新型コロナウイルス感染症の後遺症(long COVID)の多くの症状
Research Highlight
カテゴリー:感染症
By Mark Wanner
過去3年間で、多くの人々にとって、COVID-19の最初の症状が弱まった後も、SARS-CoV-2感染の影響が長く続くことが明らかになりました。
新型コロナウイルス感染症そのものと同様に、SARS-CoV-2の急性後遺症(PASC)またはlong COVIDとして知られるこの苦痛は、持続期間、症状、重症度が個々人で大きく異なります。そして、データが蓄積されるにつれて、long COVIDは公衆衛生上の深刻な問題であり、すぐになくなることはないように思われます。
long COVIDに関して、広く受け入れられている症例定義はまだありませんが、一般的には、最初の感染から4週間以上経過してもさまざまな症状が持続するまたは新たに発生する状態を指します。ケースバイケースで大きな相違があったこともあり、医療現場がそれを特定の状態として認識するのに時間がかかりましたが、2021年10月1日に診断のためのコード 「COVID-19後の状態(Post-COVID-19 condition)」が導入されました。このコードにより、医師が患者をlong COVIDと正式に診断し、その診断を電子カルテ(EHR)システムに入力できるようになりました。
ジャクソン研究所Professorの Dr. Peter Robinson (ピーター・ロビンソン)とPredoctoral AssociateのBen Coleman(ベン・コールマン)は、全米COVIDコホート共同研究(N3C=National COVID Cohort Collaborative)の一環として、全米中の医療システムからのEHRデータを使用して、long COVIDを調査してきました。診断コードの導入により、彼らとその研究チームは、long COVIDと診断された患者の臨床データを分析して、その特徴をより適切に定義することができるようになりました。彼らはまた、long COVIDというまだ十分に理解されていない包括的な診断名に含まれるサブタイプを特定して定義することが可能かどうかも検討しました。 eBioMedicineで発表された 彼らの調査結果「Generalisable long COVID subtypes: Findings from the NIH N3C and RECOVER programmes(汎化性の高いlong COVIDのサブタイプ―NIH N3CならびにRECOVERプログラムの結果)」は、long COVIDには明確に異なる複数のサブタイプが存在することを示しています。これは、患者を層別化し、治療戦略の参考になります。
Long COVIDのサブタイプ
Dr.ロビンソンと研究チームは、38のデータ・パートナーから、正式にCOVID-19後遺症の診断を受けた合計20,532人の患者のデータを取得することができました。2022年8月時点で540万人以上のCOVID-19患者のデータが N3Cプラットフォーム・データベースにあったことを考えると、これは非常に少ない人数ですが、この20,532人の集団は、全員が医師の診断を受け、全員が関連する臨床データを保有していることを考えると、long COVIDに関する研究にとって非常に重要です。研究者らはlong COVIDを、外来患者の場合は最初にCOVID-19が確認された日から28日後、入院患者の場合は入院終了の28日後に認められるものと定義しました。
研究チームは臨床所見を、Dr.ロビンソンのラボによって開発および維持されているヒトの特質を記述するための標準フレームワークであるヒト表現型オントロジー(HPO=Human Phenotype Ontology)に含まれる計算可能な式にマッピングしました。これにより研究チームは、コホート全体のデータを分析することができました。フェノマイザーという計算アルゴリズムを利用することで、彼らは患者のペア間の類似度を評価することができました。また、さらなる計算により、患者は6つの異なるグループに分かれ、それぞれが異なるlong COVIDサブタイプを表すことが明らかになりました。サブタイプは、主な臨床症状によって定義されます。
- 多系統の症状と臨床検査値異常(当初の感染が重度であることと関連しており、以下の複数の症状を高頻度に認める: 神経精神症状、肺、体質⦅例:一般的な疲労⦆、心血管系症状、めまい、および臨床検査値の異常)
- 低酸素血症および咳
- 神経精神系症状(頭痛、不眠症、うつ病、運動異常)
- 心血管系症状
- 痛みおよび疲労
- 多系統の痛み(1に準ずるが臨床検査値異常がない)
各クラスターは、それに関連する年齢、性別、人種の割合が異なり、過去の併存疾患や状態も異なります。
Long COVIDに対する高精度治療
この調査結果は、ベースラインの危険因子の数々に基づいて、long COVIDのメカニズムが個人間で異なる可能性を明確に示しています。これに照らすと、NIHの「RECOVER= Researching COVID to Enhance Recovery(回復を促進するためのCOVID研究)」などの臨床研究では、候補治療法を特定する取り組みにおいて、サブコホート(患者の部分集団)を定義する必要があると考えられます。そして今後は、long COVID患者を層別化することが効果的な治療のために重要となります。これは、単一のアプローチがすべてのサブタイプに適切に対応できるかどうか不確かなためです。
著者:
Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。