Research Highlight
【日本語版】 老化は避けることができないのか?

By Joyce Dall'Acqua Peterson

Nadia Rosenthal in her lab with a stylized frame running through the picture
The Jackson Laboratory's Nadia Rosenthal in her lab. (Photo credit: Tiffany Laufer)

そもそも老化とは何なのでしょうか? なぜ一部の人々は他の人々よりもゆっくりと老化し、衰弱させる病気もほとんどなく、健康的な生活の質を保ったまま90歳、さらに100歳まで生きることができるのでしょうか? 健康的な長寿の要因には食事、運動、その他の環境要因がありますが、それとは対照的な遺伝的な要因というのは、どの程度関係しているのでしょうか?

「年齢自体が、高齢者の病気や障害の最大の危険因子です」と、メイン州バーハーバーにあるジャクソン研究所 哺乳類遺伝学キャンパスのサイエンス・ディレクターである Dr.ナディア・ローゼンタール は述べています。「したがって、老化プロセスを遅らせたり逆転させたりすることができれば、私たちの社会に多大な影響を与えるでしょう。」

また、Dr.ローゼンタールは「モデル動物を使用した研究が増えたことにより、かつては信じられなかった偉業が現実のものとなる可能性があります。しかもいくつかの組織の機能は、より若いレベルに復元できることを示唆しています」と述べています。

たとえば、ハダカデバネズミを例にとってみましょう。このネズミは名前のとおり外見はあまり見栄えしませんが、「ごくわずかしか老化しない」という一種の超能力を持っています。つまり、マウス、ヒト、その他のほとんどの哺乳類のように老化しないのです。

体の中にある時計(インナークロック)

老化には多くのプロセスがありますが、そのひとつひとつが遺伝的メカニズムにより引き起こされています(あなたがハダカデバネズミでない限り)。細胞は自己複製機械であり、細胞再生の速度が低下すると、組織や臓器の機能を妨げる可能性があります。免疫系にある恒常性監視システムが弱まり、炎症が増加し、細胞の副産物を取り除く能力が低下する可能性があります。細胞の突然変異の頻度が高まり、それは加齢とともに蓄積されます。全体像として見ると、私たちが年を取るほど、私たちの細胞でより多くの問題が発生するのです。

 

測定できないものを修正することはできません。そのため、これらのプロセスに介入するという目標は、人間の老化を正確に測定することの難しさによって妨げられてきました。また老化には、遺伝的な要因だけでなく食生活や運動といった偶発的な要因も混ざり合っています。

「例えば今、ヒトの脳を若くする治療法があったとしても、この治療を適切な患者に提供するには、非侵襲的に脳の生物学的年齢を測定する必要があります。そうすれば、誰がこの治療を必要としているのか、誰がこの治療の恩恵を受けるのかを知ることができます。」とDr.ローゼンタールは言います。「測定は、遺伝的に多様なヒトの集団に適用され、理想的には、一時点の年齢を測定するよりも、老化と衰退の早さを測定すべきでしょう。」

血漿タンパク質「時計(クロック)」として知られる新しい考え方

血漿には、約3,000種類のタンパク質が含まれており、循環器系を介して細胞を導きます。2019年、 トニー・ウィス=コレイ教授 が率いるスタンフォード大学医学部の研究チームは、18歳から95歳の4,263人の血漿の分析に基づいて、 Nature Medicineに論文 を発表しました。研究チームは、これらのタンパク質の373のレベルについては、参加者の年齢を高い精度で予測できると総合的に判断しました。

 

血漿タンパク質クロックを機能させる

ウィス=コレイ教授と彼の共同研究者達は、これらの血漿タンパク質クロックを改良してきました。彼は現在、Dr.ローゼンタールと協力して、Milky Way Research Foundationの資金提供を受けて、ヒトと遺伝的に多様な実験用マウスの両方の老化プロセスを調査する大胆な研究プロジェクトに取り組んでいます。

ヒトの老化の研究は、モデル動物、つまりヒトに比べて自然寿命がほんの僅かである動物を用いた実験に依存しています。野生環境では、マウスでは約3か月間生存しますが、実験室の条件では平均2年生存します。JAXは、ヒトの集団全体と同じくらい多くの遺伝的変異を持つ 特別なマウス集団 を活用しているリーダーであり、老化の幅広い特性(科学用語では「表現型」と言います)の研究に理想的なマウスを提供しています。

 

JAXのDr.ローゼンタールのチームは、遺伝的に多様なマウス系統の大規模な集団を育てており、それらのマウスの生涯にわたって、機能データ、血液、尿、組織のサンプルを採取します。スタンフォードのグループは、そのサンプルを分析し、非侵襲的で組織特異的な血漿タンパク質ベースのクロックを開発します。

 

プロジェクトを率いるウィス=コレイ教授は、次のように述べています。「ローゼンタール博士ならびに彼女のチームと、表現型が最も顕著なマウスの老化コホートについて共同研究することについて、私たちは胸が高まる思いです。このプロジェクトで多様な遺伝的背景を研究し、生物学的分子の複数の層にわたる行動と老化の関係を探求することを特に楽しみにしています。」

 

Dr.ローゼンタールによると、この研究の目標は、さまざまな遺伝的状況において自然老化に対する感受性または回復力に影響を与える生物学的経路とネットワークを特定することです。「その次の段階として、私たちは、健康な人、身体的または認知機能が低下している患者さん、認知症の患者さんの大規模なコホートでクロックをテストし、加齢に伴う生活の質低下を防ぐための正確な介入戦略の計画を開始できます。」

英語原文
https://www.jax.org/news-and-insights/2022/april/is-aging-inevitable

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