記憶が時間とともに失われる仕組み
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カテゴリー:神経科学

Dr. Kristen O’Connell(クリステン・オコンネル)は、脂質の研究を通じて、記憶が時間とともに失われる仕組みや、記憶を維持する方法を解明しようとしている。

私たちが年齢を重ねていく過程で、脳はどのように明晰さを保つのでしょうか?そして、それを失ったとき何が起こるのでしょうか。ジャクソン研究所(JAX)の神経科学者、Dr.クリステン・オコンネルは、この難問に真正面から取り組んでいます。彼女の研究は、脳のさまざまな領域がどのように情報を伝達しているのか、アルツハイマー病などの疾患でその仕組みがどのように崩れるのか、そしてその喪失が記憶やアイデンティティにどんな影響を与えるのかを探るものです。これは複雑なパズルですが、彼女はそれを解き明かすことを目指しています。

Dr.オコネルのインタビューは 英語原文記事 からご覧いただけます。

JAXのAssociate ProfessorであるDr.オコンネルは、タンパク質と脂質が脳細胞の機能や情報伝達にどのように関わっているのかに強い関心を持っています。彼女の研究室では、これらの小さな分子を細胞レベルで調べ、記憶や認知をどのように支えているのか、そしてその仕組みがうまく働かないときに何が起こるのかを解明しようとしています。

脂質がアルツハイマー病の経過をどのように変えることができるか

脂質は、脳細胞のつながりを保つために欠かせない、柔らかく脂肪酸を含む分子です。私たちはニューロンに注目しがちですが、実際の力は「シナプス」と呼ばれる小さな接続部にあります。ここでニューロン同士がメッセージをやり取りしています。脂質はこの接続部でクッションの役割を果たし、安定性と強度を保っています。しかし、このクッションが摩耗すると、接続が不安定になり、アルツハイマー病などの認知症に見られる記憶障害や認知機能の低下につながる可能性があります。

Dr.オコンネルは「神経可塑性」、つまり脳が変化し再編成する能力に強い関心を持ち、その背後にある複雑なメカニズムを研究で解明しようとしています。「いつでも遺伝子ですべてが説明できるわけではありません」と彼女は語ります。特に老化した脳では、タンパク質の量と遺伝子の活性が必ずしも一致しないと彼女は指摘します。この不一致こそが、加齢による脳機能低下の主な原因である可能性があります。

彼女は現在、JAXの Protein Sciences service team (タンパク質科学サービスチーム)と協力し、最先端技術を駆使してこの研究を加速させています。この 最先端の質量分析システム により、科学者は個々の細胞内に存在するタンパク質を詳細に分析することができます。これは数年前にはほぼ不可能だった技術です。JAXはこのツールを利用できる数少ない研究機関の一つであり、新たな診断法や治療法につながる可能性のある発見を後押ししています。

研究の原動力

Dr.オコンネルの研究には、深い個人的な背景があります。幼い頃から科学への興味を支えてくれた祖母は、2014年に亡くなるまで約20年間、アルツハイマー病と闘っていました。症状が徐々に進行していく様子を目の当たりにした経験は、彼女に強い印象を残し、現在の研究に大きな影響を与えています。

Dr.オコンネルは、アルツハイマー病やその他の認知症が単なる記憶喪失にとどまらず、もっと深刻な問題を抱えていると指摘します。これらの疾患は、人格や人間関係、社会との関わり方など、その人の存在そのものに影響を及ぼします。研究者として、彼女は病態を研究する際、常に患者とその家族の視点を忘れません。この考え方が、アルツハイマー病や関連する認知症の複雑さを正確に反映し、多様な側面に対応できるより優れたモデルを開発するための共同研究を推進する原動力となっています。

今後目指すもの

Dr.オコンネルは、今後5〜10年で脳内の脂質、タンパク質、代謝物に関する理解の大きなギャップを埋め、神経変性疾患に苦しむ患者とその家族に真の答えを提供することを目指しています。「私たちは、これまで見ることができなかったほど詳細なレベルで、脳の働きを観察できるようになります」と彼女は語っています。

 

英語原文: www.jax.org/news-and-insights/2025/october/the-memory-link

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