JAXの研究者が免疫細胞の結合をマッピングし、がん患者の生存期間を予測する方法を発表
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カテゴリー:がん免疫

抗原提示細胞(ピンク)がT細胞(青)に異物を提示すると、免疫反応が開始される。T細胞がその異物に結合すると、免疫シナプスが形成される。Dr. Jeffrey Chuang(ジェフリー・チュアン)は、乳がんの周辺で形成されるシナプスが多いほど、患者の生存期間が長くなる傾向があることを発見した。画像提供:ジャクソン研究所のクリエイティブチーム

ジャクソン研究所の研究者たちは、乳がんと黒色腫における免疫細胞間のつながりを研究するために、画像化と計算手法を組み合わせた新しいアプローチを開発しました。

【コネチカット州ファーミントン 2024年10月29日】増殖中のがんを形作っているのは、腫瘍細胞だけではありません。腫瘍の周囲の組織もその生物学的特徴を変化させます。現在、ジャクソン研究所(JAX)の研究者たちは、高度な画像化技術と新しい計算手法を組み合わせて、免疫細胞がどのように相互作用するかをかつてないほど詳しく調査しています。その結果、乳がんや黒色腫の周囲の免疫細胞間の相互作用を利用して、がんに対する免疫反応や患者の転帰を予測できることが明らかになりました。

JAXのProfessorで、この新しい研究の主任著者である Dr.ジェフリー・チュアン が主導する新たなアプローチによって、例えば、ある2種類の免疫細胞間の相互作用が多いほど、乳がん患者の生存期間が長くなる傾向があることが示されました。この研究は、 JAX がんセンター の所長であり、がん研究のEdison T. Liu Endowed Chair(エジソン・T・リュー寄付講座教授)でもあるJAXのProfessor Dr. Karolina Palucka との共同研究であり、最近、Communications Biologyオンライン先行公開版 に掲載されました。

「研究者たちは、免疫細胞、血管、シグナル伝達分子を含むこの複雑なコミュニティをさらに特徴づけることで、がんがどのように成長し、広がり、治療に反応するかを解明できるのではないかと長い間考えてきました。この新しい分析法により、画像化ではこれまで不可能だった水準で、細胞と分子の位置と相互作用を数値化することができます」と Dr.チュアン は語っています。

 

免疫分子

免疫細胞は、重要なシグナル伝達タンパク質を表面に輸送し、細胞間に物理的な「シナプス」を形成することで互いにコミュニケーションを行います。細胞の内部から表面へのリソースの移動は、病原体やがんに対する免疫反応を調整するのに役立ちます。
腫瘍微小環境(腫瘍の周辺領域)で免疫細胞同士がどのように相互作用しているかを理解するために、研究者は多くの場合、それらの免疫細胞を分離し、細胞の種類ごとにどの遺伝子が活性化しているかを測定します。または、特定のタンパク質に蛍光タグを付け、顕微鏡を使用して蛍光強度によって細胞内にそれらのタンパク質がどれだけ存在するかを視覚化する場合もあります。
しかし、どちらのアプローチでも、タンパク質がシナプスの細胞表面にあるのか、それが他の細胞との相互作用に寄与しているかどうか、研究者にはわかりません。

「免疫細胞がシグナル伝達タンパク質を含んでいるにもかかわらず、そのタンパク質を細胞表面で積極的に使用して他の細胞と相互作用しない理由はいくつか考えられます。タンパク質が細胞によって発現されているということを知るだけでは、全体像はわかりません」と、Dr.チュアン研究室の大学院生で、Dr. Victor Wang(ビクター・ワン)およびDr. Jan Martinek(ヤン・マルティネク)と共に共同筆頭著者であるZichao Sam Liu(ズーチャオ・サム・リウ)は説明しています。
Dr.チュアン、リウと彼らの同僚は、既存の顕微鏡データを使用して、シグナル伝達分子が免疫シナプスでどのように集合しているかを確認し、免疫細胞の相互作用の全体像をより正確に把握したいと考えました。

抗原提示細胞(緑)と接触しているT細胞(白)の超解像度の3Dレンダリング画像。接着分子(赤)がシナプスを固定している。画像提供:ジャクソン研究所

 

新しい分析技術

研究チームは、計算免疫シナプス分析(CISA: Computational Immune Synapse Analysis)と呼ばれる手法を開発しました。この手法では、組織内のどの細胞が物理的に互いに接触しているかだけでなく、それらの接触点に重要な分子が集中しているかどうかも検出します。
この技術は、免疫細胞の画像を分析し、細胞の辺縁部と免疫シナプスと思われる構造を強調表示し、タグ付けされた分子の位置と比較します。
研究者たちは、免疫系のT細胞に焦点を当て、CISAを使用して、ヒトの黒色腫サンプルの腫瘍微小環境の既存の画像内でT細胞と他の免疫細胞との相互作用を特定できることを示しました。

「特定のタンパク質が細胞間の接触面に局在しているのが見られれば、それらがシナプスを形成していると考え、細胞が相互作用していることを意味します。私たちの手法により、初めて本来の腫瘍環境でこれを数値化できるようになりました」とDr.リウは語りました。
さらに実験を行ったところ、病原体や腫瘍細胞を飲み込んで消化するマクロファージとT細胞との間のシナプスが、T細胞の増殖亢進と関連していることが明らかになりました。

 

臨床的意義

研究チームは次に、乳がんのサンプルにおける免疫細胞間の相互作用が、がん自体の進行に何らかの影響があるかどうかをテストしました。実際、彼らは、T細胞と別の種類の免疫細胞であるB細胞との間のつながりが強いほど、患者の生存率が向上することを発見しました。この知見は、最終的には、患者の転帰を予測する新しい方法、免疫治療から最も恩恵を受ける患者を選択する方法、さらには新しい免疫療法の開発につながる可能性があります。

このような結果こそがCISAの究極の目標、つまり生物学的に重要な細胞相互作用の新しいパターンを拾い上げることです。Dr.チュアンの研究室のグループは、この画像分析プラットフォームを他の科学者向けにオンラインで公開しており、最終的にはあらゆる種類の細胞間の接触を分析するために使用できると述べています。また、このプラットフォームは、さまざまな種類の画像を分析することができます。黒色腫のサンプルはヒストサイトメトリー(histocytometry)で画像化されたのに対し、乳がんのサンプルはイメージング質量サイトメトリー(IMC:imaging mass cytometry)で画像化されています。
「私たちはこれを幅広く応用できる使いやすいパッケージにしようと努めてきました」とリウは語っています。Dr.チュアンとリウは、この方法を他の種類の腫瘍や免疫細胞にも応用し、腫瘍微小環境とそれががんに与える影響についての知見をさらに深める予定です。

 

ジャクソン研究所について

ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立癌研究所指定のがんセンターを有し、米国、日本、中国の各地に約3,000名の従業員を擁しています。その使命は、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。詳細については、 www.jax.org をご覧ください。

JAXメディア担当:Cara McDonough  cara.mcdonough@jax.org

 

英語原文: JAX researchers unveil method to map immune cell connections

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