のモデル生物開発および評価)のコンソーシアムを率いています。

アルツハイマー病の複雑さを正確に反映する新しいマウスの系統を開発するために、Dr.カーターの研究チームは、この病気に関連する70以上の遺伝子を特定した最近のゲノムワイド研究を活用しました。彼らはCRISPR遺伝子編集を使用して、JAXのDr.サスナーならびにDr.ハウエルと協力し、アルツハイマー病に関連するさまざまな遺伝的要因を11 の別々の系統のマウスに導入し、マウスを成熟まで育てて、遺伝子変異が脳の健康にどのような影響を与えるかを調べました。

しかし、ここで別の問題が生じました。マウスがアルツハイマー病を発症しているかどうかは、どうすればわかるのかということです。「マウスはすごく頭が良いとは言えないので、病気が認知能力に影響しているかどうかを確認するのは本当に難しいのです。あらゆる行動指標も、多動や感覚障害などの他の要因によって容易に複雑化する可能性があります。そのため、マウスの認知に焦点を絞ったことで、この分野は完全に方向を見失ってしまいました」とDr.カーターは説明しています。Dr.カーターの論文は、Alzheimer’s Association(アルツハイマー病協会)の雑誌 「Alzheimer’s & Dementia(アルツハイマー病と認知症)」7月号 に掲載されています。

この問題を克服するために、JAXチームはトランスクリプトミクス(遺伝子が細胞内で転写され「活性化」される方法を明らかにする技術)を使用して、マウスの脳に認められる生物学的特徴を、アルツハイマー病患者の死後脳の特徴と比較しました。「マウスとヒトの脳を分子生物学的に比較することで、両者に共通する部分や、特定の遺伝子がアルツハイマー病の病態のどの部分に影響を与えているかを確認できます。これは、11種類の遺伝子変異すべてが病気に及ぼす影響を非常に体系的にマッピングする方法です」とDr.カーターは述べました。

トランスクリプトミクスを使用すると、新しい治療薬をテストするためのより明確な基準も得ることができます。たとえば、アルツハイマー病に関連する炎症を防ぐことを目的とした薬の場合、炎症に特有の「トランスクリプトーム解析における遺伝子発現パターン」への影響を評価することができます。「このアプローチでは、マウスでは識別しにくい行動の変化をあまり気にせずに、治療薬が効果を発揮しているかどうかを分子レベルで評価できます。前臨床研究では、従来の方法と比べてかなり正確で効率的です」とDr.カーターは語っています。

しかし、まずDr.カーターと研究チームは、個々の遺伝的要因の影響をマッピングする必要があります。そして、それらを組み合わせ、アルツハイマー病の主要な生物学的特徴をすべて示す単一のマウス系統を作製する方法を見つけ出さなければなりません。別のプロジェクトでは、Dr.カーターの研究チームは十数個の追加遺伝子をテストしました。現在、彼らはそれらの遺伝子を単一のマウスモデルとして組み合わせる最も効果的な方法を見つけようとしています。「私たちは研究した遺伝子を組み合わせる方法を見つけ出すために機械学習を利用しました。現在、一度に3つまたは4つの遺伝子を組み合わせる研究を準備しており、より完全なアルツハイマー病モデルのマウスを作製できると期待しています」とDr.カーターは言っています。

認知症に関するマウスモデル研究のほとんどが単一遺伝子の影響に焦点を当てていることを考えると、これは重要な一歩です。「さまざまな遺伝子が認知症のリスクを高める可能性はありますが、どの遺伝子も単一でアルツハイマー病を引き起こすことはありません。遺伝学は複雑に機能するからです。JAXで研究することで、複数の系統を育て、数十の遺伝子を並行して研究し、最終的にアルツハイマー病の研究に最適なモデルに焦点を絞ることが可能になりました」とDr.カーターは説明しました。

「アルツハイマー病モデルのマウスがどれだけ価値があるかは分かっています。この研究により、その目標は手の届くところまで近づいています」とDr.カーターは付け加えました。

 

ジャクソン研究所について

ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立がん研究所指定のがんセンターを有し、米国、日本、中国の各地に3,000名を超える従業員を擁しています。 JAXの使命は、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学 コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。詳細については、 www.jax.org をご覧ください。

JAXメディア担当: Cara McDonough  cara.mcdonough@jax.org

 

英語原文: Mouse model for Alzheimer’s research - The Jackson Laboratory (jax.org)

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