免疫毒性を伴わない免疫療法
Research Highlight

カテゴリー:がん免疫

By Mark Wanner

Serreze Rosenthal group

Dr.セレゼとDr.ローゼンタール研究室グループのメンバー。左から3人目がDr.ナディア・ローゼンタール、(そこから右へ)Dr.ジョン・バックマン、Dr.ジェレミー・ラシーヌ、Dr.デヴィッド・セレゼ。
写真提供: ティファニー・ラウファー

免疫チェックポイントを阻害する免疫療法はがん治療に革命をもたらしましたが、重篤な副作用を伴う場合があり、時に致命的な副作用を伴うことがあります。Journal of Immunologyで「top read」に選ばれた論文で、Dr. David Serreze(デヴィッド・セレゼ)率いる研究チームは、免疫チェックポイント阻害による心臓と骨格筋への重篤な損傷を研究するためのマウスモデルを発表しました。このモデルは、この重要な治療法のベネフィットを最大化し、副作用を最小限に抑える方法を見つけ出すための重要なリソースとなります。

免疫チェックポイント阻害剤によって、以前には治療不可能だったものも含め、多くのがんに対して効果的な免疫療法戦略が生まれました。キイトルーダ(抗PD-1抗体)やヤーボイ(抗CTLA-4抗体)などの薬剤は、がん細胞への免疫反応を妨げる「チェックポイント」を阻害し、多くの場合、免疫による腫瘍の排除につながります。残念ながら、チェックポイントを阻害すると自己免疫活性を引き起こす可能性もあり、心臓(心筋炎)や骨格筋(筋炎)の細胞への損傷はまれではありますが、発生した場合は特に重篤で、しばしば致命的な副作用となります。残念ながら、これに関与する基本的な免疫プロセスはまだ十分に理解されていません。

ジャクソン研究所(JAX)の Dr. David Serreze (デヴィッド・セレゼ)が主導する研究は、免疫チェックポイント阻害剤関連の心筋炎および筋炎をブロックする方法を研究する研究者にとって、強力な新しいリソースを提供しました。「Murine MHC-Deficient Nonobese Diabetic Mice Carrying Human HLA-DQ8 Develop Severe Myocarditis and Myositis in Response to Anti-PD-1 Immune Checkpoint Inhibitor Cancer Therapy(ヒトHLA-DQ8を有するMHC欠損非肥満糖尿病マウスは、抗PD-1免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療に反応して重度の心筋炎および筋炎を発症する)」はJournal of Immunologyの4月号のカバーストーリーであり、「 top read 」に選ばれています。この論文では、この研究チームが免疫チェックポイント阻害剤関連の心筋炎および筋炎のマウスモデルを紹介し、その根底にあるメカニズムに関する研究も報告しています。

重篤な副作用のモデル化

2024年4月15日発行のJournal of Immunologyの表紙には、JAXの Dr.デヴィッド・セレゼ、Dr.ジョン・バックマン、Dr.ジェレミー・ラシーヌ、Dr.ナディア・ローゼンタールと研究チームメンバーによる研究画像が掲載されています

リサーチ・サイエンティストの Dr. Jeremy Racine (ジェレミー・ラシーヌ)、JAX Mammalian Genetic ResearchのProfessor兼Scientific Directorの Dr. Nadia Rosenthal (ナディア・ローゼンタール、F.Med.Sci.)も含まれるこの研究チームは、1型糖尿病などの自己免疫疾患を発症する非肥満性糖尿病(NOD)マウスを使用した研究を行っています。免疫チェックポイント阻害剤の副作用を調査するため、CRISPR/Cas9ゲノム編集法を用いて免疫システムの主要な要素を排除し、どの免疫細胞サブタイプが心筋炎や筋炎に寄与しているかを調べました。そして、心臓と骨格筋のT細胞の特性解析を徹底的に行い、それらに共通する特徴と固有の特徴を特定することができました。

NOD-cMHCI/II-/-.DQ8というこの新しいマウスモデルは、一般的ながん免疫療法戦略であるPD-1免疫チェックポイントを阻害する治療後に自然発生する心筋炎や心不全に非常にかかりやすいモデルです。また、横隔膜とヒラメ筋の筋線維に損傷が認められ、筋炎にもかかりやすいことを示していました。抗PD-1抗体による治療後、研究チームは、通常は病原体の排除に関連する適応免疫システムの一部であるT細胞を心臓と骨格筋の両方から分離し、それらが両方の組織タイプを標的にできることを認めました。さらに研究を進め、関与するT細胞サブタイプの特性解析を行った結果、従来選択されてきたCD8+ T細胞は新しいモデルの疾患には必要ないことが判明しました。疾患を発症させるには、異なるT細胞サブセットであるCD4+で十分な場合もあれば、他のT細胞サブセットが関与している場合もあります。このモデルを使用したさらなる研究を行うことで、関連する具体的なメカニズムが明らかにするのに役立つでしょう。

免疫療法の重要性

がん免疫療法の普及が進むにつれ、患者集団で観察される副作用をより深く理解し、副作用を軽減することが急務となっています。NOD-cMHCI/II-/-.DQ8モデルは、免疫療法誘発性心筋炎および筋炎を研究するうえで非常に効果的なリソースとなります。これらの重篤な副作用の根底にある免疫病理を理解することは、副作用のリスクが特に高い患者を予測し、副作用の予防に役立つようにカスタマイズされた治療アプローチを開発するうえで不可欠です。

 

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: New mouse model provides important immunotherapy resource (jax.org)

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