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蟯虫(ぎょうちゅう)

Pinworms
(Syphacia obvelata, S. muris,
Aspiculuris tetraptera, etc.)

 

分類

後生動物、内部寄生虫

 

Oxyuridae

 

感受性動物種

上記3 種の蟯虫は、マウスおよびラットにおいてよくみられる。ウサギにおいてよくみられる蟯虫は、Passalurus ambiguus である。スナネズミにおいては、Dentostomella translucida がみられる。なお、スナネズミにおいては、S.obvelata およびS. muris の感染も報告されている。ハムスターにおいては、S. criceti およびS. mesocriceti がみられる。なお、ハムスターにおいては、S. obvelata およびS. muris の感染も報告されている。モルモットにおいては、真の蟯虫は報告されていない。ただし、モルモットにおいては、盲腸に寄生するHeterakoidea科の蠕虫(ぜんちゅう)およびParaspidodera uncinata が報告されている。

 

頻度

野生動物やペット動物においては、蟯虫はよくみられる。実験動物における蟯虫の感染率はさまざまである。

 

伝播経路

蟯虫は、感染性を獲得するために、その生活環において中間宿主を必要としない。蟯虫は、糞口感染(幼虫形成卵の経口摂取)によって伝播する。蟯虫卵は粘着性があり、環境中において、長期間にわたって生存する。また蟯虫は、器材を介して伝播することもある。特定の蟯虫では、生活環が短いために、逆行感染が起こることもある。すなわち、被毛に付着した虫卵が孵化し、孵化した子虫が体表を這って逆行性に動物体内に侵入することがある。

 

臨床症状および病変

免疫機能が正常な動物においては、蟯虫が感染しても、臨床症状は示さない。蟯虫感染にともなって、直腸脱、被毛失沢、あるいは体重減少が起こることが報告されたが、おそらく、これらの動物においては、併存疾患があったものと考えられる。

 

診断

蟯虫の診断のためには、肛門周囲の粘着セロハンテープ法によって、虫卵を確認する(Syphacia spp. のみ)。または、肛門周囲のスワブ、または糞便を用いた浮遊法もしくは沈殿法を利用して虫卵を確認することもできる(おもに、Syphacia 以外の種)。あるいは、盲腸内容物または結腸内容物の中の成虫 の有無を検査することもできる。盲腸内容物または結腸内容物の検査は、他の検査方法にくらべて、最も感度のよい方法である。さらに、この検査方法は、すべての蟯虫種に適用することができる。しかし、他の方法(虫卵検査)とは異なり、腸内容物を検査するためには、動物を安楽死させなければならない。
免疫機能の正常な、成熟した動物においては、蟯虫に対する免疫が成立している。この免疫は、Th2 細胞によって媒介され、虫体を排除したり、あるいは虫体の数を低く抑えたりする機能をもっている。蟯虫を検出するためには、離乳したばかりの子動物または成熟前の若い動物を用いるとよい。

 

実験への悪影響

大部分の感染動物において(免疫不全動物においてさえ)、ほとんど臨床症状を示さないので、一般的な身体状態や健康状態は悪影響を受けない。したがって、蟯虫感染動物を研究に使用することができないという根拠はない。蟯虫感染の影響は、きわめて微妙なものであり、一般的には、免疫応答に影響を及ぼす。そのために、蟯虫感染動物を実験に使用することが不適切になることがある。蟯虫に感染したマウスにおける免疫学的影響の例を以下に列挙する。自己免疫疾患の発症率が増加する;ヌードマウスにおいて、リンパ腫の発生率が増加する;ある系統のマウスにおいて、造血機能やリンパ球産生機能に影響がみられる;飼料中の抗原に対するアレルギー反応が亢進する、などである。また、コロニーの中に蟯虫感染動物がいることは、バイオセキュリティ上の問題があると考えられる。

 

予防と治療

蟯虫の感染を防ぐためには、動物実験施設から感染動物を排除することが最善の方法である。動物を導入する場合は、信頼できる供給業者から搬入する。他の施設から動物を導入する場合は、検疫を実施し、検査や適切な処置をした後に、検疫から解放する。マウスおよびラットの治療計画については、文献に記載されている。マウスやラットに関しては、一般的に、駆虫薬フェンベンダゾールを加えた飼料を1 週間給与した後、駆虫薬を含まない飼料を1 週間給与するという治療計画がとられる。このような飼料は、容易に購入することができる。スナネズミ、ウサギ、ハムスター、またはモルモットにおける蟯虫感染の治療に関しては、文献を参照されたい。これらの動物種における治療計画は、マウスやラットの治療計画とは若干異なる。蟯虫感染症は、治療することができるものの、治療が奏功しない場合もある。したがって、治療を施すか否かを決定する際には、このこと(治療が奏功しないこともあるということ)について考慮しなければならない。コロニーを再構築(クリーン化)することによって、動物から蟯虫を排除することができる。しかし、飼育環境を徹底的に除染しなければ、動物は再感染するおそれがある。蟯虫卵は、乾燥や一般的な消毒剤には抵抗性を示すが、高温には感受性である。

 

文献

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翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2015, Charles River Laboratories International, Inc.

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