CD34+造血幹細胞ヒト化マウス:基礎編
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【日本語版】

By Grace Berryhill, Ph.D., Technical Information Services(技術情報サービス部門)

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CD34+ HSCヒト化マウスに関するよくある質問

ヒト化マウスモデルは、ヒトを対象とした試験の条件を再現し、複数の薬物を単独または組み合わせて評価し、予測データを作成するための革新的かつ費用対効果の高いプラットフォームとして機能しています。このモデルについては、頻繁に寄せられる質問がいくつかあり、このブログでは、CD34+造血幹細胞ヒト化マウスの使用に関して、より多く寄せられる質問と回答をいくつかご紹介します。

ヒト化マウスとは?

「ヒト化」という用語には複数の意味があり、定義は文脈によって異なります。実験またはモデルシステムにこの用語を使用する場合は、明確な運用上の定義を持つことが重要です。最も広い意味でのヒト化マウスとは、移植されたヒトの組織または細胞 (免疫細胞や移植された腫瘍組織など) を保有するマウス、またはランダムに組み込まれた導入遺伝子として、標的ノックイン突然変異として、もしくはエクソンスワッピングにより導入されたヒト遺伝子を発現するマウスを指します。この記事では、臍帯血から単離したCD34+造血幹細胞 (HSC) が移植されたマウスをヒト化マウスと呼びます。これらの移植されたHSCは、宿主マウスの骨髄ニッチに移動し、そこですべての主要な免疫細胞型への分化が行われます。この手法は、マウスでヒトのような免疫システムを研究するための有力なプラットフォームになります。

CD34+造血幹細胞ドナーが重要なのはなぜですか?

CD34+は、多分化能を持つ造血幹細胞を識別するために使用される細胞表面マーカーです。このような細胞の豊富な供給源は、新生児の臍帯血です。1人のドナーから得られる量が限られているため、CD34+ HSCヒト化マウスの作製においては臍帯血ドナーに関するばらつきが生じるという現実があります。全体的な生着率は、hCD45+細胞および末梢血、骨髄、脾臓の様々な免疫細胞亜集団への分化を基準として評価した場合、臍帯血ドナーによって異なることが知られています。チェックポイント阻害剤やその他の免疫調節薬などの実験的治療に対する反応も、ドナーにより異なります。では、実験ではこの点をどのように考慮したら良いのでしょうか? 2~4人の臍帯血ドナー (プールされていない) に由来するHSCを移植したマウスを使用し、実験のすべての投与群に各ドナーを分散させることをお勧めします。このアプローチにより、既知のばらつきを踏まえて研究を計画でき、投与に対する反応をより適切に検出できるようになります。

JAXでヒト化に一般的に使用されている宿主マウスの系統は?

ヒトから採取した組織がマウスで生着するためには、宿主による非自己組織への拒絶反応を防ぐために、重度の免疫不全宿主マウスが必要です。 NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ (NSG™) マウスおよび NSG 変異系統 のページをご覧ください。NSG™は、自然免疫機能を損なうNOD近交系の背景、T細胞とB細胞の成熟を妨げるPrkdcscid変異、および6種類のサイトカインのシグナル伝達を遮断するIl2rgtm1Wjl変異により、重度の免疫不全を呈するマウスです。Il2rgtm1Wjl変異の重要な結果は、機能的に成熟したNK細胞の欠損であり、これは歴史的に HSC生着に対する非常に大きな障壁 でした。さらにNODマウスは、ヒトHSC の生着率向上につながる Sirpαのユニークな対立遺伝子 を保有しています。

ヒト化 NSG™マウスはT細胞応答を研究するための優れたプラットフォームですが、さまざまなヒトサイトカインの導入遺伝子を持つNSG™変異系統を使用することで、特定の細胞集団の分化を促進することができます。 NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl Tg(CMV-IL3,CSF2,KITLG)1Eav/MloySzJ (NSG™-SGM3) は、骨髄系細胞および制御性T細胞の生着を促進します。また、 NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl Tg(IL15)1Sz/SzJ (NSG™-IL15) は、ヒトNK細胞の発生を促進します。JAXの In Vivo Services グループは、世界中の研究者が簡単に利用できるように、定期的にこれらの系統にHSCを移植しています。私たちのチームと共同研究者は、CD34+ HSC を移植した NSG™およびNSG-SGM3マウスにおけるヒト免疫系の再構成を包括的に評価すること にも取り組んできました。

現在、40を超えるNSG™変異系統がJAXから入手できます。これらの系統の多くを使用することで、CD34+ HSC移植を使用した実験系をさらに改良し、特定の細胞集団または特定の相互作用を検討できるようになります。実にたくさんの可能性があるのです!

ヒト化マウスはどのように管理すればよいですか?
ヒト化マウスには免疫能力がありますか?

CD34+ HSCヒト化マウスは、ヒトに似た免疫システムを備えていますが、完全に機能しているわけではありません。これらのマウスは、非常に慎重に取り扱い、免疫不全系統と同様にみなしてください。 NSG™ などの重度免疫不全系統 を管理するうえで参考となる資料を提供しています。 NSG™マウスのケアに関するヒントとコツ を紹介するウェビナーもご覧ください。また、ヒトの組織が移植されたマウスの飼育要件については、ご所属の機関に必ずご確認ください。

マウスを「ヒト化」する方法を説明している手順はどこにありますか?

以下は、ヒト化NSG™マウスを作成するための手順と考慮すべき事項を説明している出版物のリストです。 Pearson, et al. 2008 は特にお勧めです。

  • McDermott SP, et al. 2010. Comparison of human cord blood engraftment between immunocompromised mouse strains. Blood. Jul 15;116(2):193-200 [PubMed ID: 20404133 ]
  • Brehm MA, et al. 2010. Parameters for establishing humanized mouse models to study human immunity: analysis of human hematopoietic stem cell engraftment in three immunodeficient strains of mice bearing the IL2rgamma(null) mutation. Clin Immunol. Apr;135(1):84-98. [PubMed ID: 20096637 ]
  • Pearson T, et al. 2008. Creation of "humanized" mice to study human immunity. Curr Protoc Immunol. May; Chapter 15:Unit 15.21. [PubMed: 18491294 ]

以下のページも是非ご参照ください。
JAX CD34+ Humanized Mice Page

英語原文
https://www.jax.org/news-and-insights/jax-blog/2020/April/cd34-hematopoietic-stem-cell-hu-mice-basics

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