患者腫瘍の3Dアバターは、個別化がん医療の次の波になるか?
Research Highlight

By Sophia Anderson

大ヒット作「アバター」がサイエンスフィクションであることは間違いありません。一方、がん患者の3Dアバターは間もなく現実のものとなる可能性があります。Dr.ジェフ・チャンの研究グループが説明するように、この独創的な腫瘍の3次元での再現が、精密医療の次の大きな波になるかもしれません。

過去の道のりを振り返る

がんモデリング研究は長い道のりを歩んできました。未来に飛び立つ前に、まずは実証済みの方法である細胞培養から始めて、次のモデルがどのようになったかを認識することが重要です。1900 年代初頭に開発されたがん細胞培養では、がん細胞を収集して分離し、無菌環境でそれらに栄養を与えて成長を促進します。がん細胞は薄い2次元層 (2D細胞培養) で成長し、必要に応じて持続させることができるため、研究者は細胞の特徴や疾患に寄与する可能性のある変化を調査できます。

シンプルで費用対効果の高い2D細胞培養、およびそれらから作製された細胞株は、がん研究にとって非常に重要なリソースとなっています。細胞生物学の理解から病気の発症の説明、薬の効果の予測まで、多くの科学的発見は、細胞の2次元層を使用した研究によるものです。がん生物学の研究と臨床試験は引き続きこのような 2D 細胞培養モデルを利用しますが、現在では腫瘍内の細胞の複雑さと、腫瘍進行中にがんと相互作用する多様な細胞集団の両方をより正確に再現する新しい方法があります。

導入に向けて走り出す

3D細胞培養法は、従来の2D法の限界を克服するために、ここ数年で広く採用されています。The Jackson Laboratory for Genomic MedicineのProfessorであり、 Jackson Laboratory (JAX) Cancer Center のDeputy Directorである Dr. Jeffrey Chuang(ジェフリー・チャン) は、3Dモデルの能力をとりまとめ、これらの強力なツールの導入に必要とされる主要なマイルストーンを打ち出しました。Cancer Cellに掲載された 「A path to translation: How 3D patient tumor avatars enable next generation precision oncology(トランスレーションへの道:3D患者腫瘍アバターは、どのように次世代の精緻ながん治療を可能にするか)」 で、Dr.チャンと研究チーム(JAXのProfessorのDr. Paul Robson⦅ポール・ロブソン⦆、Dr. Martin Pera⦅マーティン・ペーラ⦆を含む)は、患者がんモデリングの最新の形態 (つまり3D患者腫瘍アバター⦅3D-PTA⦆)をラボから医療現場に持ち込む方法を示しました。

2D細胞培養には大きな制限があります。たとえば2D細胞培養は通常、プレート上で最も急速に成長している細胞のみが存在し、腫瘍内およびその周囲に見られる細胞の多様性を反映することができません。腫瘍内とその周囲の細胞の組織化と複雑さをより詳細に再現するために、研究チームは、患者由来の異種移植片(PDX)モデルを開発しました。これは、患者の腫瘍細胞または腫瘍組織を使用し、それらを免疫不全マウスに移植して作成したものです。Dr.チャンの研究は、乳房、肺、膀胱などの腫瘍を含む、JAXで作成された何百ものPDXがんモデルの特性評価に役立っています。これらのヒト患者モデルは、in vivo環境における固有の腫瘍の遺伝的多様性と物理的側面を反映しています。

PDXモデルは、臨床試験を開始する前に薬物をテストするための重要なシステムですが、患者から採取してモデルを確立するまでに数か月かかり、治療研究にはさらに数か月かかります。このようにプロセスに時間がかかるため、PDXマウスを患者固有のアバターとして使用することは困難です。そのためDr.チャンと研究チームは、PDXモデルは引き続き、がん生物学研究の重要なリソースとしつつ、より効率的である可能性のある3D培養モデルは、精緻ながん治療で開発されるシステムとして有望であり、これにより治療に関する決定が改善されるだろうと考えています。

障害物を取り除く

現在改良されている非常に興味深い3D-PTAの中には、患者由来オルガノイド(PDO)があります。PDXモデルと同様に、PDOは患者自身の腫瘍細胞から培養されます。PDXモデルはマウスで成長しますが、PDOモデルは臓器内の3D環境を模倣する3Dマトリックスで成長します。増殖に数週間しかかからないPDOは、より迅速に確立でき、薬物反応を予測するための効果的なシステムであることが証明されています。 他の種類の3D-PTAは、マイクロチップに収まるように縮小できる可能性があり、正確な患者モデルをかつてないほど迅速に作成する能力が明らかになっています。遺伝子配列決定やタンパク質研究などの組み合わせにより、科学者の意のままに、がんをかつてないほど間近に自身の目で見ることができます。

クリニックで3D-PTAを患者のアバターとして利用するための次のステップは何でしょうか?標準化することは依然として最優先事項です。研究結果は、すべての研究者と臨床医の間で再現可能かつ正確でなければならず、3D-PTAも例外ではありません。各3D-PTAと各腫瘍タイプに最適な細胞外マトリックスを用いた足場材料、培養培地、増殖因子の組み合わせを確立し、一貫して実施する必要があります。標準化された患者データ収集も、3D-PTAライブラリの機能を拡張するために不可欠です。そして最後に、3D-PTAの可能性を評価する臨床試験を実施する必要があります。また新しいモデル自体が、臨床試験の最新化に貢献し、ゲノム検査に基づく患者層別試験の効果的な実施につながる可能性があります。

取り組むべき重大な課題や橋渡しが必要な問題がまだいくつか残っていますが、Dr.チャンと研究チームは、3D-PTAには精密医療の状況を変える可能性があると結論付けています。 適切な厳密さと思慮深さを持って臨床現場に導入した場合、それらは真に個別化されたがん治療に情報を提供できる臨床リソースとなります。

著者:Sophia Anderson
米国ジャクソン研究所Research Communications部門スペシャリストのSophia Andersonは、ジャクソン研究所のマルチメディアコンテンツのクリエイターです。 SophiaはDiagnostic Genetic Sciencesで学位取得後、ジャクソン研究所に入所し、研究のコンセプトを説明するとともに、記事や映像を通じて、研究の背景にあるストーリーを伝えています。

英語原文: 3D patient tumor avatars: the next wave in personalized cancer medicine?

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