1 つの遺伝子で 2 つのまったく異なる疾患
Research Highlight

カテゴリー:遺伝

By Mark Wanner

過去数十年に教えられたセントラルドグマ(遺伝情報が「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達されるという分子生物学の概念)では、遺伝子は特定の機能を持つタンパク質を生成するメッセンジャーRNA(mRNA)を生成するとされていました。また、特定の必須遺伝子を変異させると、mRNAも消失または変化し、タンパク質生成物が生成されなくなるか機能不全になり、遺伝性疾患が引き起こされます。その定説は単純明快で理にかなっていましたが、不十分でもありました。

生物医学の研究は、生物学における単純な答えは通常、せいぜい大きな物語の一部にすぎないことを私たちに教えてくれます。マサチューセッツ総合病院とボストン小児病院に勤務し、ハーバード大学医学部の小児科助教授であるDr. Frances High(フランシス・ハイ)、ジャクソン研究所ProfessorのDr. Carol Bult (キャロル・ブルト)が主導した最近の研究がその典型的な例です。研究チームは、横隔膜の形成や筋性化が不完全で、比較的一般的な(出生3,000人に1人)構造的先天異常である先天性横隔膜ヘルニア(CDH)を患う血縁関係のない8人の患者を遺伝学的に調査していました。最先端の医療や外科的処置を行ったとしても、この疾患は、高い死亡率と罹患率を伴います。研究チームは、8名全員のプラスチン-3(PLS3)(細胞の構造と運動に関与するアクチンバンドリングタンパク質をコードする遺伝子)に、いわゆるミスセンス変異が見られることを発見しました。ところが、同じ遺伝子の機能を排除すると予測されていた他の変異体は、以前はまったく異なる疾患、つまり男性のX連鎖性骨粗鬆症と関連していました。では、同じ遺伝子内の異なる遺伝的変異はどのようにしてそのような異なる状態を引き起こすのでしょうか?

タンパク質機能に対するCDHの影響

The American Journal of Human Geneticsに掲載された 論文PLS3 missense variants affecting the actin-binding domains cause X-linked congenital diaphragmatic hernia and body-wall defects(アクチン結合ドメインに影響を与えるPLS3ミスセンス変異体はX連鎖性先天性横隔膜ヘルニアと体壁欠損を引き起こす)」で、研究者らはCDH関連変異体がタンパク質の機能にどのような影響を与えるかを調査しました。彼らはまずタンパク質の構造をコンピュータでモデル化しました。これにより、結果として得られるタンパク質の形状や構造に大きな変化はないと思われることがわかりました。それにもかかわらず、この変異体はすべてアクチン結合ドメインをコードする遺伝子配列内に位置していたので、このタンパク質はアクチン結合を変化させた可能性が高いものと思われます。

研究チームはその後、ヒトCDH患者の1人で見つかったものと同じミスセンス変異体を備えたマウスモデルを作成することができました。マウスは横隔膜の異常と体壁の欠損を示し、ほとんどが生後すぐに死亡しました。興味深いことに、生き残ったマウスは骨塩密度(BMD)が増加していましたが、Pls3 機能喪失マウスモデルではBMDが低下しており、これはヒト患者で見られるバリアント効果を反映しています。

著者らが「PLS3先天異常症候群」と呼ぶものを引き起こすCDH関連変異体は、アクチン細胞構造の動態に影響を与え、ひいては横隔膜と体壁の正常な発達に影響を与えると理論づけられています。また、骨に見られるような機能獲得効果もあり、BMDの増加につながる可能性があります。それとは対照的に、正常なタンパク質機能の喪失につながる変異体は、横隔膜の発達には影響を及ぼさないように見えますが、カルシウム応答性の変化と骨粗鬆症を引き起こします。明確に異なる種類の遺伝子変異体がもたらす非常に異なる結果には、これらおよび関連する構造異常ならびに骨疾患に対する治療戦略の開発の可能性を含め、臨床的意義があります。

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: One gene, two very different diseases

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