幹細胞技術と遺伝的多様性を組み合わせる
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ジャクソン研究所(JAX)の研究者たちは、幹細胞技術と遺伝的多様性を組み合わせて研究を進めることで、同じ突然変異でも、人によって重い病気を引き起こす場合と、まったく症状が出ない場合がある理由を明らかにしました。
JAXで開発された幹細胞ベースの新しいプラットフォームにより、遺伝学における最大の謎の一つ、つまり疾患の原因となるある突然変異が、重篤な症状を引き起こす場合もあれば、全く症状が現れない場合まで、人によって劇的に異なる影響を及ぼす理由が解明されつつあります。
JAXのProfessorのDr. Martin Pera(マーティン・ペーラ)が開発したこのプラットフォームは、遺伝的背景が異なる8系統のマウスから作製した人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使用しています。この画期的な技術により、研究者は各系統から安定して脳細胞を培養できるようになり、より現実的な方法でかつ必要に応じた量の細胞を用いて、多くの疾患関連遺伝子を研究する道が開かれました。これは、遺伝学研究における大きな技術的進歩です。

The Pera Lab: Mapping The Spectrumの動画とTranscriptは 英語原文記事 からご覧いただけます。
遺伝的背景に着目する
このプラットフォームにより、遺伝的に多様な8系統のマウス由来の幹細胞から脳細胞を安定的に培養できるようになります。このスケーラブルなプラットフォームを用いることで、同じ遺伝子変異でも、遺伝的背景の違いによって、非常に重篤な疾患を引き起こす場合から、ほとんどあるいは全く影響が現れない場合まで、劇的に結果が異なる仕組みを明らかにすることができます。その結果、疾患関連遺伝子をより現実的かつ予測可能な方法で研究するための新たな可能性が切り開かれます。
このアプローチの有効性を実証するために、Dr.ペーラは脳の発達に重要な役割を果たし、自閉症、小頭症、知的障害などに関連するDYRK1Aという遺伝子に注目しました。
彼は、各マウス系統のiPS細胞に同じDYRK1A変異を導入し、それらの幹細胞からニューロンを形成させました。全く同じ遺伝子変異を持っているにもかかわらず、ニューロンは遺伝的背景によって大きく異なる反応を示しました。健康なヒトの脳細胞の特徴を示すものもあれば、自閉症や小頭症の患者に見られるニューロンに似た性質を示すものもありました。
遺伝的に多様なモデルを用いる
「同じ変異が、どうしてこれほどまでに異なる影響を引き起こすのでしょうか? その理由は『遺伝的背景』にあります。各系統は独自の遺伝子構成を持っており、それが変異の影響を抑えたり、逆に増幅させたりするのです」とDr.ペーラは説明しました。
これらの知見を生体で確認するため、Dr.ペーラはこの8系統のマウスに同じ変異を導入しました。すると驚くべきことに、これらのマウスの脳内のニューロンは、ペトリ皿で観察されたものと表現型が一致しており、幹細胞を用いたこのシステムが、実際の動物における遺伝子変異の影響を予測できることを強く裏付けるものとなりました。
「これは大きな転換点です。幹細胞技術と遺伝的多様性を組み合わせることで、疾患が人によって異なる影響を及ぼす理由を解明し、さらに個々の生物学的特性に合わせて治療法をどのように最適化できるかを探るための新しいプラットフォームが誕生したのです」とDr.ペーラは語りました。
「もし一つのマウスの系統だけ研究していたら、この発見は完全に見逃していたでしょう。遺伝的に多様なモデルを用いることで、なぜ一部の人は病気に対して脆弱なのに、別の人は回復力を示すのかを理解することができるのです」と、Dr.ペーラの研究室の博士研究員としてこの研究を主導したDr. Daniel Cortes(ダニエル・コルテス)は語りました。
このアプローチは、生物医学研究における重要なギャップを埋めるものです。それは、ペトリ皿内で起こる現象と生体内で起こる現象を結びつけることです。行動解析では、特定の遺伝的背景を持つDYRK1A変異を持つマウスは生存できないのに対し、他の背景を持つマウスは生存できることを確認しました。これは、同じ遺伝子変異であっても、遺伝的背景によって「生きるか死ぬか」が左右される可能性があることを示しています。
英語原文: What stem cells tell us about autism and other developmental brain disorders


