トリプトファン代謝を標的にすることで、寿命を延長する可能性が示される
Research Highlight

By Sophia Anderson

新しい研究は、トリプトファンのキヌレニン代謝経路における延命治療標的の可能性を実証しました。

必須アミノ酸

アリゾナ大学の助教授Dr. George Sutphin(ジョージ・サトフィン)とジャクソン研究所Associate ProfessorのDr. Ron Korstanje (ロン・コルスタンジェ)が率いる研究チームは、老化におけるトリプトファン代謝の新たな役割を明らかにしました。トリプトファンは、私たちの細胞がタンパク質を生成するために使用する必須アミノ酸であり、メラトニンやセロトニンなどの重要なホルモンの前駆体でもあります。消費されたトリプトファンの大部分はキヌレニン経路を通じて代謝されますが、そこではエネルギー代謝において重要な補酵素であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を含む多くの生理活性代謝物が生成されます。キヌレニン経路を介したトリプトファン代謝は、炎症に反応して活性化され、免疫シグナル伝達、酸化ストレス、エネルギー生成を制御します。この経路の調節に障害が発生すると、慢性炎症、アテローム性動脈硬化、神経変性、がんなど、さまざまな加齢に関連した症状が起こります。

長寿を促進する代謝産物とその経路

複数のキヌレニン経路の介入が、無脊椎動物の加齢にプラスの影響をもたらすことが以前から示されています。Nature Communicationsに最近掲載された 論文 「On the benefits of tryptophan metabolite 3-hydroxyanthranilic acid in Caenorhabditis elegans and mouse aging(シノラブディス・エレガンスとマウスの加齢におけるトリプトファン代謝物3-ヒドロキシアントラニル酸の利点について)」では、以前はコルスタンジェ研究室の博士研究員であり老化分野のJAX ScholarでもあったDr.サトフィンとDr.コルスタンジェと研究チームは、酵素3-ヒドロキシアントラニル酸(3HAA)ジオキシゲナーゼ(HAAO)に焦点を当てました。HAAOは、キヌレニン経路の重要な寿命メディエーター、トリプトファン代謝プロセスの中間代謝産物である3-ヒドロキシアントラニル酸(3HAA)を分解します。薬物でHAAOを減少させるか、そのコード遺伝子の発現を阻害すると、線虫シノラブディス・エレガンスとマウスの3HAA濃度が上昇しました。

延命効果をもたらす可能性のある2つの治療標的

研究チームは、HAAOを阻害するか動物に3HAAを直接与えることによって3HAA濃度を上昇させると、シノラブディス・エレガンスとマウスの両方で健康寿命が延長することを発見しました。彼らは、酸化ストレス反応の活性化が一部要因として、シノラブディス・エレガンスの寿命が約30%延び、加齢に伴う健康状態低下の発現時期が遅れることを観察しました。雄マウスを対象とした追跡調査では、3HAAを添加した食餌が、対照食と比較してマウスの寿命を延長することが示されました。また、研究チームが雄と雌のマウスのHaao遺伝子を不活性化したところ、寿命が有意に延長し、その効果は雌のマウスの方が大きいものでした。シノラブディス・エレガンスとマウスでの発見は、HAAOと3HAAの両方が、健康長寿の促進、加齢に伴う炎症の対処、酸化ストレス誘発性損傷軽減のための治療標的になる可能性があることを示唆しています。ただし、HAAOを阻害すると線虫とマウスの両方で初期の成長マイルストーンが遅れ、生殖能力に悪影響を与える可能性があるため、さらなる研究が必要です。高濃度による実験では突然変異と発がん性が観察されているため、3HAAまたはHAAOを阻害する薬剤の適切な投与についても今後の研究で優先的に検討する必要があります。

著者:Sophia Anderson
米国ジャクソン研究所Research Communications部門スペシャリストのSophia Andersonは、ジャクソン研究所のマルチメディアコンテンツのクリエイターです。
SophiaはDiagnostic Genetic Sciencesで学位取得後、ジャクソン研究所に入所し、研究のコンセプトを説明するとともに、記事や映像を通じて、研究の背景にあるストーリーを伝えています。

英語原文: Targeting tryptophan metabolism exhibits the potential to extend lifespan

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