ニューモシスティス
Pneumocystis
(
P. murina,
P. carinii,
P. wakefieldae,
P. oryctolagi )
分類
真菌(
Ascomycota)
科
Pneumocystidaceae
感受性動物種
すべての哺乳類が種特異的ニューモシスティスをもっていると考えられる。実験用げっ歯類、およびウサギに関しては、マウスにおける
P. murina 、ラットにおける
P. carinii 、
P.wakefieldae 、ウサギにおける
P. oryctolagi が報告されている。
すべての動物種において、免疫不全動物がニューモシスティスに感染すると、慢性の進行性肺炎がひき起こされる。最近、免疫機能が正常なラットにおいて、
P. carinii は感染性間質性肺炎(IIP)をひき起こすことが報告された。このIIP は、正式な報告ではないものの、これまでは、ラット呼吸器ウイルス(Rat Respiratory Virus: RRV)によるものと考えられていた。免疫機能が正常なマウスは、
P. murina に感染するものの、病変を形成することなく、感染から回復する。ウサギにおいては、離乳するころに、
P. oryctolagi が一過性の肺炎をひき起こす。免疫不全動物であっても、異なる種の間では、ニュー モシスティスの伝播は起こらない。ヒトのニューモシスティスの種名は、
P. jirovecii に変更された。
頻度
実験用ラットにおいては、
P. carinii によってひき起こされるIIP は、最もよくみられる疾患である。たとえば、パルボウイルス群によってひき起こされる疾患よりも頻度が高い。ニューモシスティスは、適切に管理された、現在の免疫不全動物コロニーからは排除されているので、一般的に、このようなコロニーにおいては、ほとんど病変はみられない。
伝播経路
おもに、同種の感染動物との接触、ならびに器材やエアロゾルを介して伝播する。免疫機能が正常な動物においては、免疫応答が起こり、感染3 ~ 8 週間後には感染から回復し、菌の排出もなくなる。しかし、免疫不全動物においては、いつまでも菌を排出しつづける。環境中に嚢子が検出されるが、環境中における嚢子の生存期間や環境中の嚢子からの感染の危険性(たとえば、感染している野生げっ歯類に由来する嚢子からの感染の危険性)については不明である。
臨床症状および病変
免疫不全マウスおよび免疫不全ラットがニューモシスティスに感染すると、体重減少、立毛、乾燥した皮膚、あるいは丸背を示す。ニューモシスティスは免疫不全動物における消耗病(悪液質)の原因の1つであることが以前から知られている。その後、呼吸困難、チアノーゼを示し、死亡に至ることもある。剖検においては、肺の退縮不良がみられる。肺は、ゴム状で、拡張する。さらに、青白い、または灰色もしくは赤色のコンソリデーション(硬化)が見られることもある。顕微鏡的には、間質性肺炎の像を呈する。肺胞中隔は肥厚し、単核細胞の浸潤が見られる。肺胞内は、ニューモシスティスおよび細かい空胞を含むエオジン好性の物質で充満している。
免疫機能が正常なラットにおける病変(IIP)もほぼ同様であるが、上記免疫不全動物にくらべて、やや軽度である。また一般的に、ニューモシスティスの菌体を見つけるのは困難である。ただし、PCR によって検出することは可能である。肉眼的には、肺には、青白い、または灰色もしくは赤色の部位が見られる。顕微鏡的には、間質性肺炎の像を呈する。肺胞中隔は肥厚し、単核細胞の浸潤が見られる。また、しばしば、顕著な血管周囲のリンパ球性カッフィングが観察される。
離乳したばかりのウサギにニューモシスティスが感染すると、間質性線維症をともなう軽度肺炎がひき起こされる。肺胞内には、エオジン好性物質がわずかに見られる。肺においては、境界明瞭な結節性炎症性細胞浸潤が観察される。菌体は、おもに肺胞上皮に沿って見られる。
P. oryctolagi は、マウスやラットのニューモシスティスと同様の方法によって診断することができる。
診断
一般的に、免疫不全動物におけるニューモシスティスの感染は、慢性肺炎の典型的な症状を示している動物を剖検することによって診断することができる。肺組織は、病理組織学的検査またはPCR によって調べることができる。Gomori メテナミン銀染色(GMS)などを利用して、組織学的に菌体を観察することができるので、臨床診断を下すことが可能である。PCR の材料としては、鼻腔スワブ、肺組織(新鮮組織または脱パラフィン材料)、あるいは深部気管支肺胞洗浄液などを使うことができるが、肺組織が最も適している。免疫機能が正常な動物における日常的なモニタリングのためには、血清学的検査やPCR を利用することができる。
実験への悪影響
免疫不全動物においては、ニューモシスティス感染は、高い発症率と死亡率を示す。したがって、そのような感染動物は、研究のために使用することはできない。
免疫機能が正常なウサギにおいては、自己制限感染(selflimitinginfection)が起こるようである。しかし、肺炎の臨床症状を示しているウサギに対しては、支持療法を施すべきである。なぜなら、他の病原体が混合感染した場合は、相乗効果を示すことがあるからである。
IIP を発症しているラットを吸入試験のために使用するのは適切ではない。また、IIP を発症しているラットにおいては、麻酔薬に対する悪影響がみられることが報告されている。さらに、肺に病変があると、組織学的評価に悪影響を及ぼすことがある。
予防と治療
ニューモシスティスの感染は、トリメトプリムとサルファメトキサゾールの合剤(50 mg および250 mg/kg/ 日)を飲水に加えることによって治療することができる。しかし、この治療によって、菌体を排除することはできず、有病率を低下させるのみである。ヒトのニューモシスティス分離株において、サルファ剤の投与によって遺伝子変異が起こり、その結果、薬剤耐性が誘導されたことが報告された。したがって、長期にわたって抗生物質を投与する場合は、薬剤耐性について充分に注意しなければならない。ニューモシスティスによって汚染された動物系統は、胚移植または子宮摘出によって再構築(クリーン化)すべきである。
環境中において、ニューモシスティスがどのくらいの期間生存するかについては情報が得られていない。最も一般的な伝播経路は、感染動物との直接接触による伝播であるので、再構築(クリーン化)すること、または活動性の感染を起こしている動物との接触を制限することによって、汚染コロニーを清浄化することができる。
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翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2011, Charles River Laboratories International, Inc.