新しい研究により、遺伝子が網膜の老化と脳の健康にどのように影響するかが明らかになります
Media Release

糖尿病と肥満の遺伝的素因を持つ若齢マウスの網膜スキャン。時間の経過とともに、網膜は糖尿病性網膜症(血管が異常に腫れたり成長したりする症状)に一致する変化を起こす。
JAXの研究者たちは、9つの異なる遺伝的背景を持つマウスを使用して、眼の老化に影響を与える要因を特定し、眼に基づく神経変性疾患の診断への道を開いた
【メイン州バーハーバー 2025年2月18日】加齢に伴う視力の変化は避けられないものですが、加齢に伴う眼病にかかりやすい人や、他の人よりも深刻な視力低下を経験する人がいるのは何故でしょうか。ジャクソン研究所 (JAX) の新しい研究により、遺伝が眼の老化に重要な役割を果たしており、遺伝的背景によって網膜の老化が異なる形で現れることが明らかになりました。
Molecular Neurodegeneration に掲載されたこの研究では、9系統のマウスを使用して、ヒトに見られる遺伝的なばらつきを模倣し、網膜の遺伝子とタンパク質の加齢に伴う変化を調べました。すべてのマウスが予想された老化の兆候を示しましたが、これらの変化の程度と性質は9系統のマウス間で大きく異なっていました。
眼の老化をより正確にモデル化するアプローチ
従来、網膜の老化と疾患に関する研究は、遺伝的に同一なマウスの単一系統を使用していたため、研究者が遺伝的なばらつきの役割を理解するには限界がありました。「加齢に伴う眼疾患の研究における課題は、加齢が不均一であることです。1つの系統のマウスで老化がどのように起こるかを観察しても、それがすべてのマウス、あるいはヒトに当てはまるとは限りません。私たちは過去の研究の限界を克服するために、遺伝的背景が網膜の老化をどのように促進するかを知りたいと考えました」と、研究を率いたJAXのProfessorであり、Diana Davis Spencer FoundationのChair for Glaucoma Researchである Dr. Gareth Howell (ギャレス・ハウエル)は述べました。
Dr.ハウエルと彼の研究チームは、ヒトの多様性をより反映するように設計された、遺伝的背景の異なる9種類のマウス系統を活用し、若齢マウスと老齢マウスにおける加齢に伴う遺伝的・分子的変化のデータを生成しました。このデータセットが 公開された ことで、Dr.ハウエルと研究チームは、この研究結果が老化と視力低下を研究している他の科学者の役に立つことを期待しています。また、この研究は、神経減少を予測するうえで脳への窓である眼の有用性を向上させる可能性もあります。
遺伝子とタンパク質の分析で眼疾患を予測
この研究で最も重要な発見の1つは、ヒトの網膜疾患に非常によく似た症状を示す2つのマウス系統を特定したことです。研究者たちは、人間が定期的に検眼医の診察を受けるのと同じような眼科検査を実施し、Watkins Star Line B(WSB)系統が加齢性黄斑変性症と網膜色素変性症 (遺伝性の稀な失明) の特徴を呈し、重度の肥満と糖尿病で知られるNew Zealand Obese(NZO)系統が糖尿病性網膜症を発症することを発見しました。さらに、両系統のマウスの遺伝子とタンパク質を分析することで、一般的な加齢性眼疾患を発症することが予測されました。
「私たちが生成した分子データから、これら2つの系統において特定の網膜細胞異常が予測されたことは期待の持てる結果でした。NZOの網膜神経節細胞に分子レベルで特有の変化が見られたとき、予想どおり、それらの細胞に劇的な機能変化が見られました」と、JAXのポスドク研究員で、この新しい論文の共同筆頭著者であるDr. Olivia Marola(オリビア・マローラ)は語りました。
これらのマウスモデルにより、研究者はこれらの病気がどのように進行するかを研究し、可能性のある治療法を模索することができるようになると、この研究の共同筆頭著者でありポスドク研究員であるDr. Michael MacLean(マイケル・マクリーン)は説明しています。
また、他の科学者が老化関連の研究でどのマウスモデルを使用するかを選択したり、眼の老化の加速や白内障、緑内障、黄斑変性、糖尿病性網膜症などの眼疾患に関連する個々の遺伝子を特定するためのさらなる研究を実施したりするうえで役に立つ可能性があります。
アルツハイマー病のバイオマーカーとしての網膜
この研究は、視覚研究にとどまらず、神経変性疾患にも幅広く影響を与える可能性があります。網膜は脳に直接繋がっているため、網膜がどのように老化するかを理解することで、アルツハイマー病やその他の認知症などの症状に関する手がかりを得られる可能性があります。
「眼は極めて重要な器官であり、この研究は老化の理解における重要なギャップを埋めるものです。しかし、それ以上に、眼は脳への窓です。健康な眼がどのように老化するかを理解することで、アルツハイマー病などの病気の発症リスクを判断することを目的とした眼の新たな活用方法に取り組むことができるかもしれません」とDr.ハウエルは語りました。
ジャクソン研究所について
ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立癌研究所指定のがんセンターを有し、研究、教育、リソースの独自の組み合わせを活用して、その大胆な使命を達成しています。その使命とは、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。1929年にメイン州バーハーバーに設立されたJAXは、メイン州、コネチカット州、カリフォルニア州、フロリダ州、日本の各施設で約3,000名の従業員を有するグローバルな研究機関です。詳細については、 www.jax.org をご覧ください。
JAXメディア担当:Cara McDonough cara.mcdonough@jax.org
英語原文: New study uncovers how genes influence retinal aging and brain health at the Jackson Laboratory