Research Highlight
【日本語版】免疫調節機能障害は1型糖尿病の一因となる

By Mark Wanner

JAX illustration by Karen Davis
JAXのProfessor Dr.デヴィッド・セレゼ(後列右から二人目)と彼のチーム
(写真提供:Thomas Fouchereaux)

Journal of Immunologyに掲載されたJAX のProfessor Dr.デヴィッド・セレゼの最新の論文は、7月号の「Top Read(特集)」に選ばれました。重要なモデルである糖尿病マウスモデルにおける1型糖尿病に対する防御メカニズムに関する研究結果が掲載されています。

私たちの体の適切な免疫機能は、シグナル伝達および抑制と均衡(checks and balances)の非常に複雑なシステムによって成り立っています。これには様々な分子と細胞種が関与しており、あるものは免疫機能を活性化するのに役立ち、またあるものはそれを阻害するのに役立ちます。免疫活性が低すぎると病原体や(がんに見られるような)異常な細胞増殖に対して脆弱になる可能性がある一方で、高すぎても弊害をもたらします。慢性炎症は、それ自体が深刻な健康問題になる可能性があります。それに加えて、抑制と均衡が崩れることは、自己免疫として知られる私たち自身の組織への免疫攻撃を引き起こす可能性があります。自己免疫は、狼瘡(ろうそう/ lupus)、関節リウマチ、1型糖尿病などの衰弱性疾患にも深く関わっています。

1型糖尿病(T1D)は、膵臓のインスリン産生β細胞への特異的な免疫標的化と破壊によって引き起こされます。研究者はT1Dの原因となる60以上の遺伝子領域を特定しましたが、一部の人々だけが発症する正確な理由、またそれを防ぐ方法は不明のままです。ジャクソン研究所(JAX)のProfessorであるDr.デヴィッド・セレゼと彼のチームは、マウスとヒトの患者データを使用して、T1Dの遺伝的、分子的、細胞的要因を調べています。最近の論文「非肥満性糖尿病マウスにおけるNfkbidの過剰発現は、病原性CD8 T細胞の胸腺欠失の増強および制御性T細胞の数と活性の増加に部分的に関連する完全な1型糖尿病抵抗性を誘発する」では、この疾患に対するさらなる理解をもたらし、可能な介入アプローチも示されています。そのインサイト(知見/洞察力)から、 Journal of Immunologyの7月号 で「Top Read」に選ばれました。

驚くべき発見

T1DはT細胞を介した病気です。T1Dの場合、基本的な原因は自己反応性CD8 T細胞として知られる誤って制御されたT細胞の特定のグループが十分に排除または阻害されず、β細胞を標的にして破壊してしまっていることです。Dr.セレゼと彼の研究室による以前の研究では、Nfkbidが、胸腺での初期発達において発達段階の自己反応性T細胞が取り除かれる程度を調節することが示されました。Nfkbidは、転写因子(Nuclear Factor Kappa B)の活性に影響を与える遺伝子であり、多くの遺伝子の発現を調節し、免疫応答と炎症に関連しています。当初の仮説では、重要なT1DモデルであるNODマウスにおいてNfkbidを欠損させると、T1D発症が遅延または予防されるのではないかと考えられていました。

しかし予想に反して、NODマウスでのNfkbidの欠損はさらに疾患の発症を加速させたました。Dr.セレゼと彼のチームは、自己反応性T細胞に加えてそれらの活性を阻害する制御性T細胞(Treg)もNfkbidの非存在下でより高い割合で取り除かれることを発見しました。これにより、排除されなかった自己反応性T細胞がβ細胞をより積極的に攻撃できるようになります。次に研究チームは、Nuclear Factor Kappa B活性の変化がT1Dを引き起こすT細胞およびそれを防ぐのに役立つTregの調節と発達にどのように影響するかをさらに調べようと試みました。彼らはこれを成し遂げるために、Nfkbid遺伝子のコピーを持たないNODマウスに、別の系統のマウスであるC57BL/6J(B6)のNfkbid遺伝子変異体を挿入しました。その結果、非常に驚くべき結果が得られました。B6の変異体Nfkbidを持つNODマウスは、完全なT1D耐性を示しました。しかし、どのようにして、そしてなぜこれらのマウスは病気を完全に防御できたのでしょうか?

多すぎるのは良いことです

B6変異体Nfkbidを持つ、いわゆるトランスジェニックNODマウスは、挿入遺伝子を複数コピー持っているため、自身の遺伝子のコピーのみを持つコントロールマウスよりもはるかに高いレベルのNfkbidを発現していることが判明しました。研究チームは、通常レベルの場合において行われるような細胞排除の阻害ではなく、高レベルのNfkbid発現の場合には胸腺において実際に自己反応性CD8 T細胞の排除の増加が誘導されていることを発見しました。増大したT細胞排除のメカニズムは、Nfkbidを持たないマウスと高レベルのマウスの場合とで違いがありましたが、最終結果は類似したものでした。そのため、自己反応性T細胞は通常レベルの場合にはその排除プロセスが阻害されますが、直感に反して、Nfkbidが存在しない場合でも高レベルの場合でも、自己反応性T細胞は(細胞)集団から排除されます。しかしながら、Nfkbidを欠損したマウスとは異なり、トランスジェニックマウスもまた通常よりも活性の高いTregを多く持っており、排除を回避した自己反応性T細胞を効果的にブロックしたということが極めて重要です。

したがって全体として見れば、トランスジェニックマウスは自己反応性T細胞が少なく、そしてさらにTregの活性が高く、このことがT1Dに対する強力な防御になりました。そのため、マウスモデルでNfkbidを欠損させることは実際には逆効果であり、Nfkbidを増大させるとT1Dの発症が完全にブロックされました。ヒトはNfkbidレベルの増加に対して同様に反応するのでしょうか? さらなる研究が必要ではありますが、本研究結果は、Nfkbidレベルを高めることがT1D療法の効果的な薬理学的標的を提供するかもしれないという非常に興味深い可能性を紹介しています。

英語原文
https://www.jax.org/news-and-insights/2022/july/immune-regulation-dysfunction-contributes-to-type-1-diabetes

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