Research Highlight
【日本語版】がん研究で発見された化学療法耐性のメカニズム

By Mark Wanner

JAX illustration by Karen Davis
(左から)JAXのエド・リューとフランチェスカ・メンギ

ジャクソン研究所(JAX)のDr.エディソン・リューとリサーチ・サイエンティストのDr.フランチェスカ・メンギが率いるチームは、患者データ、患者由来腫瘍移植(PDX)マウスモデル、遺伝子操作されたがん細胞株を使用して、なぜBRCA変異をもつ患者の方がBRCA1プロモーターのメチル化をもつ患者よりもプラチナ製剤療法へのレスポンスが良く、耐性を発現する可能性が低いのかを調べました。

多くの乳がんおよび卵巣がんは、DNA修復に関与する2つの遺伝子であるBRCA1またはBRCA2に変異がある人に発生します。しかし、遺伝子は変異しないものの、代わりに発現を調節するDNA配列がメチル化と呼ばれる化学物質の修飾を受けるプロセスによってBRCA1が抑制されている患者もいます。BRCA1およびBRCA2の変異は化学療法剤に対して格段に感受性が高く、治療により完全寛解、さらには治癒さえもたらす可能性があります。不思議なことに、突然変異とメチル化の両方が、機能的なBRCA1および/またはBRCA2タンパク質の喪失を通じてがんの発生を促進する一方で、患者は、BRCA遺伝子に突然変異があるか、またはBRCA1にメチル化があるかどうかによって、標準的な治療法(カルボプラチンなどのプラチナ製剤療法剤を含む)に対して異なるレスポンスを示します。

BRCA遺伝子変異をもつ患者が、BRCA1プロモーターのメチル化をもつ患者よりもプラチナ製剤療法に対するレスポンスが良く、耐性を発現する可能性が低い理由は、これまでわかっていませんでした。 ジャクソン研究所(JAX)のProfessor Dr. エディソン・リュー とリサーチ・サイエンティストのDr. フランチェスカ・メンギ が率いるチームは、患者データ、患者由来腫瘍移植(PDX)マウスモデル、そして遺伝子操作されたがん細胞株を使用してその違いを調べました。 Science Translational Medicineに掲載された論文 「BRCA遺伝子におけるゲノムおよびエピゲノム変化は、トリプルネガティブ乳がんおよび卵巣がんの患者におけるプラチナ製剤による治療に対する適応耐性とレスポンスを予測する」において彼らは、このレスポンスの違いの分子的基盤を明らかにしています。

がんの発生から治療耐性まで

研究チームは、カルボプラチンおよびNABパクリタキセルによる治療を受けている、卵巣がん患者とトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者の腫瘍を調べました。その結果、BRCA1プロモーターのメチル化をもつ患者は、変異BRCA1および変異BRCA2をもつ患者と比較してレスポンスが悪いことを確認しました。同じようにBRCA1欠損を示すゲノム上の「傷跡(Scar)」を見せているにもかかわらずです。彼らは、この臨床的矛盾を、マウス(患者由来腫瘍移植モデルまたはPDXモデルと呼ばれる)で増殖するヒトTNBC腫瘍を用いて調査しました。このアプローチにより、正確な投与と反復測定が可能になりました。Dr.メンギとDr.リューは、BRCA1変異腫瘍はプラチナ製剤に持続的に感受性があるのに対し、BRCA1プロモーターがメチル化された腫瘍はすぐに化学療法に耐性を持つようになることを発見しました。

さらに研究を進めたところ、化学療法への曝露が1サイクルのみであっても、過去にメチル化されたBRCA1プロモーター領域が脱メチル化され、その結果、BRCA1の発現と治療耐性が増加することがわかりました。この研究結果は、BRCA遺伝子の機能を壊す遺伝子変異は「修正」されるが、プラチナ製剤による治療によってBRCA機能の喪失が持続するため、化学療法への曝露はBRCA1プロモーターのメチル化の喪失とBRCA1発現の増加をもたらすことを示しています。BRCA1の機能を取り戻すと、DNA修復が促進され、がん細胞のDNAにさらに損傷を与える化学療法への耐性が高まります。彼らは、このメカニズムを「適応」耐性と呼びました。効果的な化学療法に腫瘍が迅速に適応するからです。さらにDr.メンギとDr.リューは、BRCA1プロモーターがメチル化された卵巣がんもBRCA1変異卵巣がんよりプラチナ製剤を用いた治療に対するレスポンスが弱いことを関連付けて、卵巣がんにおける既にメチル化されたBRCA1プロモーターの脱メチル化についても、似たようなパターンがあることを発見しました。

治療ガイダンス

研究者らは、BRCAステータスに基づいて卵巣がんとTNBCを機能的に分類するアプローチを使用して、機能的なBRCA1/BRCA2をもつがんにおいて、特定のRNAシグネチャーがプラチナ製剤療法に対する良好なレスポンスを予測できることも発見しました。彼らは、化学療法に対する優れたレスポンスを予測できる可能性があるTNBCおよび卵巣がん診断のアルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムにより患者が過剰な治療を受けるのを防ぐことができるかもしれません。重要なのは、この研究により、この適応耐性メカニズムを抑えることでTNBCおよび卵巣がんの一部における耐性腫瘍の出現を阻止することができる可能性の扉が開かれたということです。

英語原文
https://www.jax.org/news-and-insights/2022/july/mechanism-for-chemotherapy-resistance-discovered-in-cancers

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