JAXの研究者は、創薬のイノベーションを推進するために遺伝的に多様なモデルを提唱しています
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カテゴリー:遺伝
遺伝的に多様なマウスモデルは、病気を理解し治療方法を探るうえで期待されているモデルです。標準化されているものの制限を有するマウスモデルや細胞モデルに比べて大幅な改善をもたらします。
[メイン州バーハーバー 2024年8月14日]ジャクソン研究所(JAX)の研究者たちは、病気の理解と治療方法に革命をもたらす可能性のある創薬の新たなアプローチを発表しました。8月14日発行のNature Biotechnologyに掲載された commentary では、従来のマウスモデルを使用した研究の限界について説明し、遺伝的に多様なマウスやマウスとヒトの細胞を使用して、薬や病気に対するヒトの反応をより正確に予測することを提案しています。
科学者たちは何十年もの間、ヒトの病気を研究し、新薬をテストするために近交系マウスに頼ってきました。しかし、これらのマウスは、特に癌や糖尿病のような複雑な病気の場合、ヒトにおける疾患を正確に再現できないことがよくあります。FDA(アメリカ食品医薬品局)は最近、「近代化法 2.0」を通じて動物実験の代替手段を許可する決定を下しました。このことは、より信頼性の高い解決策を見つけることの緊急性を浮き彫りにしています。
JAXのMammalian Genetics Scientific DirectorのDr. Nadia Rosenthal(ナディア・ローゼンタール、F.Med.Sci)とその同僚は、マウス自体が問題なのではなく、使用されているモデルにおける遺伝的多様性の欠如が問題なのだと大胆に主張しています。単一の近交系に頼ると、一貫性がなく、信頼できない結果につながることが多く、さまざまな病気に対するよりよい治療法を見つけるうえで不必要な障害を生み出します。
より正確な新しいアプローチ
JAXの研究者たちは、遺伝的に多様なマウスモデルの使用と細胞ベースのテストを組み合わせて、マウスとヒトのデータをより正確に一致させるという統合的なソリューションを提案しています。このアプローチでは、遺伝的に多様なマウスとヒトの集団ですでに利用可能な豊富な遺伝資源を最大限に活用して、より正確で目的に適した疾患モデルを作成します。
「遺伝的に多様なマウスモデルを使用することにより、ヒトの病気を再現する上で既に目覚ましい改善がもたらされています。この方法は、病気の進行やさまざまな治療に対する患者の反応についての理解に革命をもたらす可能性があります」とDr.ローゼンタールは語っています。
実臨床への影響
遺伝的に多様なマウスを使った研究により、心臓病、がん、糖尿病などの病気に関する貴重な知見がすでに得られています。たとえば、化学療法の副作用に関する最近の研究では、患者の治療への反応に影響を与える遺伝的要因が特定され、がん患者に対するより個別化された効果的な治療法開発に繋がりました。またヒトの心臓発作による心臓への損傷は、その程度も種類(瘢痕化、拡張など)もさまざまですが、その原因となっている複雑な遺伝的背景は、単一の近交系マウスでは再現できません。一方、遺伝的に多様なマウスパネルでは、ヒトと同様の多様な結果が示すことができます。
この新しいフレームワークは、マウスとヒトのデータを組み合わせることの重要性を強調しています。ヒトの細胞を使用したテストは有用ですが、ヒトの病気の複雑さを完全に把握するには不十分な場合がよくあります。遺伝的に多様なマウスモデルの細胞は、このギャップを埋めるのに役立ち、研究結果を実臨床の患者に直接当てはめられることを保証してくれます。
終わりと始まりが視野に
2,000の新しい系統は素晴らしいマイルストーンですが、やるべきことはまだたくさんあります。プロジェクトが予定通り完了すると、KOMP2、IMPC、科学コミュニティの共同作業により、遺伝子の90%以上をターゲットにした哺乳類ゲノム機能の概要が完成します。したがって、公式のKOMP2プロジェクトの終了は、始まりでもあります。つまりこれは、さらなる発見と人々の健康の向上のために複雑な生物学を探求する中で、あらゆる種類の遺伝学調査の出発点となるのです。
新しいアプローチの呼びかけ
Dr.ローゼンタールの研究チームは、倫理的懸念を尊重しつつ科学的ベネフィットを最大化する、新しいバランスのとれたアプローチを提唱しています。彼らは、標準化されているものの制限を有するマウスや細胞モデルを使用するのをやめ、遺伝的多様性と環境要因を考慮した実験計画を採用するよう研究コミュニティに促しています。in vitroとin vivo両方の試験系の長所を組み合わせることで、研究者はヒトの病気を研究し、新しい治療法をテストするための、より効果的で人道的な方法を開発できるようになるでしょう。
ジャクソン研究所について
ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立がん研究所指定のがんセンターを有し、米国、日本、中国の各地に3,000名を超える従業員を擁しています。 JAXの使命は、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学 コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。詳細については、 www.jax.org をご覧ください。
JAXメディア担当: Cara McDonough cara.mcdonough@jax.org
英語原文: JAX researchers call for genetically diverse models to drive innovation in drug discovery