疲弊した免疫細胞を再活性化させることで、がんの潜在的な治療ターゲットが明らかになる
Research Highlight
By Mark Wanner
好塩基球という希少な免疫細胞の助けを借りて、疲弊したT細胞に再び活力を与えることで、免疫系を活性化させ、がんと闘うことができます。
[メイン州バーハーバー 2024年6月5日]腫瘍を取り巻くエコシステムは腫瘍微小環境とも呼ばれ、免疫細胞、組織、血管、その他の細胞が含まれますが、それらの構成要素同士で相互作用するとともに、腫瘍とも相互作用します。時間の経過とともに、腫瘍はこのエコシステムを自らの利益になるように形作り、すべての栄養素を独占し、自らを免疫攻撃から保護します。ジャクソン研究所(JAX)の研究者たちは、がんのリスク・進行・治療におけるエコシステムの役割を理解するために、2種類の免疫細胞ががんと戦うためにどのように連携するかを特定しただけでなく、そうした免疫攻撃の調整を助ける分子カスケードの存在も明らかにしました。
JAXのAssistant Professor Dr. Chih-Hao “Lucas” Chang (チハオ・ルーカス・チャン)が率いるこの研究は、細胞傷害性T細胞に焦点を当てています。細胞傷害性T細胞は、ウイルスに感染した細胞を破壊したり、細菌感染やその他の病原体と戦ったりするなど、多くの機能を持つ免疫細胞です。細胞傷害性T細胞は腫瘍細胞も攻撃します。私たちの免疫システムは、がん細胞が問題を引き起こす前に、そのほとんどを体から排除することができます。しかし腫瘍が形成されると、細胞傷害性T細胞は敵対的な腫瘍微小環境で「疲弊」し、腫瘍を効果的に攻撃できなくなります。Dr.チャンと研究チームは、これらの免疫細胞が疲弊する理由と、これらの免疫細胞に腫瘍を再び標的とさせる方法を調べています。
「T細胞はがん化する細胞を特定して攻撃するのに優れていますが、腫瘍微小環境では疲弊してしまうことがあります。腫瘍細胞によってブドウ糖やその他の栄養素が枯渇する一方で、T細胞はオーバーワーク状態となり、過度に刺激される可能性があります。T細胞の機能向上を助けることで、がん治療戦略、特に免疫療法を改善できる可能性があります」とDr.チャンは語りました。彼の論文は Cancer Immunology Research に掲載されています。
これまでの研究で、細胞傷害性T細胞が活性化されると、サイトカインと呼ばれるシグナル伝達分子が放出されることがわかっています。Dr.チャンと研究チームは、こうしたサイトカインの1つであるインターロイキン-3(IL-3)に注目し、腫瘍が成長するにつれて、細胞傷害性T細胞が腫瘍微小環境でIL-3を生成する能力を徐々に失うことを発見しました。その後、Dr.チャンがリンパ腫または黒色腫の腫瘍を持つマウスでIL-3濃度を上昇させたところ、強力な抗腫瘍効果が認められました。
Dr.チャンの研究チームはさらに、IL-3が好塩基球を動員する働きがあることを明らかにしました。好塩基球はアレルギーにも関与する希少な免疫細胞です。そして、これらの好塩基球はインターロイキン-4(IL-4)と呼ばれる別のサイトカインを生成し、これが細胞傷害性T細胞を再活性化して、腫瘍の発見と破壊を再開するようシグナルを送ります。「好塩基球はこれまで、細胞傷害性T細胞を再活性化するシグナル伝達カスケードに関与しているとは考えられていませんでした。これらの発見は予備段階のものですが、腫瘍に関連する好塩基球を標的とすることは、抗腫瘍免疫を強化し、患者の転帰を改善する有望な手段となります」とDr.チャンは語っています。
ジャクソン研究所について
ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立がん研究所指定のがんセンターを有し、米国、日本、中国の各地に3,000名を超える従業員を擁しています。 JAXの使命は、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学 コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。詳細については、 www.jax.org をご覧ください。
JAXメディア担当: Cara McDonough cara.mcdonough@jax.org
著者:
Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。