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げっ歯類の消化管内原虫

Intestinal Protozoa in Rodents

 

分類

真核生物、単細胞性消化管内寄生虫、共生生物、多くの原虫は鞭毛をもつ

 

さまざま

 

感受性動物種

あらゆるげっ歯類が原虫に感染する。動物種別の原虫感染症を以下に示す。しかし、これがすべてのリストではない。ウサギにおける腸管(および肝臓)のコクシジウム感染については、他のテクニカルシートにおいて記載する。野生において捕獲された動物は、本テクニカルシートに記載されていない種の原虫をもっている可能性がある。ここに記載されている原虫のなかには、人獣共通感染性の原虫がある。一般的に注意を要するのは、Giardia 種ならびにCryptosporidium 種である。Giardia の宿主域は狭く、また実験用げっ歯類からヒトへの感染例は報告されていない。 *印を付けた種は病原性をもつと考えられている(ただし、一般的に、その病原性は、「中等度」または「軽微」と記載されている)。
  • スナネズミ: Entamoeba spp., Giardia spp.*, Tritrichomonas caviae
  • モルモット:Balantidium Caviae, Chilomastix spp. , Cryptosporidium wrairi *, Eimeria caviae *, Giardia duodenalis *, Monocercomonas spp., Tritrichomonas caviae , その他
  • ハムスター: Cryptosporidium spp.*,Giardia muris *,Spironucleus muris *,その他多くの種があるが重要ではない
  • マウス: Chilomastix bettencourti , Cryptosporidium muris *, Cryptosporidium parvum *, Eimeria spp.*, Entamoeba muris , Giardia muris *, Hexamastix muris , Spironucleus muris *, Trichomonas muris , Tritrichomonas muris , その他
  • ラット: Chilomastix bettencourtiCryptosporidium muris*, Cryptosporidium parvum*, Eimeria spp.*,Entamoeba muris, Giardia simoni*, Hexamastix muris, Monocercomonoides spp., Retortamonas spp., Spironucleus muris*, Trichomonas muris, Tritrichomonas muris, その他

 

頻度

原虫の感染率は、コロニーごとに異なる。一般的に、病原性のある原虫は、現在の実験用マウス、ラット、およびモルモットコロニーにおいては、ほとんど撲滅された。しかし、ハムスターやスナネズミのコロニーにおいては、みられるかもしれない。野生動物やペット動物における原虫の感染率は高い。

 

伝播経路

消化管内原虫は、感染性嚢子を摂食することによって伝播する。一般的には、糞口感染である。

 

臨床症状および病変

一般的に、原虫感染にともなう臨床症状はない。免疫能が低下した動物または幼若動物に大量の原虫が寄生すると、非特異的な症状がみられることがある。たとえば、体重減少、消耗病、丸背姿勢、立毛などである。ときには、下痢のような消化管症状を示すこともある。
顕微鏡検査においては、胃もしくは腸陰窩、または消化管内腔に遊離して原虫が見られる。通常は、共生性原虫が感染しても、それにともなう続発症はみられないので、原虫による腸疾患を確定診断するためには、上述した非特異的症状をひき起こす他の原因を排除しなければならない。

 

診断

一般的に、原虫は糞便検査または腸内容物を直接塗抹することによって診断する。原虫の種によっては、消化管のごく一部にしか生息していないので、病理組織学的検査によって適切に評価することができる。描画や写真を含む、原虫に関するさらに詳細な情報については、Flynn の「実験動物の寄生虫」(D. G. Bake 編集)を参照されたい。

 

実験への悪影響

一般的に、消化管内原虫の感染の悪影響はほとんどない。なぜなら、現在の実験動物コロニーからは、ほとんどすべての病原性原虫は排除されているからである。しかし、新たな感染は、バイオセキュリティ上、問題となることがある。臨床症状を示している動物は、研究の目的に適していない。なぜなら、消化管障害は、ほとんどすべての研究目的に悪影響を及ぼすからである。たとえば、ヒトの原虫感染症のモデルとして、動物を原虫の研究のために使用する場合は、当該動物はいかなる原虫ももっていてはならない。消化器の生理学や消化器病の研究においてもまた、動物は原虫をもっていてはならない。

 

予防と治療

実験動物については、定期的に原虫の検査をおこなわなければならない。また、導入する動物は検疫をしなければならない。動物施設は、一般的に、それぞれの施設において、許容することができる原虫のリストをもっている。ある特定の原虫が感染したときに、コロニー再構築(クリーン化)の必要性を最小限にするためである。一般的に、免疫不全動物においては、いかなる原虫の感染も許されない。野生動物(脊椎動物および無脊椎動物)が動物施設に侵入しないようにしなければならない。なぜなら、野生動物は原虫をもっており、また感染性の糞便を直接実験動物に接触させるからである。
感染型の原虫が宿主体外において生存することができる期間はさまざまである。また、消毒剤に対する感受性もさまざまである。一般的に、環境中の糞便を徹底的に清掃、除去することが推奨される。その後、塩素系の消毒剤がよく用いられる。オートクレーブによっても、感染型の原虫を殺滅することができる。ある種の原虫を治療することは可能である(たとえば、Giardia 感染症治療のためのメトロニダゾール) が、推奨することはできない。治療によって、動物の体内からすべての原虫を除去することはできないし、また床敷やケージ表面の感染型原虫を除去することもできない。したがって、臨床症状を改善する場合や再構築(クリーン化)する前に動物体内の原虫の数を減少させる場合以外には、治療は推奨することができない。消化管内原虫感染を撲滅するために、子宮摘出や胚移植をおこなって、再構築(クリーン化)をすることは有効である。

 

文献

  • Baker DG, editor. Flynn’s Parasites of Laboratory Animals. Ames: Blackwell; 2007. 813 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine. 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits. Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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