出生前発達の正確なオーケストレーションをマッピングした画期的な研究
Research Highlight
カテゴリー:その他
By Mark Wanner
フレーム融合: マウスの出生前発育のさまざまな段階を様式化して表現したもの。ジャクソン研究所の研究者たちは、ワシントン大学が胎生8日目から誕生までの83個の胚から得た1,240万個の細胞の細胞軌跡をコンピュータで正確に再構成するために欠かせない非常に精度の高いデータを提供した。
画像提供: ワシントン大学バジェマスタジオのレイチェル・バジェマ
研究者は、受精卵から生存可能な生物への変化を比類なき解像度で追跡している
[メイン州バーハーバー 2024年2月28日]ある画期的な研究において、ワシントン大学とジャクソン研究所の研究者たちは、単一の受精細胞から生きた複合体に変わる一連の急速な発達を正確かつ詳細に特徴付けました。 『Nature』誌に報告された この研究結果により、どの遺伝子が何百もの細胞型の分化を促進するのかを研究チームが調べられるようになっただけでなく、出生直後1時間以内の遺伝子活性に非常に急速な変化があることも初めて明らかになりました。このことは、出生後の新生児がこのスピードに合わせて適応しなければならないことを明確に示しています。
「単一細胞データセットの規模は膨大です」とJAXのResearch Scientistの Dr. Ian Welsh (イアン・ウェルシュ)は言います。彼はJAXのAssociate Professorである Dr. Stephen Murray (スティーブン・マレー)とともに、胚の形態発生、手足や臓器などの胎児の構造形成に関する重要な専門知識を持っています。彼らは共同で、発達段階ごとにサンプルを収集し、正確に整理する戦略を立てました。
マウスの場合、1つの細胞から5億個を超える細胞までの全プロセスに3週間もかかりません。ワシントン大学のDr. Jay Shendureが率いるチームは、胎生8日目から誕生までの出生前発育の過程にある83個の胚から得た1,240万個の細胞の核をプロファイリングし、このプロセスを厳密かつ詳細に特徴付けました。Dr. Shendureと彼のチームは、これらの核それぞれについてメッセンジャーRNAの配列を決定し、どの細胞で遺伝子が発現しているか、また遺伝子がどの程度活性化しているのかを特定し、最終的には受精卵から誕生までの細胞型の関係を示す樹形図を構築しました。
マウスの胚の発生については、通常、卵子が受精してから24時間ごとに調べられます。この研究の大きな目標は、胚を2~6時間の間隔で段階化することにより分析の解像度を高めることでした。しかし、妊娠期間が発育段階と正確に相関しているわけではないことが、この課題を複雑にしていました。つまり同じ同腹子であっても、異なる胚は異なる時期に発育のマイルストーンに達するのです。
「このプロジェクトに対して私達が力を入れてきたのは、サンプル収集の厳密さです。そして重要なのは、『明確な』発達期間内でのサンプルを相互に正確に段階化することです」とDr.ウェルシュは言います。「個々のフレームを積み重ねて貼り合わせて長編映画を再構成しようとしているところを想像してみてください。これらのフレームを時間内に正確に配置すればするほど、映画をより正確に再構成できます。」
発生の過程で、新しい細胞型の形成はほとんどが徐々に起こり、細胞は隣接する時点でよく混合されます。 驚くべき例外は、後期の胎児から新生児への移行でした。 腎臓、褐色脂肪などの特定の細胞型は、誕生直後1時間以内の遺伝子活性に非常に急速な変化を示しました。この発見は、胎盤と繋がる生命から子宮外での生命への変化の大きさを物語っています。
この発見は研究の基盤として、将来の研究への道筋を示しています。たとえば、出生後の適応機能を理解すること、そして急速な適応の根底にあるメカニズムをより深く理解することは、帝王切開で生まれた人間の赤ちゃんと経膣分娩で生まれた人間の赤ちゃんの間の長期的な生理機能と健康への影響の違いを説明するのに役立つかもしれません。そして、この枠組みを拡張すれば、理論的には、受胎から死に至るまでの哺乳類の全生涯を単一細胞で低速度撮影のように表現できる可能性があります。
ジャクソン研究所について
ジャクソン研究所は独立した非営利の生物医学研究機関であり、米国国立がん研究所指定のがんセンターを有し、米国、日本、中国の各地に3,000名を超える従業員を擁しています。 JAXの使命は、疾患に対する精密なゲノムソリューションを探索し、世界中の生物医学 コミュニティに活力を与えることです。その根底にあるのは「人々の健康を改善したい」という私たち皆の探求心です。詳細については、
www.jax.org
をご覧ください。
JAXメディア担当: Cara McDonough、Cara.McDonough@jax.org、919-696-3854
著者:
Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。
英語原文: The precise orchestration of prenatal development (jax.org)