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フィロバクテリウム・ローデンティウム
(旧名 カーバチルス)

Filobacterium rodentium
 ( 旧名 Cilia-Associated Respiratory Bacillus(CAR Bacillus; CARB))

 

分類

細菌、グラム陰性、運動性あり、やや紡錘形、芽胞非形成

 

分類学的位置づけは未だ不明であるが、マウスおよびラットからの分離株は、遺伝学的には、Flexibacter およびFusobacterium と近縁種である。Cilia-Associated RespiratoryBacillus の模式種はFilobacterium rodentium に再分類された。

 

感受性動物種

マウス、ラット、ウサギ、ならびに数種の家畜。これらの動物種が感染することを考慮すると、おそらく、他の実験用げっ歯類、たとえば、ハムスター、モルモット、スナネズミなども感染する可能性が考えられる。

 

頻度

現在の飼育管理法や微生物検査システムを考慮すると、実験用げっ歯類に本菌が感染していることはまれである。野生のげっ歯類やウサギにおいて、本菌の感染が報告されている。ペットのげっ歯類やウサギにおける感染に関するデータはないが、おそらく、ペット動物においては、本菌の感染はふつうにみられるものと考えられる。

 

伝播経路

おもな伝播経路は、直接接触である。母親動物が感染していると、子動物は、出生後1 週間以内に感染する可能性がある。本菌の伝播経路は直接接触であるので、使用済み床敷に暴露したモニター動物を用いて、コロニー内の本菌を検出するのは効果的な方法ではない。異なる種間において、本菌が伝播するか否かについてはわかっていない。

 

臨床症状および病変

すべての感受性動物において、不顕性である可能性がある。 臨床症状としては、次のような症状がみられる。一般的には、慢性経過をたどり、呼吸器疾患においてよくみられるように、体重減少、立毛、クチュクチュ、ゴロゴロという異常呼吸音などがみられる。ラットにおいては、紅涙がみられることがある。マウスにくらべて、ラットにおいては、本菌による臨 床症状がより顕著にみられるようである。ラットにおける病変は、マイコプラズマによる呼吸器病変と似ている。肉眼的には、粘液膿性の気管支肺炎を呈する。顕微鏡的には、気管支の拡張をともなう慢性気管支炎を呈する。拡張した気管支の中には、しばしば、粘液や散在性の好中球がみられる。ときおり、化膿性の炎症がみられることもある。合併症がない場合は、通常、気管支上皮はよく保たれている。リンパ球およびプラズマ細胞から成る気管支周囲カッフィングがしばしばみられる。本菌は、呼吸器上皮の線毛の間、および線毛の上において見られる。HE 染色で見えることもあるが、鍍銀染色によって容易に見ることができる。マウスにおける病変も同様である。一般的に、本菌とMycoplasma pulmonis の混合感染が多くみられる。ウサギにおいては、本菌の病原性については知られていないし、また本菌による病変も報告されていない。

 

診断

感染動物から本菌を分離して培養することができる。しかし、ルーチンの診断のために、本菌を培養することは推奨できない。なぜなら、本菌は他の多くの細菌と異なり、培養に必要な要件を満たすことがむずかしいからである。すなわち、本菌を培養するためには、血清を含む特殊な培地/ 培養液を使用したり、あるいは発育鶏卵を使用したりしなければならないからである。外観上健康に見える実験用げっ歯類において本菌をルーチンにモニターするためには、血清学的診断(ELlSA, MFIA®, IFA)またはPCR を利用したり、もしくは罹患動物の特徴的な病変内に本菌が存在することを病理組織学的に検出したりすることができる。血清学的診断に用いられる試薬は、通常、細菌溶解物である。血清学的診断においては、陰性と判定することは容易であるものの、細菌溶解物には多くの抗原が含まれているので、ウイルスの血清学的診断にくらべて、本菌の血清学的診断においては、偽陽性/ 誤診断の確率が高い。血清学的診断において陽性となった場合でも、PCR で確認をすることが推奨される。PCR を実施する場合は、鼻咽頭または気管スワブまたは気管洗浄液を使用するのが最もよい。確定診断は、病理組織を用いておこなうこともできる。呼吸器上皮を鍍銀染色することによって、線毛の間に本菌を検出することができる。組織学的診断は、きわめて特異性が高い診断であるが、PCR を利用して、他の細菌、たとえばマウスのBordetella avium ※1(この細菌も呼吸器上皮の線毛の間に見られる)との類症鑑別をおこなうことがさらに推奨される。また、本菌の診断において、PCR にくらべて、組織学的診断の感度がどれほど異なるのかについてはよくわからない。

 

実験への悪影響

一般的に、慢性呼吸器疾患の症状を示している動物は、実験には適していない。本菌が感染した動物においては、観察されている組織病変から、呼吸器粘膜の線毛クリアランスが低下していることが推測されているものの、そのエビデンスは未だ示されていない。不顕性感染は、コロニーの健康状態には影響を及ぼさないものと考えられている。呼吸器/ 気道の研究に使用する予定の動物は、本菌に感染していてはならない。

 

予防と治療

本菌は、直接接触によって伝播する。媒介物、媒介生物、またはエアゾールによって伝播するというエビデンスはない。動物施設において、本菌を排除するために第一に考慮されるべきことは、感染した動物が未感染の動物に接触することを避けることである。コロニー内の動物は、定期的に本菌の検査をおこなって、そして導入する動物については、検疫をおこなって、本菌が陰性であることを確かめなければならない。本菌が陰性であった動物施設において、本菌が検出されるようになった場合は、考えられる原因は、感染したげっ歯類―おそらく野生のげっ歯類―の侵入である。したがって、そのような場合、コロニー内の動物は、本菌以外にも複数の外来病原体によって汚染されている可能性がある。害獣コントロールプログラムを注意深く見直す必要がある。
感染した動物集団内においては、本菌はゆっくりと拡散する傾向がある。口腔内スワブを用いたPCR および血清学的診断による検査および陽性動物を安楽死処置するプログラムならびに動物移動の制限を実施すべきである。しかし一般的には、コロニーの再構築(クリーン化)が推奨される。コロニーの再構築(クリーン化)は、子宮摘出および里親哺育または胚移植によっておこなわれる。ある論文によると、実験的に本菌を感染させたマウスにおいて、500 mg/l のアンピシリン(ampicillin)またはスルファメラジン(sulfamerazine)が有効であったという。本菌の垂直感染に関する報告はなされていないが、子宮摘出前に、母親動物を治療するか否かは任意である。
本菌の増殖のための要件(培地等)が厳しいこと、そして本菌が呼吸器上皮の線毛上で特異的に増殖することを考慮すると、本菌が環境中において生存して動物に感染する伝播経路が重要であるとは考えにくい。本菌は芽胞非形成細菌であるので、環境中の本菌は、一般的な動物室の洗浄、消毒作業によって除去されるであろう。他の汚染防止と同様に、新たに動物を導入する前には、不要な物はかたづけて、器材を洗浄し、必要に応じて、適切な消毒やオートクレーブ滅菌をしなければならない。

※ 1(訳注)現在ではBordetella pseudohinzii とされている。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Cundiff DD, Besch-Williford CL, Hook RR, Jr., Franklin CL, Riley LK. 1994. Characterization of cilia-associated respiratory bacillus isolates from rats and rabbits . Lab Anim Sci 44:305-312.
  • Cundiff DD, Besch-Williford CL, Hook RR, Jr., Franklin CL, Riley LK. 1995. Characterization of cilia-associated respiratory bacillus in rabbits and analysis of the 16S rRNA gene sequence . Lab Anim Sci 45:22-26.
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  • Kendall LV, Riley LK, Hook RR, Jr., Besch-Williford CL, Franklin CL. 2000. Antibody and cytokine responses to the cilium-associated respiratory bacillus in BALB/c and C57BL/6 mice . Infect Immun 68:4961-4967.
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  • Medina LV, Fortman JD, Bunte RM, Bennett BT. 1994. Respiratory disease in a rat colony: identification of CAR bacillus without other respiratory pathogens by standard diagnostic screening methods . Lab Anim Sci 44:521-525.
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  • Shoji-Darkye Y, Itoh T, Kagiyama N. 1991. Pathogenesis of CAR bacillus in rabbits, guinea pigs, Syrian hamsters, and mice . Lab Anim Sci 41:567-571.
  • Schoeb TR, Davidson MK, Davis JK. 1997. Pathogenicity of cilia-associated respiratory (CAR) bacillus isolates for F344, LEW, and SD rats . Vet Pathol 34:263-270.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2021, Charles River Laboratories International, Inc.

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