細胞ごとの子宮内膜症の特徴付け
Research Highlight

By Mark Wanner

ジャクソン研究所の研究者Dr. Elise Courtois 写真提供:Charles Camarda

子宮内膜症は世界中の女性の約10%に影響を及ぼしていますが、その原因、分子的要因や可能性のある治療標的に関する研究は比較的少ない状態です。Dr. Elise Courtois(エリス・クルトワ)は、ジャクソン研究所のSingle Cell BiologyグループのAssociate Directorです。彼女は、子宮内膜症についての認識を広げ、研究への資金を増やすための活動を積極的に行っています。

子宮の内側を覆う組織である子宮内膜は、胚着床の場所として、また妊娠中の胎児を支えるために胎盤につながる動脈の供給源として機能します。人間の場合、受精卵がない時は、子宮内膜は月経によって排出されます。したがって、子宮内膜は、女性の生殖年齢を通じて定期的に失われ、その後再び増殖するという点で他の組織と異なります。しかし、女性の約10%では、子宮内膜様組織 (病変) が子宮の外側でも増殖し、子宮内膜症を引き起こします。

細胞ごとの子宮内膜症の特徴付け

子宮内膜症は痛みを特徴とし、不妊症を引き起こす可能性がありますが、その分子メカニズムと原因はわかっていません。ジャクソン研究所(JAX)の Dr.クルトワは、子宮内膜症の原因を明らかにし、子宮内膜症により多くの臨床的関心を向けるための取り組みを主導しています。一般的な治療法はホルモン療法と外科手術ですが、確定診断と臨床効果が依然として大きな課題となっています。残念ながら、病変が再発した場合は手術を繰り返さなければならず、再発はよくあります。この状況を改善するには、病変がどのように、そしてなぜ成長するのか、細胞の構成および微小環境などの生物学的側面をより深く理解することが不可欠です。

JAXのSingle Cell BiologyグループのAssociate DirectorであるDr.クルトワは、UConn(コネチカット大学)医学部の産婦人科准教授であるDr. Danielle Luciano(ダニエル・ルチアーノ)と協力して、14名から採取した病変に基づき、この疾患の包括的な細胞アトラスを開発するための重要な研究を最近完了しました。この14名は、UConn HealthのCenter of Excellence Minimally Invasive Gynecologyで子宮内膜症の治療を受けた人たちです。 Nature Cell Biologyに掲載された論文 「Single-cell analysis of endometriosis reveals a coordinated transcriptional program driving immunotolerance and angiogenesis across eutopic and ectopic tissues(子宮内膜症のシングルセル解析により、正所性の組織と異所性の組織全体で免疫寛容と血管新生を促進する調整された転写プログラムが明らかになった)」には、健康な子宮内膜組織と異所性 (正常部位の外側) 病変の徹底的な比較が含まれています。 データはまた、子宮内膜症の微小環境と、本来であれば増殖に適さない場所で病変が形成および成長することを可能にする条件についても説明しています。

「この研究は、子宮内膜症とそれがどのように成長するかをより深く理解するための強固な基盤となります」とDr.ルチアーノは言います。「これは素晴らしい進歩です。この研究が早期の診断と、より良い治療のためにこれらの異常細胞を特異的に標的とする能力につながることを願っています。」

成長と免疫逃避

研究チーム(筆頭著者でPredoctoral AssociateのDr. Yuliana Tan⦅ユリアナ・タン⦆とAssociate ProfessorでありSingle Cell BiologyのDirectorである Dr. Paul Robson ⦅ポール・ロブソン⦆を含む)は、症状を緩和するために病変を切除した個人の組織を使用して研究を行いました。全員が、最も頻繁に行われる子宮内膜症の治療戦略であるホルモン療法も受けていました。病変は間違った場所で成長する子宮内膜様組織であることを考えると当然ですが、腹膜内の病変の細胞組成は正常な子宮内膜の細胞組成と非常に似ていました。一方、卵巣病変は、腹膜病変とは組成と遺伝子発現の両方に大きな違いがありました。したがって、卵巣と腹膜のいずれでも病変が形成されますが、それぞれ異なる環境であり、2つの部位間の細胞および分子の重要な違いにつながります。この発見は、より効果的な治療法を開発するには部位特異的な検討が必要である可能性を示しています。

子宮内膜症のもう1つの側面は、がんと同様に、病変に異常な増殖が現れることです。これは通常は免疫監視機能によって排除されるはずです。そこで研究チームは、腹膜病変の微小環境における免疫細胞が、なぜ異常な病変細胞を排除しないのかを調査しました。彼らは、マクロファージと樹状細胞という2種類の重要な免疫細胞が、免疫抑制と免疫監視逃避を促進することに寄与していることを発見しました。それらの特徴は、妊娠中の胎児の免疫寛容に関連するものと似ており、子宮内膜症は、人体に必要な本来の免疫プロセスを乗っ取って病変の形成と持続を可能にしていることを示唆しています。

子宮内膜症の知識とケアの向上

この論文では、正常な子宮内膜と異所性病変の両方の他の側面について詳しく説明しています。これには、血管新生の特性と子宮内膜の再生を促す要因、子宮内膜症における病変の形成が含まれます。特に興味深いのは、腹膜病変と卵巣病変の血管新生 (血管形成) の大きな違いであり、子宮内膜症の部位特異的な性質をさらに強調しています。また、注目すべきこととして、これまで特徴付けられていなかった上皮細胞集団が同定され、この細胞集団が子宮内膜と病変形成の両方の前駆細胞である可能性も認められました。ただし、それらの正確な役割を明らかにするにはさらなる研究が必要です。

「シングルセル解析と抗体ベースのマルチプレックス・イメージング技術は、子宮内膜の微小環境の複雑さに対する重要な知見を提供します」とDr.クルトワは言います。「この複雑さを理解することは、効率的な新しい診断ツールおよび治療ツール開発の鍵となります。これらのツールはとても必要とされているのです。」

全体として、このデータは子宮内膜と病変の完全な説明を捉えており、この疾患に関与する重要な細胞と分子ダイナミクスを理解するための強力な基盤を構築しています。このデータは、子宮内膜症の研究にとって重要な前進であり、将来の治療法と診断法に不可欠な情報を提供します。それは、研究途上にあるこの疾患に苦しむ人たちにとって救済をもたらす可能性があります。

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: Characterizing endometriosis, cell by cell

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