マウスのフレイル測定
Research Highlight

By Mark Wanner

ジャクソン研究所Associate ProfessorのDr.ヴィヴェック・クマール
写真提供:ティファニー・ローファー

老化は誰もが経験するプロセスですが、すべての人が同じように、または同じ生物学的スピードで老化するわけではありません。遺伝的要因と環境的要因の組み合わせがヒトの老化に影響を与えるのです。同じ年齢の人々のグループでも、年齢に関連する特徴がかなり異なることがよくあります。

加齢が進むと、健康に関して悪い結果が生じやすくなります。臨床医はフレイルインデックス(FI)として知られる指標を通じて個人差を把握します。年齢に関する一連の健康障害に基づいてスコア付けし、FIが高いほど、その人は虚弱であり、健康状態が悪化するリスクが高いことが示されます。老化の生物学を研究し、可能性のある介入について評価するために、研究者たちはこの概念をマウスにも拡大しました。専門の観察者は、マウス用のFIを使用して個々のマウスを正確にスコアリングできますし、スコア付けする側の一貫性も良好です。しかし、これはスコア付けする人の間で議論し、スコアを修正する作業に依存しているため、手間のかかるプロセスです。そのため、特に長期および/または複数施設での研究では、そのような研究の範囲が大幅に制限されます。

この問題に対処するために、ジャクソン研究所(JAX)Associate Professorの Dr.ヴィヴェク・クマール は、ビデオカメラとコンピューターサイエンスに着目しました。それが自動ビジュアルFI (vFI)です。vFIは、オープンフィールド・アッセイ(基本的にはオープン・スペースでのマウスの動きを指します)からのビデオデータを使用する機械学習(ML)ベースのツールです。身体測定値、歩き方の特徴、FIスコアおよび年齢と相関するその他の行動特性により、正確で再現性があり、かつスケーラブルな vFI 測定が提供されます。このvFI は、Nature Agingに掲載された論文「 A machine-vision-based frailty index for mice (マウスの機械ビジョンベースのフレイル指数)」に記載されています。

観察を超えて

Dr.クマールはこれまでに、 グルーミング歩き方不快感への反応睡眠 などのマウスの行動や動きのビデオデータを自動的に分析する MLアルゴリズムを開発し、アルゴリズムの学習に取り組んできました。 フレイル研究では、MLの概念をさらに一歩進め、視覚データを使用して、専門の観察者ですら検出できない測定値や詳細をキャプチャしています。研究チームにはDr.クマールのほかに、共同筆頭著者のLeinani Hession(レイナニ・ヘッション⦅ポストバック研究者⦆)、生物統計学者のDr. Gautam Sabnis(ゴータム・サブニス)、JAX Center for Aging Research(JAX老化研究センター)のリーダーである Dr. Gary Churchill (ゲーリー・チャーチル)が含まれていました。vFI では、研究者らはさまざまな年齢の雄と雌のマウス533匹を使用し、オープンフィールドプロトコルを使用した3ラウンドのテストの1時間のトップダウンビデオを撮影しました。これとは別に、それらのマウスは4人の異なる専門スコアラーによって従来のマウスFIを使用して評価されました。手動FIスコアはスコアラー間でばらつきがあり、たとえば、あるスコアラーのFIスコアは常に高く、別のスコアラーのFIスコアは一貫して低かったため、手動スコアリングの欠点が示されました。

研究者らはビデオデータから、グルーミング、歩き方、姿勢の測定値、機械学習のための特徴量などの44の特徴を抽出しました。ヒトとげっ歯類のいずれでも、加齢に伴って体組成と脂肪分布が変化するため、後者には、動物の形状 (形態計測的特徴) をキャプチャするデータが含まれています。そして実際、形態計測上の特徴はFIスコアおよび年齢と高い相関関係があることが判明しました。歩き方やその他の動作の変化にも強い相関がありました。また、ビデオデータでは、雌雄間の顕著な違いを示す項目はほとんどなかったものの、歩行測定では雄と雌のマウス間の違いが示されました。

画像提供:マット・ウィムサット

手動スコアリングでは、一部の項目のみが手動FIのほとんどの情報を提供していました。そのためDr.クマールと研究チームは、ビデオの特徴に基づいてスコアを予測するために、手動スコアリングからの情報の大部分を提供する9つの項目ごとに分類器を作成しました。次に、ビデオデータから収集した特徴を使用して、年齢とフレイルを予測する機械学習モデルをトレーニングしました。その結果、手動のFI項目よりもvFIを使用した方が正確に年齢を予測できることがわかり、ビデオデータには老化に関する付加的なシグナルが含まれていることが示されました。

将来の老化研究のためのフレイルインデックスの自動化

論文に付随する解説の中で、老化研究と老人医学の専門家であるElise Bisset(エリーゼ・ビセット)とSusan Howlett(スーザン・ハウレット)は、自動化されたvFIスコアリングの重要性と、これが老化におけるハイスループット研究を前進させる可能性を強調しています。特に、多数のマウスをスコアリングできることは、フレイルを軽減し、臨床への移行を促進する可能性のある介入をテストするための重要なプラットフォームを提供します。

Dr.クマールは、既存のデータの再分析と将来の技術進歩の両方に基づいて、新しい機能を追加することで、vFIをさらに改善できる可能性があると指摘しています。さらに、Dr.クマールは最近、遺伝的に多様なマウス集団を使用して、遺伝的変異がフレイルにどのような影響を与えるかを調査するためにアメリカ国立老化研究所から助成金を受けています。このツールは研究間および研究室間で統一されたvFIを提供できるため、研究機関がモデルを改善し、大規模な老化研究の勢いを向上させることにつながります。

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: Using machine learning and computational science to measure frailty in mice (jax.org)

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