アルツハイマー病の一般的な危険因子を調べるための新しい疾患モデルの使用
Research Highlight

By Mark Wanner

A digital image of a computerized brain, symbolizing dementia and Alzheimer's Disease research

アルツハイマー病(AD)の感受性と回復力の根底にある複雑な遺伝子の影響はほとんど解明されていないままですが、リスクに影響を与える明確な遺伝子が1つあります。アポリポタンパク質E(APOE)です。

人間が保有するAPOEには、わずかに異なる3つのアイソフォーム(対立遺伝子として知られている)が存在します。最も一般的なε3はADに対して中立的と考えられますが、ε2 はADに対して一定の保護作用を示し、ε4はADリスクを大幅に増加させます。APOEε4のコピーを 2 つ持つ人 (人口の2~3%と推定される) は最大のリスクにさらされますが、APOEε3のコピーを1つとAPOEε4のコピーを1つ持つ人も、時間の経過とともにADを発症する可能性が高くなります。

APOEε3/ε4またはAPOEε4/ε4を持つ人々をより高いADリスクにさらす分子メカニズム、ならびに、それらの間の微妙な違いに関する研究は、ADの進行について、また想定される治療標的について必要な知見を提供します。長い時間がかかる、患者数が少ない、組織を入手できないなど、多くの要因によりヒトでの研究が非常に困難になっているため、モデル動物を使用した研究も不可欠です。残念なことに、ヒト化APOE対立遺伝子を持つマウスを使用した研究は、長年にわたって厳しく制限されていました。現在、ジャクソン研究所(JAX)、インディアナ大学およびピッツバーグ大学に拠点を置く研究センターであるMODEL-ADは、ヒト化APOEε3およびAPOEε4マウス系統を含む、AD研究に有用で入手可能なマウスモデルの開発と作製に取り組んでいます。

論文「The APOEε3/ε4 Genotype Drives Distinct Gene Signatures in the Cortex of Young Mouse(APOEε3/ε4遺伝子型は若齢マウスの皮質で異なる遺伝子発現パターンを誘導する)」において、JAXのProfessorである Dr. Gareth Howell(ガレス・ハウエル と、Dr.ハウエルのラボで研究している元タフツ大学院生Dr. Kate Foley(ケイト・フォーリー)が率いる研究者たちは、ヒトで最も一般的な高リスクの組み合わせであるAPOEε3/ε4マウスの初期の評価結果を示しています。この知見は、比較的若齢のAPOEε3/ε4マウスでさえ、分子レベルではAPOEε3/ε3マウスおよびAPOEε4/ε4マウスと大きく異なることを示しています。

「APOEアイソフォームの生物学的な研究の多くは、これまでAPOEε3/ε3APOEε4/ε4など、各リスク遺伝子型がホモ接合のマウスで行われてきました」とDr.ハウエルは述べています。「しかし、ヒトで最も一般的なリスク遺伝子型はAPOEε3/ε4などのヘテロ接合です。MODEL-ADが開発した新しいマウスを使用して、Dr.フォーリーは、ホモ接合型とヘテロ接合型の両方のAPOE遺伝子型を持つ同腹子コントロール群を作製することができました。」

この研究では、アルツハイマー病のリスクを軽減すると考えられている自発運動の有無を問わず、生後2か月齢と4か月齢のマウスについて調べました。これらの若齢マウスでは、ヒトAPOEε4保因者で高値となるコレステロールレベルにAPOE遺伝子型の影響はみられませんでしたが、遺伝子発現については、両月齢のAPOEε3/ε4ヘテロ接合マウスとホモ接合APOEε4/ε4マウスで差がみられました。注目すべきことに、APOEε3/ε4マウスに固有の遺伝子は、4か月齢の時点で「細胞外マトリックス」と「血液凝固」機能が強化されており、正常な脳血管の完全性と機能が早期に破壊される可能性があることが示されました。このような病態機序は、ヒトでは加齢とともに悪化していきます。APOE遺伝子型は、マウスが運動にどのように反応するかについては影響を与えませんでしたが、2つの変数間で起こりうる相互作用を引き続き調査し、時間の経過とともに顕著な保護効果があるかどうかを確認する老化研究が進行中です。

「Dr.フォーリーの研究は、APOEの対立遺伝子がADおよび関連する認知症のリスクに影響を及ぼすメカニズムを調べる際には、ヘテロ接合のAPOE遺伝子型を考慮することが非常に重要であることを示しています」とDr.ハウエルは語っています。

著者: Mark Wanner

米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています
サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: Using new disease models to investigate a common risk factor for Alzheimer's

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