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サルモネラ

Salmonella
(S. enterica 、さまざまな亜種ならびに血清型)

 

分類

細菌、グラム陰性、桿菌、好気性

 

Enterobacteriaceae

Salmonella の学名は複雑であり、流動的な状態である。最も単純には、S. enterica をひとつの単位とすることである。しかし、S. enterica は6 つの亜種に分かれ、さらに1,500 以上の血清型が存在する。亜種の同定や血清型分類は、専門の研究室にまかせなければならない。

 

感受性動物種

すべての実験用げっ歯類は、サルモネラの感染に感受性である。サルモネラのなかには、冷血動物にみられる血清型(菌)、あるいは環境中において自由生活を営む血清型(菌)も存在する。サルモネラのなかには、人獣共通感染症をひき起こす菌もあり、ときには、免疫機能の低下した飼育管理担当者に重篤な疾患をひき起こし、死に至らしめる可能性がある。

 

頻度

現在の実験動物コロニーにおいては、ほとんどないくらいにまれである。ペット動物における頻度はさまざまであり、野生動物においては、よくみられる。

 

伝播経路

伝播は、糞口経路や器材を介した経路によって起こり、おそらく、垂直感染も起こる。

 

臨床症状および病変

マウスおよびラットにおけるサルモネラ病は、通常、不顕性である。マウスやラットの臨床症状としては、たとえば、下痢、摂餌量減少、げっ歯類の一般的な症状(立毛、丸背姿勢など)、体重減少、結膜炎、さらにラットにおいては、外鼻孔にポルフィリンの染( し) みがみられることもある。有病率や死亡率は、さまざまである。
剖検においては、病変があるとすれば、肝臓、脾臓、あるいは腸管の病変が顕著である。たとえば、脾腫がみられ、あるいは肝臓においては、しばしば瀰漫性の青白い結節が見られる。腸管については、一般的に、肉眼的には正常であるものの、充血ならびに拡張および腸壁の肥厚がみられる。腸管内には、正常の便ではなく、少量の液体内容物がみられる。顕微鏡的には、肝臓、脾臓、腸間膜リンパ節、あるいは腸管関連リンパ組織における瀰漫性の組織球性肉芽腫、静脈血栓症、あるいは瀰漫性の壊死がみられることがある。腸管における組織病変としては、粘膜固有層の浮腫、白血球浸潤、あるいは陰窩上皮の病変などがみられる。

 

診断

一般的に、診断は、糞便、腸内容物、あるいは腸間膜リンパ節を直接培養することによっておこなわれる。糞便の培養検査が陰性であっても、腸間膜リンパ節の培養検査が陽性であることがある。サルモネラを検出するためには、通常、セレナイト培地が用いられる。血清学的検査キットは市販されていない。サルモネラの血清型は、生化学的検査、あるいはリボソームDNA を材料にしたPCR によって鑑別することができるであろう。

(訳注)わが国では凝集試薬(キット)が市販されている。

 

実験への悪影響

サルモネラが感染しているコロニーに関して最も重大な研究への悪影響は、作業者がサルモネラに感染するおそれがあるということである。また、サルモネラがげっ歯類に感染することによって、臨床病変が発現することがあるので、そのような動物を研究において使用するのは不適切である。一見、健康に見える慢性保菌動物は、取り扱いや実験処置のストレスによって、再発する可能性があり、また他の動物や飼育管理担当者の感染源となるおそれもある。保菌動物は、組織学的にしばしば、サルモネラ病に関連した病変を示す。また明らかに、免疫系、消化器系、あるいは肝胆道系に影響を及ぼし、その結果、このような保菌動物を用いて得られた結果を擾乱させる。

 

予防と治療

サルモネラの感染は、現在の実験動物コロニーにおいては、あまりみられない。しかし、導入動物については、かならず検疫を実施するとともに、げっ歯類コロニーにおいては、通常の微生物モニタリングの一環として、かならずルーチンで腸内容物の培養を実施すべきである。野生のげっ歯類が動物実験施設に侵入しないような措置を講じなければならない。また、適切な害獣駆除プログラムを策定しなければならない。実験動物におけるサルモネラの流行が動物施設内のゴキブリによってひき起こされることがあるので、害獣駆除プログラムの策定にあたっては、害獣駆除のみならず、害虫駆除の項目も含めなければならない。動物施設で作業をするスタッフは、ペットのげっ歯類を飼ってはいけない。げっ歯類におけるサルモネラ病は、ヒトにおけるサルモネラ病のモデルとして利用されることがある。そのような実験をおこなう場合は、適切なバイオセキュリティ上の注意をはらわなければならない。
サルモネラ感染であることが診断された場合は、当該コロニー内のすべての動物を安楽死させなければならない。感染動物を抗菌剤で処置すれば、疾病の治療は可能であろうが、感染動物を保菌状態から解放することは、ほとんどできない。また、抗生物質を使用しても、床敷やケージ表面から菌を除去することはできない。サルモネラが流行しているヒト集団から得られた分離株は、通常、多剤耐性菌である。感染動物コロニーの治療を試みる場合は、このことに留意しなければならない。
したがって治療は、臨床症状を改善するため、あるいはコロニーの再構築(クリーン化)のために動物を延命させるための一時的措置としてのみ推奨される。サルモネラは、バリア施設内において塵やほこりなどの表面に付着し、バイオフィルムを形成し、数か月間も生存することができる。この事実は、動物飼育室や実験区域を清掃する際に軽視してはならない。動物飼育室および付属器材は、清掃、消毒をしなければならない。不必要な器材や容易に交換することができる器材は廃棄する。二酸化塩素、噴霧過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、あるいはオートクレーブ処理によって得られる高温、高圧はすべて、サルモネラの不活化のために有効であることが示されている。サルモネラは、垂直感染する可能性があるので、子宮摘出による再構築(クリーン化)は効果的ではない。したがって、再構築(クリーン化)によって得られた子動物については、一般の実験動物集団に戻す前に、注意深く微生物検査を実施しなければならない。あるいは、サルモネラフリーのコロニーを得るためには、サルモネラフリーの母親動物に胚移植をおこなう。その場合においても、子動物の微生物検査が必要であることは言うまでもない。

 

文献

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翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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