筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の根底にある機能メカニズム
Research Highlight

By Mark Wanner

何十年もの間、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 (ME/CFS) を持つ人々は、複数の障害に直面してきました。最も差し迫った障害は、重度の疲労、労作後倦怠感、疼痛、睡眠障害、胃腸障害といったME/CFSの症状です。一方で、ME/CFSについて確定的な臨床検査結果やバイオマーカーがないため、診断と適切な医療サポートを得ることもまた障害となる場合があります。

ME/CFSにかかっている人は、症状を過大に話していると片付けられたり、その身体的機能障害は、メンタルな問題に起因する心因性のものであると言われたりします。

ジャクソン研究所 (JAX) の Professor Dr. Derya Unutmaz とAssociate Professorの Dr. Julia Oh は、ME/CFSの医師やその他の専門家と協力して、こうした障害を取り除くことに取り組んでいます。3つのME/CFS共同研究センターの 1 つとして国立衛生研究所 (NIH) の支援を受け、彼らは現在の検査で明らかにされていないことを調査してきました。つまり、究明するのは困難ですが、そのような衰弱性疾患の根底にあるME/CFS 患者の違いは何なのかということです。彼らの研究には、血液中の免疫細胞と代謝産物、および体内の微生物の徹底的な分析が含まれていました。免疫系、代謝、マイクロバイオームの機能障害が重要な役割を果たしているのでしょうか? それとも、それらは相互に関連しているのでしょうか? また、ME/CFS患者群と健康な対照群との間には、効率的な診断につながり、その後の治療の決定に役立つような明確な違いがあるのでしょうか?

微生物と代謝

Dr. OhとDr. Unutmaz、ならびにその共同研究者による新しい研究では、ME/CFSにおける宿主とマイクロバイオームの相互作用、および潜在的な代謝への影響が掘り下げられています。 Cell Host & Microbeに掲載された 「Multi-'omics of host-microbiome interactions in short- and long-term Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome (ME/CFS)(短期および長期の筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群⦅ME/CFS⦆における宿主とマイクロバイオームの相互作用のマルチオミクス)」では、2つのグループ(診断から4年未満または10年超)に分類したME/CFS患者と健康な対照群を調査しました。血液と便のサンプルに加えて、研究チームは参加者から広範な臨床データと生活様式データを収集しました。彼らが発見したのは、グループ間で異なる微生物特性と代謝特性であり、それにはME/CFS患者に特有の複数のバイオマーカーが含まれていました。

「マイクロバイオームが、ME/CFS の潜在的な要因として浮上しています」と、NIHの国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)のプログラム・ディレクターであるDr. Vicky Whittemoreは述べています。「NIHが資金提供するJAXのME/CFS共同研究センターによるこれらの発見は、ME/CFSにおけるマイクロバイオームの役割に関して独自の洞察を提供し、腸内微生物の違いがME/CFSのバイオマーカーとなる可能性があることを示唆しています。」

以前の研究では、腸内微生物叢の変化がME/CFSに伴う胃腸障害の原因であるという可能性が示されました。しかし、それらの研究は比較的小規模であり、分析に用いられた解像度も高くありませんでした。そのため、Dr. OhとDr. Unutmazらの研究チームは、研究参加者の腸内微生物叢の広範かつ高解像度の分析を行い、全体として、ME/CFS患者から採取したサンプルでは、より不均一かつ多様性の低い微生物群集が認められ、老化や慢性炎症性疾患でみられるものと同様の、程度は低いものの広範な腸内微生物叢異常を伴うことを明らかにしました。しかしながら興味深いことに、研究チームが短期および長期のME/CFSグループを別々に調べたところ、短期グループの腸内微生物叢が最も大きく乱れていることがわかりました。長期グループの腸内微生物叢は対照群に近い状態に戻っており、低存在量の一部の微生物種の再獲得によって、微生物の多様性がより正常なものとなっていました。それにもかかわらず、長期グループでは、線維筋痛症や睡眠障害の悪化、代謝異常など、より深刻な疾患関連の特徴がみられました。

ME/CFSのバイオマーカー

さらに研究チームは、トリプトファン、酪酸、プロピオン酸の生産に関与する低存在量の微生物が、ME/CFS患者にはほとんど存在しないことを発見しました。これらの物質は、炎症反応の調節など、代謝および内分泌機能の調節にとって重要な物質です。酪酸が主要なエネルギー源および抗炎症剤として腸細胞で果たす重要な役割を考慮して、研究チームは、酪酸がME/CFSで果たす可能性のある役割をより深く理解するために酪酸経路に焦点を当てました。彼らは、ME/CFS 患者では血漿中のイソ酪酸が枯渇していること、またマイクロバイオームのデータから酪酸量の低下、ならびに腸内微生物叢による短鎖脂肪酸の代謝能および合成能の変化を予測できることを発見しました。全体として、酪酸経路は数十種もの血漿代謝物に影響を与え、その乱れは代謝と免疫の両方に重大な結果をもたらす可能性があります。

ME/CFS症例の診断に役立つように、Dr. OhとDr. Unutmaz は、2つのマイクロバイオーム属性、代謝物量、ならびにこれら3つのモデルの組み合わせを含む複数の分類手法を構築しました。マルチオミクスと呼ばれるこの組み合わせは、ME/CFSの患者と健康な対照群を区別する際に、個々のデータセットよりも優れた性能を示しました。上述した低存在量の微生物の枯渇は、ベタインなどの血中代謝産物の濃度と同様に、ME/CFSを鑑別する上で重要な特徴です。これらの特徴は、分類の精度を高め、新しい治療戦略を開発する方法を指し示すものとなります。

「実際、long COVIDや線維筋痛症など、特徴や症状がME/CFSと重複する疾患を対象に今後実施される研究は、この分類手法を改善するのに大いに役立ち、誤分類されることが多いこの疾患の診断と鑑別に役立つ可能性があります」とDr. Ohは述べています。

ウイルストリガー?

この研究は、宿主とマイクロバイオームの相互作用を研究し、ME/CFSの根底にあるメカニズムをより深く理解するための枠組みを構築します。著者らはまた、ME/CFS の研究が近年さらに緊急性を増していることにも言及しています。ウイルス感染がME/CFSの発症を引き起こす可能性があると推測されており、本研究の一環で実施された生活様式および行動調査ではME/CFSグループでウイルス感染が高頻度に報告されています。最近のCOVID-19パンデミック、ならびに最初のSARS-CoV-2感染に続く「long COVID」の出現も、ME/CFSと何らかの関連がある可能性があります。これは、long COVIDの症状を抱える多くの患者が、長引く疲労や筋肉痛など、ME/CFS患者と同様の症状を示しているためです。したがって、long COVIDまたはME/CFSの研究が進歩すれば、両方の疾患について、診断および治療に関する知見が得られる可能性があります。

この研究は、NINDS助成金U54NS105539によって支援されました。

著者: Mark Wanner
米国ジャクソン研究所Research Communications部門Associate DirectorのMark Wannerは、ジャクソン研究所の研究に関するコミュニケーションを統括しています。 サイエンスとコミュニケーション両方のバックグラウンドを持つMark Wannerは、さまざまな媒体で生物医学と臨床科学の問題を取り上げ、それらの情報を多くの視聴者層に発信するとともに、その問題について説明しています。

英語原文: The functional mechanisms that may underlie ME/CFS

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