高齢者のワクチン反応の根底にあるもの
Research Highlight

By Mark Wanner

ジャクソン研究所とUConn Healthの研究者らは、なぜワクチンが一部の高齢者に効果を発揮しないのかを厳密に調査しています。

老化の重要な側面は、免疫システムが時間の経過とともにどのように変化するかです。免疫システムの変化は何らかの影響を及ぼし、高齢者において重度の感染症やがんなどの病気のリスクが増大する一因となっています。また、免疫システムの加齢に伴う変化は、ワクチンに対する反応のばらつきや、若年者と比較してワクチンの有効性が全体的に低いことにも関与しています。ジャクソン研究所とUConn Healthの研究者らは、なぜワクチンが一部の高齢者に効果を発揮しないのかを厳密に調査しています。

肺炎球菌感染症に対する防御

肺炎連鎖球菌は、肺炎、髄膜炎、敗血症などの病気を引き起こす危険な細菌性病原体です。 乳幼児と高齢者は肺炎球菌感染症のリスクが最も高く、その理由はまだよくわかっていませんが、年齢が上がるにつれて致死率が高くなります。幸いなことに、PPSV23 (Pneumovax â) など、肺炎連鎖球菌の表面にみられる多糖類に対して開発されたいくつかのワクチンは、一般的に高齢者に効果があります。ただし、若年者ほどの防御効果はありません。多糖類を無毒性変異ジフテリア毒素などのタンパク質と組み合わせる(結合する)と、さらなる適応免疫の活性化を誘導でき、結果として防御力が向上します。この戦略は、FDAが承認した新しいクラスの結合型ワクチン (例:PCV13、Prevnar â) を開発するために使用されました。これらの進歩にもかかわらず、肺炎連鎖球菌ワクチンに対する反応は依然として年齢とともに低下します。さらに、高齢者の部分集団においてこれら2つのワクチンのどちらが好ましいかは依然として不明です。

これらの知識のギャップに対処するために、JAXのAssociate Professorである Dr. Duygu Ucar (ドゥユグ・ウカル)、UConn Healthの教授兼UConn Center on AgingのDirectorであるDr. George Kuchel(ジョージ・クシェル)、Dr. Jacques Banchereau (ジャック・バンシュロ、Immunoledge、ニュージャージー州モントクレア)が率いるチームは、ワクチン接種前後の免疫特性を徹底的に比較するために、全員60歳以上の肺炎球菌ワクチン接種歴のない健康成人を募集し、39名からなるコホートにワクチン接種しました。この研究結果は、 Nature Immunology に掲載された「Distinct baseline immune characteristics associated with responses to conjugated and unconjugated pneumococcal polysaccharide vaccines in older adult(高齢者における結合型および非結合型肺炎球菌多糖体ワクチンへの反応に関連する免疫特性の明確なベースライン)」で発表されており、2つの異なるワクチンに対するさまざまな反応の根底にある生物学的特性を特定しています。また、重要な点として、これらの研究は、ワクチン接種戦略に影響を与える可能性のある明確なベースライン(ワクチン接種前)の予測因子も明らかにしました。この予測因子により、ワクチン接種戦略がより具体的なものとなるため、より効果的な介入につながります。

「どのワクチンに誰が強く反応するかを理解することで、集団レベルでのワクチンの有効性を向上させるために集団を層別化する機会が得られるとともに、ワクチン接種前に個人の免疫特性を調整して個人レベルでの転帰を改善できるかどうかを理解することができます」とDr.ウカルは言います。

有効性の指標

すべての参加者は、5月から初秋までの間にPPSV23またはPCV13の単回投与を受けました。ワクチン接種前、接種翌日、接種10日後、28日後、60日後に血液を採取し、長期的なデータが提供されました。ワクチン接種後、研究チームはワクチンに対する反応を定量化し、コホート内での反応について参加者をランク付けするための尺度を開発しました。両ワクチンに対する全体的な反応は同程度でしたが、ベースラインの免疫表現型には反応が強い者と弱い者とを区別できる明確な違いがみられました。

2つの特定のT細胞タイプ、Th1とTh17のベースラインの量は、PCV13に対する反応において重要な役割を果たしていました。Th1細胞は分子シグナルを生成して病原体に対する初期の自然免疫応答を活性化しますが、Th17細胞も異なるグループの炎症性シグナル伝達分子を生成することによって防御反応に寄与します。PCV13ワクチンに対する反応は、Th1細胞の量が多いと強くなり、Th17細胞の量が多いと弱くなることが示されました。したがって、ワクチン接種前のTh1/Th17比によって、PCV13に対する反応の強さを予測することができます。興味深いことに、女性は男性に比べてTh1細胞の存在比率が高く、Th17細胞の存在比率が低く、PCV13ワクチンに対してより強く反応しました。

研究チームは、ワクチン接種前の遺伝子発現データから、CYTOXシグネチャーと呼ばれる、PCV13に対する反応の低下に関連する細胞傷害性遺伝子を含む遺伝子モジュールを発見しました。単一細胞プロファイリングにより、この遺伝子発現シグネチャーと成熟CD16ナチュラルキラー(NK)細胞が関連付けられました。血液中の成熟CD16+NK細胞の量はPCV13に対する反応と関連しており、PCV13に対する反応が弱かった者は強かった者よりも多くのCD16+ NK細胞を持っていました。CYTOXシグネチャーはPPSV23に対する反応とは関連していませんでしたが、別の異なる遺伝子セットがPPSV23に対する反応を予測していました。

「私たちの研究は、『万人向きの』アプローチは高齢の患者にはうまく機能しないことを思い出させてくれます」とDr.クシェルは言います。「さらに、私たちの発見が他の集団でも再現できれば、精度が高まり、最終的には各個人に最適なワクチンを適合させることができるため、高齢者にとってより効果的なPrecision Gerontologyを含むケアモデルを導入する素晴らしい機会が提供される可能性があります。」

病気の予防への影響

この研究の驚くべき側面は、利用可能な2つのクラスの肺炎球菌ワクチンが防御免疫反応を引き起こすために同じ細菌多糖を使用しているにもかかわらず、両ワクチンのベースラインの予測因子はまったく異なっており、互いに独立していることです。しかしここで重要なのは、この研究の論文が、ワクチン接種前の特定の特徴に基づいて高齢者の2つのワクチンに対する反応を予測できることを示しており、この結果は、どのワクチンがその人にとって最も効果的であるかに基づいて、個人を容易に層別化できることを示唆しているということです。たとえば、CYTOX/CD16+ NK細胞の量が少ない高齢者はPCV13ワクチンによく反応する可能性が高く、一方、CYTOXの量が多い高齢者はPPSV23ワクチンの恩恵を受ける可能性が高くなります。全体として、この結果は、肺炎球菌ワクチンのより正確なワクチン接種戦略に重要な意味をもたらし、他のワクチンにも重要な意味をもたらす可能性があり、そのことが高齢者を感染症や病気からより効果的に守ることに繋がります。

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: What underlies vaccine responses in older adults?

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