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ティザー病菌

Clostridium piliforme
(Tyzzer’s disease, CPIL)

 

分類

細菌、グラム陰性、針状桿菌

 

Clostridiaceae

 

感受性動物種

実験用げっ歯類およびウサギは、本菌に感受性である。また、その他の多くの哺乳類も本菌に感受性である。ティザー病菌は株によって宿主特異性が異なるという報告もなされているが、この宿主特異性の違いが絶対的なものであるか否かは不明である。

 

頻度

さまざまである。一般的に、現在の実験用げっ歯類集団は、ティザー病菌フリーである。しかし、有病率の高い集団も存在するものと考えられる。ペット動物や野生動物における有病率は不明である。本病の発症は、不顕性感染とは異なり、おもに不適切な飼育管理や免疫抑制にともなって、ひき起こされる。

 

伝播経路

環境中の芽胞や感染動物の糞便中の芽胞を経口的に摂取することによって伝播する。芽胞は、少なくとも、1 年間は感染性を保つことができる。
AIDS 患者において、動物由来のティザー病菌感染が報告されている。免疫機能が抑制されている作業者は、ティザー病菌をもっている動物を扱う仕事に従事する場合は、医師に相談すべきである。

 

臨床症状および病変

臨床症状を示さなくとも、動物の体内にティザー病菌が潜んでいることがある。また、免疫機能の正常な動物は、2-3 週間で感染から回復する。現在の動物施設においては、顕性感染はあまり起こらない。しかし、飼育管理が不適切であったり、あるいは免疫抑制されたりした場合には、臨床症状が現れることがある。典型的なティザー病の症状は、離乳したばかりの動物においてみられる。摂餌量が低下し、削瘦し、そして立毛がみられる。ラットにおいては、著しい腹部膨満がみられることがある。げっ歯類においては、下痢がみられる場合も、みられない場合もある。ウサギにおいては、通常、下痢がみられる。ティザー病においては、臨床症状を示さずに、急に死の転帰をとることもある。大部分の実験用げっ歯類の剖検においてみられる典型的な所見は、肝臓表面または肝臓内部の白斑である(壊死性肝炎)。しばしば、壊死性の回腸炎、盲腸炎、大腸炎がみられ、そして腸間膜リンパ節が腫大していることがある。ラットにおいては、回腸が著しく腫大していることがある。ティザー病においては、心臓が侵されることもある。心臓が侵された場合には、心外膜や心筋に青白いすじや青白い斑点が見られる。

 

診断

ティザー病菌は、芽胞を形成する、細胞内寄生性偏性嫌気性菌である。ティザー病菌は、発育鶏卵およびいくつかの哺乳類培養細胞を用いて増殖させることができる。一般的な研究室においては、ティザー病菌を直接培養することはむずかしい。
血清学的検査は、ティザー病菌のスクリーニング法としてよく用いられる。血清学的検査によって、高い確率で陰性と診断することができる。しかし、細菌の抗原は複雑であるので、血清学的検査においては、偽陽性の結果となることがある。血清学的検査をおこなって、多数の動物において陽性の結果が得られた場合は、つぎにストレス・テストをおこなうべきである。動物にシクロホスファミドを注射すると、動物の免疫系が抑制されて、その結果、潜んでいるティザー病菌が顕性になる。シクロホスファミドを注射した後に動物が発症した場合には、当該動物を安楽死させ、回腸・盲腸・大腸合流部ならびに肝臓を採取し、病理組織学的検査をおこなう。肝臓の塗抹標本をギムザ染色することによって、迅速な診断が可能である。壊死病変が存在する部位の組織切片をギムザ染色またはWarthin-Starry 染色することによって、腸細胞や肝細胞の中に針状の細菌を見ることができる。シクロホスファミドを注射しても動物が発症しなかった場合は、血清学的検査の結果が偽陽性であったか、あるいは、当該動物が非病原性のティザー病菌に感染していたものと考えられる。
PCR によってティザー病菌を検出することもできるが、免疫機能の正常な動物においては、本菌は排除されてしまうので、PCR の結果が陰性であっても、臨床的に健常な動物をスクリーニングするためには、あまり有用ではない。しかし、糞便をPCR で検査することによって、動物がティザー病菌の芽胞を排出しているか否かを調べたり、あるいは病理組織学的検査と病変部のPCR を併用したりすることによって、ティザー病菌の存在を確定することができるであろう。

 

実験への悪影響

ティザー病に顕性感染している動物は、臨床症状を示すので、実験には使用することができない。ティザー病菌が蔓延しているコロニーにおいては、動物がストレスを受けると、離乳したばかりの子動物や幼若動物が突然死亡することがある。回復期のウサギにおいては、肝臓の壊死や線維症、あるいは大腸の線維症がみられることがある。文献的には、マウスやラットにおける不顕性感染が多数報告されているものの、マウスやラットにおいて、発症した動物が回復したという報告はない。

 

予防と治療

ティザー病の予防は、動物がティザー病菌の芽胞に接触することを防ぐことによって達成される。ティザー病菌の芽胞は、環境中において、長期間にわたって感染性を維持している。本菌の宿主域はきわめて広いものの、多くの分離株は種特異性をもっているようである。きわめて多種の動物がティザー病菌の保菌動物となり得るので、実験動物を野生動物やペット動物から守ることが重要である。
ティザー病の有効な治療法はない。本菌は、胚移植や子宮摘出による再構築(クリーン化)によって、コロニーから排除することができる。ティザー病菌は芽胞形成細菌であるので、とくに環境中の芽胞への注意が肝要である。オートクレーブ滅菌が可能な器材は、オートクレーブで滅菌し、不要な器材は片づけて、そして飼育エリアを二酸化塩素やホルマリンなどのような化学消毒薬で処理することが必要である。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp..
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . 3rd ed. Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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