ハンチントン病への新しいアプローチ
Research Highlight

By Joyce Dall'Acqua Peterson

白衣の女性

ハンチントン病に対する耐性を付与する遺伝子を突き止めれば、深刻な神経変性疾患や脳の老化そのものに対する新しい治療法につながる可能性があります。

「ALS、パーキンソン病、アルツハイマー病、大鬱病の症状が同時にあるようなものです。」

ジャクソン研究所(JAX)のDr. Catherine Kaczorowski(キャサリン・カゾロフスキー) は、ハンチントン病のことを、このように説明しています。ハンチントン病は、異常な不随意運動、重度の精神的衰退、過敏性や抑うつなどの感情的変化を特徴とする遺伝性の神経疾患です。働き盛りや子育て世代(30~50歳)に発症することが多く、発症や進行を遅らせる治療法は現在のところありません。

希少疾患の遺伝的メカニズムを調べる

国立神経疾患・脳卒中研究所は、ハンチントン病に対する回復力を制御する遺伝的メカニズムを研究するために、合計5,171,556ドルの5年間の助成金をDr.カゾロフスキーに授与しました。

JAXでアルツハイマー病研究のEvnin Family Chairを務めるDr.カゾロフスキーは、神経変性疾患に対する新しいアプローチを追求しています。彼女は、病気の原因となる無数の遺伝子を追跡するのではなく、 認知機能の低下を防ぐ遺伝子を探しています

ハンチントン病は、誰もが持っている遺伝子ハンチンチンの遺伝的欠陥によって引き起こされます。ハンチントン病患者で異なるのは、遺伝子の中のCAGという塩基配列の重複です。標準的な理論では、CAG重複が26未満の人はハンチントン病の症状を発症せず、27から35の人は将来の世代にこの病気を引き継ぐ可能性があり、36から39の人は症状を発症する可能性が高く、40以上の人は本格的に発症します。

「しかし、患者のデータを見ると、患者が遺伝で受け継ぐCAG重複の数が、発症年齢、症状の重症度、または生存期間に必ずしも一致しないことは明らかです。かなり多くのCAG重複を持ちながら、良好な状態の人が確実にいます」とDr.カゾロフスキーは述べています。

ヒトの集団には特有の遺伝的多様性があるため、彼女は次のように述べています。「この病気の患者は、幅広い症状を示します。その症状には、ハンチントン病の進行や重症度に対する回復力なども含まれます。回復力の根底にある遺伝的違いは、健康的な脳の老化、特にハンチントン病の回復力を促進するための新しい治療標的を提供する可能性があります。」

驚くべきことに、彼女はこう語っています。「私たちの研究に用いたマウス系統のうち、アルツハイマー病の突然変異に対して回復力を示したマウスの一部は、ハンチントン病やパーキンソン病からも保護されているようでした。つまり、神経変性疾患を防ぐ共通の因子が存在する可能性があります。」

Dr.カゾロフスキーは、数年前にワシントンD.C.から飛行機で移動しているときに遭遇した出来事に触発されて、ハンチントン病に対する研究を拡大したと述べています。「私は中西部の人間なので、飛行機に乗っていると誰とでも話します。私は、アルツハイマー病を研究している私の仕事について尋ねてきた女性と話をしました。彼女は、ハンチントン病が彼女の家系で遺伝しており、ハンチントン病の症状はアルツハイマー病の症状よりもはるかに早く現れるため、彼女の家族はアルツハイマー病について心配していないと話しました。」

実験風景

ハンチントン病と闘うための共同研究

Dr.カゾロフスキーがメイン州バーハーバーの研究室に戻ったとき、彼女はハンチントン病についてさらに学ぶことに没頭しました。「アルツハイマー病は、直面する可能性のある最も恐ろしい診断だと思っていました」と彼女は言います。「ハンチントン病に関連する認知症、自殺、その他の神経・精神の問題、そしてこの病気が人生の最盛期をどのように襲うかについて聞いたとき、私はこの病気について何かしなければならないと気づきました。」

彼女は、ハンチントン病の文献を検索した結果、ハーバード大学医学部の神経遺伝学教授であるDr. James F. Gusella (ジェームス・F・ガゼラ)の研究にたどり着きました。Dr.ガゼラは、患者の家族のハンチンチン遺伝子座をマッピングし、ハンチントン病の症状の臨床的発症に関与する遺伝的要因の特定に関する論文を発表していました。「修飾遺伝子を見つけるためのマウスを用いた研究について彼に話し、私たちは研究計画について話し始めました。彼は、ハーバード大学医学部の共同研究者であるDr. Vanessa Wheeler (ヴァネッサ・ウィーラー)に声をかけて、マウスとヒトのデータを統合することを提案しました。」

彼女らの共同研究は、新しい研究助成金を獲得しました。「私たちは、ハンチントン病のメカニズムを明らかにするために複数の戦略を用いています」とDr.カゾロフスキーは言います。「ハンチンチン変異は具体的にどのように損傷を引き起こすのでしょうか? また、どの細胞型がそのような損傷から保護しているのでしょうか?」

ハンチントン病に対する回復力に寄与する遺伝的修飾因子を見つけるために、研究チームは変異したハンチンチン遺伝子を遺伝的に多様なマウス集団に導入します。研究チームは、マウスの詳細な行動学的および生理学的スクリーニングを実施して、ハンチントン様症状の発症を測定し、個々のマウスの遺伝子プロファイルをヒトのハンチントン病患者のデータと比較します。

Dr.カゾロフスキーは、ベイラー医科大学の故Dr. Richard Paylor(リチャード・ペイラー)が 発表した研究 と、「非常に才能のある」大学院生であるRandi-Michelle Cowin(ランディ・ミッシェル・コーウィン)によるその後の研究が、新しい助成金のための概念的枠組みを築いたことを認めています。「R6/2マウスモデルを使用した彼らの研究は、ハンチントン病の支配的な遺伝的修飾因子の概念を証明したのです」と彼女は言います。

ハンチントン病は希少疾患であるとDr.カゾロフスキーは言います。「でもアルツハイマー病はそうではありません。レジリエンスアプローチを用いて、これら両方の疾患の治療法を見つけることができれば、それは本当に素晴らしいことです。」

英語原文 A new approach to Huntington's disease

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