SPG50と戦い、世界を変える
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By Brian Oleksiw

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ピロボラキス一家の写真(左からテリー、ゾーイ、ジョージア、マイケル、ザック)

写真提供:テリー・ピロボラキス

テリー・ピロボラキス(Terry Pirovolakis)と彼の家族は、息子マイケルが抱える希少疾患SPG50の治療法を開発するためなら地球の果てまで行きます。彼らの非常に困難な戦いは、マイケルやSPG50を抱える他の人々を助けるだけでなく、希少疾患全体の治療方法を変える可能性もあります。

ジョージア・ピロボラキス(Georgia Pirovolakis)は、息子に対して親として漠然とした疑惑を持っていましたが、それが現実になった瞬間を決して忘れないでしょう。マイケルの診断を受けることが不可欠でした。それはすべて、彼女が「何かがおかしいと感じた!」ということから始まりました。彼女の夫のテリーも同じことを感じていました。

嫌な予感が厳しい現実に

両親は、2017年12月17日に生まれたマイケルが生後5か月まで頭や手を上げていなかった時に、初めて何かがおかしいと疑いました。数週間が経ち、彼らはこれらの成長が見られない原因を探そうとしました。マイケルの筋緊張の低さと平均よりも小さい頭に関連しているのではないかと考えました。1歳になるまでに、筋肉の緊張と可動性が改善されましたが、医師はマイケルの脳のMRI検査で脳梁の菲薄化と異常な白質を発見しました。この発見の直後、マイケルは大きな発作を起こし、これまでの身体的成長の多くが失われてしまいました。

2019年4月、家族はマイケルのゲノムを分析してもらい、ついに医師は希少疾患SPG50(AP4M1)を引き起こす遺伝子変異を発見しました。

「この診断には打ちのめされました」とテリー・ピロボラキスは語っています。「私たちは何かがおかしいことはわかっていましたが、この病気がどれほどひどいものであるかを正確に知ることは大きな衝撃でした。このことがわかった時、私たちの魂の一部が奪われる思いでした。」

SPG50(痙性対麻痺タイプ50)は、世界中で約80人しか患者がいないと言われています。筋緊張低下、小頭症(頭が小さい)、てんかんなどから始まり、やがて全身に影響を及ぼすようになる稀な疾患です。この疾患は通常、つま先から始まり、徐々に体の上部に進行し、ほとんどの患者は10歳までに痙縮による下半身麻痺を経験し、後に四肢麻痺になります。この病気は精神障害も伴い、多くの人は歩くことも話すこともできません。この病気の存在が知られるようになったのはつい最近で、この病気を患う成人患者はほとんどいないため、病気が寿命に及ぼす影響はわかっていません。

希少疾患の旅が始まる

診断後、ピロボラキス一家は行動を起こしました。彼らは、同様の希少疾患(SGP47、SPG15、CMT4Jなど)を持つ家族と話し、関連記事を読み、会議に出席しました。そして、ひと月も経たない間に、情報を収集し、助けてくれそうな専門家に会うことを希望して、米国遺伝子細胞療法学会に出席しました。

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ピロボラキス氏がSPG50の治療法を見つけるために掲示したWANTEDのポスター

「まさに出たとこ勝負でした」ピロボラキス氏は次のように説明しています。「そこでは誰とも面識がなかったので、息子の顔と私の情報を掲載したWANTEDのポスターを貼って、SPG50に関する情報を知っている人に連絡を求めました。私は、アメリカ食品医薬品局(FDA)、アメリカ国立衛生研究所(NIH)、遺伝子治療企業や、この分野の世界的専門家など、私と話をしてくれる方々とのコーヒーミーティングを設定しました。

これらすべてが最終的に、Dr.スティーブン・グレイ(Steven Gray)との出会いにつながりました。Dr.グレイは著名な分子生物学者であり、ピロボラキス氏に様々な情報を与えてくれました。朗報は、突然変異した遺伝子を「修復」することが可能であり、SPG50による損傷を理論的に元に戻すことができるということでした。希少疾患と戦う非常に多くの家族に影響を与える悪いニュースは、この治療法がまだ開発されていないことでした。さらに悪いことに、そのような治療法を検討するには(成功の保証はありません)、少なくとも300万ドルの費用がかかるということでした。

ひるむことなく、ピロボラキス氏と彼の家族は高額な賭けに出ることにしました。「私たちはすぐに今まで貯めてきた蓄えを現金化し、研究グループに連絡を取り始めました。資金はとうてい十分ではありませんでしたが、できるだけ早く始めなければならないことはわかっていました。1ペニーも集まっていない段階で、自分の家よりも高額な契約に署名するのは怖かったです。」

最初のステップは、マウスを見つけることでした。治療法となる可能性のあるものを安全に検討する唯一の方法であるため、マウスは非常に重要でした。ピロボラキス氏によると、誰もがジャクソン研究所(JAX)を勧めたそうです。JAXがマウスと希少疾患の専門知識を持っているからです。ピロボラキス氏は、JAXの迅速な対応と支援に感銘を受けました。

「泣きながらJAXのラボにメッセージを残したのですが、その後のJAXの対応の早さに驚きました。JAXはすぐに使えるマウスを用意し、英国から出荷してくれたのです。」とピロボラキス氏は語ります。「マウスは希少疾患の治療の絶対的な基盤であり、JAXは私たちを待たせませんでした。JAXには思いやりが溢れています。彼らは、マウスの準備が整ってすぐに私たちに知らせてくれました。」

JAXの希少疾患トランスレーショナルセンターのVice Presidentである Dr.キャスリーン・キャット・ルッツ(Cathleen “Cat” Lutz) は、ピロボラキス氏と共にその道のりを歩み始めました。現在も彼と協力して治療プロセスを進めています。「JAXでは、すぐに使用できるマウスリソースとモデルを用意しています。マウスがまさに対象としている変異を含むように、マウスを遺伝子操作しなければならないことがよくあります」とDr.ルッツは言います。「親が子供のためにこれほどの努力をしているのを見るのは、個人的にとても心を動かされますが、同時に、ゼロから治療法を開発するためにすべてが彼らの肩にかかっているのはひどいことです。」

Dr.ルッツと協力して、新しく開発されたマウスモデルを得て、ピロボラキス氏はSPG50の治療法となる可能性のあるものを探るという骨の折れる仕事に飛び込みました。特にボストン小児病院やNIH連絡を取りました。研究内容を整理し、Dr.グレイや他の専門家の専門知識に頼って、ピロボラキス氏は治療法となる可能性のあるものを示す十分なエビデンスを急いで集めました。

SPG50を治療するための多国間での取り組み

研究が進むにつれ、ピロボラキス夫妻の資金調達の必要性も増していきました。「私たちは、できるだけ早く治療を始めたいと思っていました。ですから、研究と治療プロセスを継続するための資金が集まるのを待っていられなかったのです。」とピロボラキス氏は述べています。「コミュニティは驚くほど私たちをとても助けてくれました。私たちは基本的にイベントに参加するだけでした! ここ(トロント)の私たちのコミュニティは素晴らしく、私たちのために力を合わせてくれました。」

JAXでDr.ルッツと治療法について話し合いながら、ピロボラキス一家はマイケルの最終的な治療(遺伝子治療の開発と製造、治療薬の投与、その他多くの医療上必要なもの)のための資金を調達しなければなりませんでした。カナダ全土および世界中でイベントが計画されました。公民館や教会の募金箱から、サッカーやゴルフのトーナメント、サイクリング、マラソンまで、あらゆるイベントが、JAXのマウスを使って治療法を開発するための莫大な費用負担を少しずつ減らすのに役立ちました。そして最終的には300万ドルという巨額の資金が集まりました。これを1人で調達すると考えると驚異的な金額です。残念なことですが、一般的には希少疾患と戦う家族がこの負担を自分たちで背負っています。

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マイケルとSPG50治療法発見のための資金を呼びかけるチラシのコラージュ

「私たちは喜んで患者さんのご家族を指導し、導いていきます。また、希少疾患と戦うご家族のために助成金やプログラムを準備するよう努めています」とDr.ルッツは言います。「でも悲しいことに、全てを賄う資金ではありません。つまり、ご家族はご自身でプログラムを探さなくてはならないのです。結局のところ、希少疾患を治療するには様々な人々の協力が必要なのです。個々の家族が、すべての資金調達、研究、治療に関する照会を自分達で行う必要がなくなれば良いのですが。」

ピロボラキス一家が探求を続けていたとき、すべての進捗を脅かす障害にぶつかりました。COVID-19です。しかし、彼らは果敢に立ち向かいました。長距離を自転車で移動するなど、ソーシャルディスタンスを保てる活動を利用することで、最終的な治療法となる可能性のあるもののための基盤作りを継続しました。

希少疾患を遺伝子レベルで攻撃

2020年までに、医療専門家や研究者の多国籍グループと協力するなかで、治療薬を製造すべきかどうかという大きな問題が残っていました。検討結果は、確実な成功とは言い難いものでしたが、治療薬が効くかもしれないということが示されました。いくつかの問題はまだ残っていましたが、最終的にピロボラキス一家は数百万ドルの賭けに出ました。「この病気は進行が遅いため、最終的な効果は劇的なものではありませんでした」とピロボラキス氏は言います。「でも、それが機能するかもしれないことを示し、そしてクリニックに治療薬を届けるには十分な結果でした。」

ピロボラキス氏は、医療専門家と関連施設が彼の家族をどれだけ助けたかということを常に重視しています。2020年の年間を通じて、COVID-19のピーク時であっても、研究者達は研究室でマスクをして治療の研究に取り組むことを申し出てくれました。彼らはJAXでDr.ルッツと定期的にミーティングを行い、焦点を絞った治療薬開発計画を継続しました。医療施設は、時間と物資を寄付することまでしてくれました。「これらすべての費用だけでも約700万から1000万ドルに相当します。医療施設からの援助と物資がなければ、費用は2,500万ドルをはるかに超えていたでしょう」とピロボラキス氏は述べています。

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SPG50の治療法を開発するために必要なステップのロードマップ

すべての努力が、2021年12月30日の大事な日につながりました。この日、カナダ保健省は、マイケルとSPG50を患うすべての人々の命を救うことが期待される臨床治療薬を正式に承認しました。

研究開発の最後のハードルをクリアしたマイケルは、3月24日にトロント大学付属のThe Hospital for Sick Children(SickKids)で治療を受けました。治療の効果はまだ調査中ですが、ピロボラキス一家は希望を持っています。

1つの戦いは終わるが、希少疾患との戦いは続く

ピロボラキス一家はこの試練によって大きく変わりました。マイケルやSPG50のすべての子供を治療するだけでは満足しませんでした。むしろ、組織レベルでの希少疾患への取り組み方を変えたいと考えています。

マイケルの治療薬を開発するために、世界中の多くの研究機関や研究所が協力してくれました。JAXはマウスから始めましたが、ピロボラキス氏はその後、治療薬を開発するにはどのようにマウスを活用したらいいのか見つけようと、チャールス・リバー、ケンブリッジ大学、NIH、ハーバード大学医学部、SickKidsなど数多くの機関に連絡を取りました。そしてピロボラキス氏は、もっと良い方法があることを知ることになります。

さらに一歩進んで、ピロボラキス氏は世界中の政府関係者に連絡を取り始め他の国における希少疾患治療のモデルを検討するように要請しました。「フランスやオランダにはモデルがあります」とピロボラキス氏は言います。「これらの国々では、希少疾患がリストアップされ、その一つ一つが政府の資金によって取り除かれているのです。一度に取り除かれるには多くないように思われる場合は、米国政府が一年にその一握りを治療することを決定した場合を想像してみてください。私たちは、これらの病気を二度とリストで見ないようにするための技術とノウハウを持っています。必要なのは資金だけです。」

特にピロボラキス氏は米国とカナダに注目しています。ここから始めることが重要であると彼は強調しています。米国がこういうものを承認することを決定したら、他国もそれに追随すると考えているからです。

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SPG50の治療法を開発するために、ピロボラキス一家に協力した機関の一部

ピロボラキス氏は、いずれ何かが変わることに疑いを持ってはいませんが、すべての人に迅速に行動するよう求めています。「毎日、何千人もの子供たちが希少疾患で亡くなっています。これはおびただしい数です。全体として見ると、希少疾患は決して珍しいものではありません。希少疾患は、患者の家族が自分たちで戦う問題ではありません」とピロボラキス氏は言います。「これは人道的な問題なのです。現存し、完全に実現化している技術で子供たちを救うことが、家族にとって、これほど大変なことであってはならないのです。」

世界の指導者たちへのメッセージとして、ピロボラキス氏は冷静でありながら勇気づけられる声明を発しています。「今こそヒーローになってください。私たちの子供たちはより良い人生を送るに値します。私たちは、ただ傍観して何もしないことで、毎日、子供たちをがっかりさせています! 私たちは希少疾患の子供たちを救うことができます。ぜひ一歩踏み出して私たちを助けてください」と彼は言います。「希少疾患の撲滅を開始するためのすべてのものがこの世界には整っています。政府がそれを行うだけです。」

ピロボラキス一家は、SPG50遺伝子治療をできるだけ早く米国とその他の国々に届け、他の子供たちも確実に救えるように取り組んでいます。CureSPG50の詳細については、 ご家族のWebサイト をご覧ください。なお、この記事のすべての画像は、テリー・ピロボラキスの厚意により提供されたものです。

英語原文 https://www.jax.org/news-and-insights/2022/August/battling-spg50-and-changing-the-world

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