1型糖尿病とウイルスDNA
Research Highlight

By Mark Wanner

david serreze diabetes research example

1型糖尿病の感受性と耐性には、数百万年前に私たちのゲノムの一部となったレトロウイルスという、思いがけないものが関与している可能性があります。

哺乳類のゲノムのうち哺乳類のゲノムであるのはその一部にすぎません。奇妙な表現ですが、ゲノムに組み込まれている配列の多くは、レトロウイルスというウイルスに由来しています。内因性レトロウイルス(ERV)と呼ばれるこれらのウイルス由来のコード配列は、哺乳動物や他の脊椎動物に幅広く存在しています。実際、ERVはヒトゲノムの8%を占めており、最初は古代の私たちの祖先と共に、次に私たちと1億年にわたって共進化してきました。この共進化の結果、レトロウイルス配列による産物と免疫の相互作用はほとんどが中立的なものとなりましたが、研究では、免疫機能を調節できるスーパー抗原というタンパク質の産生など、生物学的影響が依然として存在する可能性が示唆されています。それは1型糖尿病(T1D)の発症にも影響を与える可能性があります。

ヒト内因性レトロウイルス(HERV)が果たす正確な役割は依然として議論の余地がありますが、一部のヒトT1D患者では2種類のHERVが異常に発現していることが報告されています。しかし、T1Dについては50以上の遺伝的連鎖が特定されているため、状況は複雑です。そのため研究者らは、マウス、特に非肥満糖尿病(NOD)という系統のマウスをT1Dのモデルとして使用し、感受性と発症を研究しています。NODマウスと他の系統との交配から得られた子孫を分析した研究により、両親のどちらにも糖尿病のない子供になぜT1Dを発症するのかという長年の謎の解明につながる知見が得られました。通常はT1Dに耐性を示すマウスであってもT1Dに強く寄与する可能性のある遺伝子を保有している場合があり、それはNOD系統に由来する他のゲノム因子が存在する場合に限られることが、この研究で判明しました。全体的にT1Dへの耐性を示す系統内に存在するT1D感受性遺伝子の根底にあるものを調査した研究により、その原因の一部は、乳腺腫瘍ウイルス3(Mtv3)という内因性マウスレトロウイルスが存在しないことであることが判明しました。Mtv3が存在していれば、T1Dの予防に寄与します。

この研究は、 米国科学アカデミー紀要 に掲載された論文「Deletion of Vb3+CD4+ T cells by endogenous mouse mammary tumor virus 3 prevents type 1 diabetes induction by autoreactive CD8+ T cells(内在性マウス乳腺腫瘍ウイルス3によるVb3+CD4+ T細胞の欠失は、自己反応性CD8+ T細胞による1型糖尿病の誘導を防ぐ)」という論文に記載されており、T1Dおよびその他の免疫疾患にウイルスが影響している可能性についてより詳しい証拠がこの論文に示されています。この論文の主著者であるDr. John Driver(ジョン・ドライバー)はミズーリ大学の動物科学の准教授ですが、この話は数年前、共著者でジャクソン研究所(JAX)のProfessorである Dr. David Serreze (デヴィッド・セレゼ)の研究室で始まりました。Dr.ドライバーは、現在ブタをモデルとして研究している感染症研究者です(ブタは人間と同じようにインフルエンザに感染して伝染させることができるが、マウスはできない)が、最初に免疫反応に興味を持ったのは、Dr.セレゼの研究室で博士研究員としてNODマウスモデルでT1Dを研究している時でした。この論文で報告されているプロジェクトの発端となったのは、JAX在職中の彼の研究とリソース開発でした。

ウイルスの影響

C57BL6/J(B6)マウスは通常、T1Dに対して比較的耐性がありますが、Dr.ドライバーが率いる研究チームは、T1Dのリスクに関してゲノム上の最も重要な位置であるNOD主要組織適合性複合体(MHC)遺伝子を保有するようにマウスの遺伝子を操作しました。これらのMHC遺伝子操作B6マウスは通常、T1Dへの耐性を示します。しかし、B6マウスをNODマウスと交配すると、生まれた子の一部は驚くほどにT1Dを発症しやすく、その感受性はB6由来のゲノム領域によって左右されることが認められました。さらなる分析により、B6由来のT1D感受性と深く関連している、インスリン依存性糖尿病遺伝子座32(Idd32)というマウスゲノム上の位置が特定されました。しかし、Idd32は非常に大きく、長さは約800万塩基対で、270を超える遺伝子が含まれており、それがどのようにしてT1D感受性と関連するのかは不明のままでした。

今回の論文のために、研究チームはCRISPR/Cas9遺伝子ターゲティング戦略を用いて遺伝子マッピング作業を改善し、T1Dに関してIdd32が及ぼす影響の根底に、マウスERVであるMtv3があることを明らかにしました。彼らはまた、NODマウスのT1D発症に不可欠な2種類の免疫細胞である、ヘルパーCD4+T細胞と細胞傷害性(細胞を殺す)CD8+T細胞の間の複雑な相互作用が関与するその作用機序も調査しました。T1Dの原因である膵臓ベータ細胞を攻撃して殺すCD8+T細胞の活性化を引き起こすには、Vb3+CD4+T細胞と呼ばれるT細胞のサブセットが必要です。B6系統にMtv3スーパー抗原が存在しない場合、Vb3+T細胞の前駆体の発生が促進され、急性にT1Dが発症します。

この研究は、ヒトの免疫応答の研究に対するマウス内因性ウイルスの影響を考慮することの重要性を強調しています。また、HERVがヒトゲノムに占める割合が大きいこと、HERVとT1Dおよびその他の疾患との関連性がすでに確立されていることを考えると、自己免疫疾患に対するHERVの寄与について継続的に調査する必要があることも示唆しています。

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: David Serreze is researching viral influence on T1D (jax.org)

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