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【日本語版】食事制限と認知機能低下の関連性

By Sophia Anderson

JAX illustration by Karen Davis

アンドリュー・ウエレット の興味の対象は、林業から神経科学へ変化し、それにより彼は研究室での仕事を獲得しました。現在、彼は生涯にわたる食事制限と認知機能の喪失との新しい関連性を発見することに力を入れています。

森からラボへ

メイン州中部で育った アンドリュー・ウエレットは、生態学や環境学に興味を持っていました。しかし、林業を専攻したメイン大学を卒業した後も、彼の言葉によると「何になりたいか」まだわかりませんでした。ジャクソン研究所 (JAX) での動物生産の仕事に携わるようになり、それは彼にとって安定した仕事でしたが、最終的に彼は、さらなる方向性をみつけました。入社して数年後、彼は生物学と遺伝学、特に脳に強い関心を抱くようになり、JAXのProfessorであるDr. キャサリン・カゾロフスキー の研究室の研究助手の職に応募しました。

「私はこの流れに身を任せています」と現在、ウエレットは言います。「それが、林業から神経科学に進む方法なのです。」

その探求心と率先する姿勢により、ウエレットは研究室で際立った存在になり、彼が研究助手として仕事を始めたまさにその場所で、2019 年には博士号候補者となりました。現在、研究者として4 年目であるウエレットは、Dr.カゾロフスキーともう一人のメンターである JAXのProfessor Dr. ゲーリー・チャーチル が率いる最新のプロジェクトに関する論文の第一著者です。 Neurobiology of Agingに掲載された論文 「Life-long dietary restrictions have negligible effects on late-life cognitive performance: A key role for genetics in outcomes(生涯にわたる食事制限は、高齢期の認知能力にごくわずかな影響しか与えない─研究結果に見られる遺伝子の重要な役割)」は、加齢に伴う認知機能の喪失に遺伝子構造がどのように関与している か、そして食事制限がこの喪失を相殺できるかどうかを詳しく説明しています。

多様性を利用した研究

カロリー制限 (CR) と断続的断食 (IF) の二つのタイプの食事法は、生涯にわたる食事研究において密接に関連しています。以前の研究では、CR および IF の食事療法が寿命を延ばすことが示されていますが、認知的健康の促進におけるその役割については未だ議論されています。このことは、認知機能の低下を含む加齢の影響を防ぐまたは遅らせるためのツールとして、これらの食事法をどの程度考慮すべきかという疑問を提起しています。

ウエレットと彼のメンター達は、この疑問やさらに多くの疑問に答えることに関心を持っています。総合的に考えると、彼らの研究は、可能な限り多くの人にデータを適用できるようにすることを目指して行われています。

「遺伝的多様性がすなわち認知機能における多様性をも意味しています 」と彼は言います。「幅広いばらつきを伴う膨大な量のデータが予想されます。」

通常、データの変動は望ましくありませんが、ウエレットの研究では不可欠です。マウスを使用した研究で遺伝的多様性を高めると、幅広い人々の反応を反映する可能性が高くなります。diversity outbred (DO) マウスなどの遺伝的に多様なマウス集団を使用することは、研究結果を人間の生物学に当てはめる際により大きな成果が得られる効果的な方法です。

認知力に有害なカロリー制限

研究チームは、DO マウスの 5 つのグループを観察し、そのうちの 1 つのグループは自由に摂食するコントロール群としました。2 つのグループは、週に 1 日または 2 日の断続的な断食スケジュールを実施し、残る 2 つのグループは、通常のカロリーからそれぞれ 20%と40% 削減しました。認知機能は、各グループの生後 24 か月でテストしました。

マウスの認知力はどのように測定するのでしょうか? 刺激が加わるとすくみ行動を取るという、マウスの生来の本能を利用しました。1日目に、各マウスは足元で 4 回の光刺激を経験し、それによりマウスはすくみ行動を取りました。マウスがすくみ反応を示した時間を記録しました。 2日目に、同じ実験を刺激なしでもう一度行い 、マウスが前日の記憶を思い出せるかどうか をテストしました。

ウエレットと彼の同僚は、40% の CR を課したグループが長生きすることを発見しました。これは以前の調査結果と一致するものでした。しかし、晩年の記憶想起の全体的な喪失があり、40% CR は晩年の認知機能を維持するための効果的なツールではないことを示しています。

遺伝的相関の検討

高齢者の認知機能低下に対処することは、単なる食事療法よりも複雑です。遺伝子も重要な役割を果たします。遺伝的要素、より具体的には遺伝率が重要な役割を果たします 。遺伝率は、観察可能な形質が遺伝子にどの程度関連しているか を判断するために使用される尺度方法です。スコア 0 パーセント (0.0) は遺伝子が関与していないことを意味し、スコア 100 パーセント (1.0) は形質が遺伝子のみに依存していることを意味します。

ウエレットは、マウスの遺伝的背景が記憶結果の変動に対して遺伝率スコア 55% (0 .55)相当の寄与をしており、CRとIFの両方の影響をはるかに上回っていることを発見しました。したがって、食事は時間の経過に伴う認知機能の低下に一定の役割を果たすものの、晩年の認知機能に対する食事制限の影響に関与する強力な遺伝的要素が存在すると考えられます。

遺伝子標的に照準を合わせる

経時的な認知機能の保持または喪失に関与する遺伝子はどれなのでしょうか? 答えはたくさんあります。しかし、特にこのうちの一つは記憶の結果と関連しており、人々を記憶の喪失から保護する可能性があります。

「私たちは、ある人がカロリー制限をすることで認知機能が維持されるかどうか を左右する可能性のある遺伝子として、SLC16a7 を特定することができました」とウエレットは語っています。この遺伝子は、記憶の想起に必要なタンパク質 MCT2 をコードします。この遺伝子に関連する遺伝的変異は、晩年の認知機能の増強または悪化の土台となる可能性があり、寿命と認知機能を予測する際にゲームチェンジャー(大変革をもたらすもの)になる可能性があります。

SLC16a7 の変異の影響をよりよく理解するには、さらに多くの研究が必要ですが、ウエレットは楽観的です。

「この遺伝子について、また特定された変異がタンパク質構造、遺伝子発現、またはその両方をどのように変化させるかについて、さらに知ることができれば、予防的治療薬を開発する道筋となる可能性があります。」

下流に目を向ける

研究結果が良かったため、ウエレットは、この最初の食事研究が将来の基盤を提供すると考えています。生活の質は年齢とともにますます重要になり、彼は答えが次々と明らかにされていくと確信しています。

公衆衛生の観点から、加齢の影響を減らすことがこれまで以上に非常に重要になっており、ウエレットの研究と Dr.カゾロフスキーの研究室の研究は、波及効果をもたらすことは間違いありません。食事、遺伝学、加齢を関連付ける継続的な研究は、私たちが最終的に求めているもの、つまり健康的なバランスを得ることに向けて、その局面を変えるのに役立つ可能性があります。

英語原文
https://www.jax.org/news-and-insights/2022/September/connecting-dietary-restrictions-and-loss-of-cognitive-function

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