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2026.8
毛が黒いマウスとしてパッと思い浮かぶのは「B6」ではないでしょうか。 マウスの亜系統 のコラム で、同じに見えても目に見えない違いが潜んでいることをご紹介しました。「B6」と呼ばれるマウス系統の代表格はC57BL/6JとC57BL/6NJです。これら2系統が同じケージにいたとしたら、見た目でどれがどの系統なのかを言い当てることは極めて難しいです。では、どんな違いがあるのかを詳しくご紹介します。
1990年代初頭にマウスを繁殖供給していたAbbie Lathropより、ハーバード大学のWilliam Ernest Castleがマウスを実験のために購入した。Castleの弟子であり、ジャクソン研究所の創始者のClarence Cook (C.C.) Littleが、#57雌と#52雄を交配させて1921年に確立したのが、C57BLです ( Steensma et al., Mayo Clin Proc., 2010 )。C57BLは、1937年にline 10 (C57BL/10)とline 6 (C57BL/6)に分岐しました。1948年にジャクソン研究所に導入され、C57BL/6Jが確立しました。1951年にF32のC57BL/6Jがアメリカ国立衛生研究所(NIH)へ分与され亜系統化したのがC57BL/6Nです ( Mekada and Yoshiki, Exp Anim., 2021 )。1997年にNIHにて作製されたC57BL/6Nの凍結胚が2005年にジャクソン研究所へと導入され確立したのが、C57BL/6NJです。C57BL/6JとC57BL/6Nでは、これまでに数多くの亜系統が派生しています。C57BL/6系統を用いた論文はPubMedに60,000報以上登録されており、少なくとも30,000報がジャクソン研究所のC57BL/6Jです。C57BL/6N亜系統では、約2400報の登録があります。論文への記載が「B6」や「C57BL」など不完全な系統名が散見されます。論文発表の際は、必ずフルネームでの記載をお願いします。
見た目では区別がつかない2つの系統ですが、100世代以上離れており、遺伝的にはC57BL/6NJをC57BL/6Jと区別する5つのSNPがあり、表現型も異なります。C57BL/6JでもC57BL/6NJでもどちらでも構わないと結論付ける前に、系統特性が詳述されている系統データシートを確認してみましょう。
<系統データシート>
C57BL/6J
英語版
日本語版
C57BL/6NJ
英語版
日本語版
世界的に最もよく用いられているC57BL/6Jは、最初にマウスゲノム配列が決定された系統でもあり、遺伝子改変マウスの背景系統としても広く用いられています。最も「ベーシック」な系統ですが、Nntエクソン7-11欠損による代謝異常や、Cdh23ahlアレルによる加齢に伴う進行性難聴の発症、アルコールや依存性薬物への嗜好性が高いなど、様々な研究分野において考慮すべき表現型があるのも事実です。一方でC57BL/6NJは、Crb1rd8アレルによる網膜変性があり、コカインやメタンフェタミンへの急性反応が弱い特徴があります。さらには、2系統間には恐怖反応の違いや( Stiedl et al., Behav Brain Res., 1999 , Radulovic et al., Behav Brain Res., 1998 )、麻酔薬の心臓機能に与える影響の違いなどがあります( Roth et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol., 2002 )。このように、何の変哲もない近交系マウスと思われがちな2系統ですが、把握すべき系統特性が複数あるのです。
近交系は、基本的に兄妹交配を継続して行うことで維持されています。 マウスの亜系統 のコラム で紹介した通り、およそ10世代に1回コーディング領域に変異が固定し、20世代以上兄妹交配を続けると亜系統となってしまいます。野生型近交系マウスの場合、背景系統への戻し交配は行えません。では、どのように遺伝的管理を行うのでしょうか。管理の方法は各ベンダー、各機関によって様々です。ジャクソン研究所では、Genetic Stability Program (GSP) を導入しています(特許取得済み)。2003年に25年間分の凍結胚ストックを作製し保存しました。5世代ごとに凍結胚ストックから生体を復元し、コロニーを刷新しています。これにより、遺伝的浮動による変異の蓄積を回避し、20年以上前と遺伝的に差異の無いマウスを提供しています。現在、15系統がGSPで管理されており、その他の系統はGenetic Quality Control (GQC) プログラムで管理されています。
参照:
Genetic Quality Control & Stability Programs | Jackson Laboratory
Genetic Drift in Mouse Models: Minimize Risk, Maximize Reproducibility