グローバル化しつつあるHPO(ヒト表現型オントロジー)
Research Highlight

By Mark Wanner

表現型は科学者や臨床医がよく使用する便利な言葉ですが、他のほとんどの人には馴染みのない言葉です。表現型とは、生物の観察可能かつ測定可能な無数の特性を意味し、実際に目に見えるもの(身長/大きさと体重は表現型の一部です)または血中の代謝産物やタンパク質の量など、目に見えないものもあります。

表現型は、生物の遺伝的構成とその環境の相互作用によって生成されます。人間にとって、臨床表現型とは、病気が人の特徴や機能にどのような影響を与えるかを捉えたものです。

最近では、臨床表現型は通常、主治医の診察室などの医療現場で記録され、電子カルテ(EHR)に保存されます。残念ながら、EHRは請求プロセスをサポートするために設定されており、臨床表現型データを標準化された共有可能かつ計算可能な形式で収集できるようには設定されていません。この問題に対処するために、ジャクソン研究所のProfessor Dr. Peter Robinson (ピーター・ロビンソン)率いる研究チームは、ヒトの表現型の多様性をより適切に表現するためのヒト表現型オントロジー(HPO)を開発しました。HPO は広く使用されており、臨床診断、トランスレーショナルリサーチ、患者コホート分析に広く応用されており、今や世界的なリソースです。

Nucleic Acids Research 誌に掲載された「The Human Phenotype Ontology in 2024: phenotypes around the world(2024年のヒト表現型オントロジー: 世界中の表現型)」の中で、Dr.ロビンソンと多数の共同研究者は、HPO Internationalization Effort(HPOIE: HPOの国際化に向けた取り組み)について紹介しています。HPOIEとは、HPOについての国際的なキュレーション(情報収集・整理)を目的として、言語の壁を打ち破ることを目指す翻訳コミュニティの緩やかな提携です。現在、英語のほか、チェコ語、中国語、フランス語、日本語、スペイン語を含む10の公用語があり、これらは 2023 年に更新されました。HPOについての翻訳はすべて、HPO GitHubリポジトリで入手できます。

HPOの更新

英語版のHPOは、15年前の初版発行以来、順調な発展を続けています。この文書には、翻訳に加えて、最新リリース(2020年10月)以降のHPOの最新の更新情報が記載されています。合計で、2,239の用語、612の定義、1,377の同義語が追加または更新され、671の分類の名称が変更されました。英語版のHPOではアメリカ英語の綴り規則が使用されていますが、イギリス英語の綴りも同義語として提供されています。

また、臨床専門家とのワークショップや、分野専門家とHPOチームとのディスカッションに基づいて、特定の臨床領域に対するHPOの対応範囲を改善するための継続的な取り組みも行われています。新たに強化された臨床分野には、行動、出生前医学、自己抗体、脳性麻痺、呼吸器、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ならびにその後遺症(long COVID-19)などが含まれます。HPO実施に関連するその他の取り組みには、他のオントロジーとの相互運用性、臨床診断ソフトウェアとの統合、EHRデータの相互運用性などがあります。

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: The HPO goes global

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