ゲノム医療はがん患者にとって大きな利益をもたらすという研究結果
Press Release

カテゴリー:遺伝がん

By Mark Wanner

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ゲノム医療キャンサーボードに出席しているChief Medical Officer兼MCGIメディカル・ディレクターのDr. イェンス・ロイター
写真提供: ティファニー・ローファー

メイン州のがん患者が、標的療法戦略の指針を得るためにがんゲノム検査を受けたところ、良好な転帰が得られました。しかし、検査と治療の間には依然としてギャップが存在しています。

[メイン州バーハーバー 2024年5月1日]2016年、米国国立がん研究所指定のがんセンターであり、がん研究の最前線であるジャクソン研究所(JAX)は、メイン州農村部の患者に最新のがん治療を提供するために、Maine Cancer Genomics Initiative(MCGI)を立ち上げました。メイン州全域でがんゲノム検査と標的がん治療への アクセスを拡大することに成功した 現在、MCGIチームは、ゲノム医療が患者に大きな利益をもたらし得るという説得力のある証拠を示しています。

npj Precision Oncology に最近掲載されたMCGIの報告書では、MCGIを通じてゲノム医療を受けた患者がわずか17%に留まるというデータが提示されており、検査とゲノム情報に基づく治療実施との間に大きなギャップがあることを示しています。しかし、ゲノム医療を受けた人は、受けなかった人に比べて、1年以内に死亡する確率が31%低いという結果が示されました。これは観察研究ではありますが、この結果は、がんゲノム検査とそれに基づく治療によって1年生存率が大幅に向上する可能性があることを明確に示しています。

この観察研究では、プログラムによって腫瘍のDNA配列を分析した後、がん患者がゲノム医療を受けなかった理由は数多くあることがわかりました。一部の患者では、治療標的となる腫瘍変異が検出されなかったため、標準治療が行われました。

「それ以外の患者さんについては、治療を提供するうえでの問題がありました。患者さんたちが治療の標的となる腫瘍変異があったとしても、メイン州の農村部では実施されていない臨床試験しか治療の機会がなかったり、患者さんの地元の病院がすでに利用可能な治療法を提供できなかったりする場合がありました。」と語るのは、JAXのChief Medical Officerであり、MCGIのメディカル・ディレクターであるDr. Jens Rueter(イェンス・ロイター)です。彼は Dr. Eric Anderson (エリック・アンダーソン)とMaine Health Institute for Research(メイン州保健研究所)のCenter for Interdisciplinary Population and Health Research( CIPHR :学際的人口健康研究センター)のチームと共同研究を行いました。

JAXがんセンターのトランスレーショナル教育部門の副所長でもあるDr.ロイターと、JAXの元President兼CEOの Dr. Edison Liu (エディソン・リュー)が陣頭指揮を執って2016年にMCGIを立ち上げましたが、そのきっかけは、近年開発されたゲノム検査や標的療法戦略に対して、メイン州のがん患者のアクセスが欠如していたことでした。さらに、ほとんどの患者には治療のためにボストンやニューヨークに行く時間も交通手段もありませんでした。そのため、JAXは精密がん医療と治療における最新技術を患者に提供するためにMCGIを設立しました。

2020年までのわずか4年間で、MCGIはメイン州のすべての腫瘍内科診療所(13ヶ所)と提携し、1,600人を超える患者を登録しました。MCGIのプログラム・ディレクターである Dr. Leah Graham (リア・グラハム)は、初期の取り組みは腫瘍学者やその他の医療専門家にゲノム教育を提供すること、彼らの患者にがんゲノム検査を無料で提供すること、ゲノム医療キャンサーボードを通じて精密がん医療の専門家と検査結果について丁寧に助言することに注力したと説明しました。

MCGI患者の追跡調査により、ゲノム医療を受けなかった1,052人のうち399人(37.9%)が登録同意後365日以内に死亡したことが明らかになりました。これに対して、ゲノム医療を受けたグループで365日以内に死亡した患者は30.6%(206人中63人)でした。ベースラインの特徴で調整した後の分析では、臨床試験に参加できたのはわずか9%と割合が少なかったにもかかわらず、ゲノム医療を受けたグループは標準治療を受けたグループに比べて1年以内に死亡する確率が31%低いことが示されました。参加割合が他の研究で以前に報告されたものよりも小さかったのは、メイン州の地域性(農村部が多いこと)による可能性があります。

MCGIによる研究でゲノム医療を受けた臨床試験患者の割合(17%)は、2019年の 退役軍人省による大規模な研究 の数字と正確に一致しており、がん治療の提供の問題はメイン州だけに限らないことを示唆しています。MCGIプログラムは今後、 ゲノム医療キャンサーボード プログラムやその他の手段を通じて、メイン州内でより多くのバイオマーカーを活用した臨床試験へのアクセスを提供し、治療を受けられないと考えられる患者にモバイル機器を利用して直接治療を提供するなどして、効果的な精密がん治療の提供を可能にすることにさらに注力していきます。

この研究にはいくつかの限界があります。メイン州の人口特性を反映して、患者は主に白人および非ヒスパニック系でした。がんゲノム検査は無料で提供されたため、その利用が拡大した可能性があります。また、研究対象集団のがんの部位や病期もさまざまでした。

「それにもかかわらず、私たちはこのプログラムを7年間運営しており、患者の転帰に非常に良い影響が認められています。そして将来的には、現在メイン州でMCGIとして行っていることを全国レベルで実現したいと考えています。つまり、すべての患者が、がんゲノム検査と徹底的なバイオマーカー分析を受けるということです。私たちがMCGIを通じてどのように治療を提供し、臨床試験へのアクセスを拡大するかは、全国の他の州、特に多くの農村地域を抱える州の青写真となる可能性があります。」とDr.ロイターは語りました。

ジャクソン研究所について

ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立がん研究所指定のがんセンターを有し、米国、日本、中国の各地に3,000名を超える従業員を擁しています。 JAXの使命は、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学 コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。詳細については、 www.jax.org をご覧ください。

JAXメディア担当:
Cara McDonough and Thania Benios
news@jax.org
919-696-3854

 

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: MCGI team provides genome-matched treatments provide major patient benefit (jax.org)

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