脳細胞が原動力となり運動後に持久力が向上する

カテゴリー:神経科学

JAXの研究チームは、マウスのランニング持久力を向上させるには、視床下部の細胞群が重要であることを明らかにしました。

【メイン州バーハーバー 2026年2月19日】ランニングを終えると、筋肉がすべての働きをこなしたように感じるかもしれません。しかし、ジャクソン研究所(JAX)とペンシルベニア大学(UPenn)の研究者たちは、ランニング後に脳内で起こる変化が、時間の経過とともに持久力を高める鍵となる可能性があることを発見しました。

研究チームは Neuron 誌に、脳の視床下部に存在する特殊なニューロンが、運動後に活発に活動することを報告しました。これらのニューロンが活動しないと、マウスはトレッドミルでどれほど激しく走っても持久力が向上しません。さらに、運動後にこれらのニューロンを人工的に活性化させたところ、マウスは通常よりもさらに高い持久力を獲得しました。

「筋肉のリモデリング(筋肉が負荷に合わせて強く作り変わる仕組み)に、これらの脳ニューロンの働きが必要であるという考えには、かなり大きな驚きがありました。これは、運動がどのように作用するのかという従来の理解に、真正面から新たな疑問を投げかけるものです」と、JAXのAssociate Professorで今回の論文の共同上席著者であるDr. Erik Bloss(エリック・ブロス)は述べています。

運動が脳に長期的な影響を与え、認知能力を高め、ニューロン間の接続を強化することは、科学者の間で古くから知られています。Dr.ブロスは、ペンシルベニア大学のDr. J. Nicholas Betley(J・ニコラス・ベトリー)と共同で、運動が脳に及ぼす「より直接的な影響」を明らかにしたいと考えました。

研究者たちは、マウスの走行中および走行後の脳内視床下部の細胞活動を調べました。その結果、ステロイド生成因子1(SF1)と呼ばれるタンパク質を発現し、マウスが走行を終えてから約1時間活性化する特定のニューロン群に焦点を絞ることができました。

「これらのニューロンがランニング後に最も活発になるという事実は非常に興味深いです。これは、ニューロンが体に『回復プロセスを開始するように』と信号を送る役割を果たしていることを示しています」とDr.ブロスは述べています。

マウスが数週間にわたりトレーニングを続けると、運動セッションのたびにSF1ニューロンの活性化レベルが上昇しました。JAXで行われた実験では、SF1ニューロン間の接続も、運動を重ねるごとに強化され、その数も増加することが示されました。運動したマウスは、運動しなかったマウスに比べて、SF1ニューロン間の接続部が約2倍に増加していました。

これらのニューロンがマウスの持久力向上に影響を与えているのかを検証するため、Dr.ブロスとDr.ベトリーの研究グループはオプトジェネティクス(光遺伝学)と呼ばれる技術を使いました。これは、光を用いて特定のニューロンを精密に制御できる手法です。各トレーニングセッション後にSF1ニューロンを15分間不活化したところ、マウスは3週間にわたり同じ厳しいランニングを毎日続けたにもかかわらず、持久力の向上が全く見られませんでした。さらに別の方法でニューロンの働きを抑制した場合でも、運動を行ったマウスの筋肉で通常みられる、持久力向上を伴う筋組織のリモデリングに必要な遺伝子発現の変化が確認されませんでした。

同時に、自発的な走行テストでマウスの成績が悪化し始めました。

「普通のマウスにランニングホイールを与えると、一度に何キロも走りますが、これらのニューロンを抑制すると、全く走らなくなります。一瞬ホイールに飛び乗ることはあっても、走り続けることができなくなるのです」とDr.ブロスは説明します。

補完的な実験として、研究チームはトレッドミル運動後にSF1ニューロンを1時間刺激する操作を行いました。運動後にこの刺激を受けたマウスは、対照群と比較して持久力が向上し、トレーニング期間終了時には走行距離が伸び、最高速度も向上しました。

この研究結果は、運動による効果は筋肉が時間をかけて適応することから生じるという従来の考え方に疑問を投げかけています。むしろ、脳が全身の代謝変化や筋肉のリモデリングを統括する「マスターコーディネーター」として機能していることを示唆しています。この発見は、将来的には、身体活動の効果を高めたり再現したり、あるいは持久力を高めるための新たなアプローチにつながる可能性を秘めています。

「この回路を活用すれば、最終的には『適度な運動』がもたらす効果を高められる可能性が非常に高いと考えています。脳内で運動に似たパターンを再現したり強化したりできれば、激しい運動が難しい場合でも、運動が脳や身体にもたらす保護効果の恩恵を受けられるようになります。これは、高齢者や運動機能に制限のある人々にとって特に有益となるでしょう」とDr.ブロスは述べています。

この研究には、JAX のDr. Lauren Lepeak(ローレン・リーピーク)も共著者として参加しています。

この研究は、ペンシルベニア大学、米国国立衛生研究所(P01 DK 119130、R01 AG 079877、R01 DK 119169、R56 DK 135501、F32 DK 131892、F31 DK 131870)、全米科学財団(DGE-1845298、DGE-2236662)、韓国研究財団(2021R1A6A3A14044733)、ロードアイランド州インスティテューショナル・ディベロップメント助成(IDeA)生物医学研究卓越ネットワーク、ロードアイランド財団(16409_139170)、プロビデンス大学プロヴォスト・フェローシップ、プロビデンス大学からの資金提供を受けて実施されました。

 

ジャクソン研究所(JAX)について

ジャクソン研究所(JAX)は、米国国立がん研究所指定のがんセンターを有する、独立した非営利の生物医学研究機関です。JAXは、研究・教育・リソースを独自に組み合わせたアプローチにより、「疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学コミュニティに活力を与える」という大胆な使命の実現を目指しています。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。1929年にメイン州バーハーバーで設立され、現在ではメイン州、コネチカット州、ニューヨーク州、カリフォルニア州、フロリダ州、日本において研究拠点と施設を展開し、全世界で約3,000人の従業員を擁するグローバルな組織です。詳細は www.jax.org をご覧ください。

JAXメディア担当: Roberto Molar roberto.molar@jax.org

 

英語原文: Brain cells drive endurance gains after exercise

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