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ヘリコバクター

Helicobacter species

 

分類

細菌、グラム陰性、らせん菌、紡錘形または湾曲形、鞭毛をもつ種がある

 

Helicobacteriaceae
現在、マウスおよびラットにおいて報告されているヘリコバクター種を次に記載する。 H. bilis, H. ganmani, H. hepaticus, H. muridarum, H. mastomyrinus, H. rappini, H. rodentium, およびH. typhlonius (以上、マウス)、ならびにH. bilis, H. muridarum, H. rodentium, H. trogontum, およびH. typhlonius (以上、ラット)。マウスやラットにおいて臨床病変をひき起こすヘリコバクター種は、おもにH. bilis およびH. hepaticus である。

 

感受性動物種

調べられたかぎりにおいて、ほとんどすべての哺乳動物種は、少なくとも1 種のヘリコバクターには感受性があるようである。

 

頻度

野生のげっ歯類および動物実験施設において、よくみられる。

 

伝播経路

一般的には、糞口経路によって伝播する。たとえば、離乳したばかりの動物や幼若動物が糞便を摂取することによって感染する。ヘリコバクターは、オープンラックにおいては、塵埃やその他の器材の動きを介して、動物から動物へと伝播する。垂直感染は、これまで報告されていない。腫瘍の移植にともなって伝播したという報告がなされているが、このことについては、議論の余地がある。ヘリコバクターの種によっては、動物からヒトに感染したり、あるいは、ヒトから動物に感染したりする。

 

臨床症状および病変

ヘリコバクターは、おもに盲腸および大腸に定着する。種によっては、胆嚢や肝臓に定着するヘリコバクターもある。きわめて少ないものの、胃に定着するヘリコバクター種もある。しかし、食糞する動物の胃におけるヘリコバクターの検出については、注意が必要である。なぜなら、胃内においてヘリコバクターの核酸が検出されても、それは、かならずしもヘリコバクターが胃内に定着していることを示すわけではないからである。ヘリコバクターをもっている動物の大部分は、症状を示さない。免疫機能の正常な動物においてみられるヘリコバクター感染病は、ほとんど、H. bilis またはH. hepaticusに感染した感受性マウス系統に限られている。免疫不全動物においては、さまざまな種のヘリコバクターに感受性がある ようである。感受性動物においては、ヘリコバクター感染にともなうおもな臨床症状は、盲腸炎や盲腸大腸炎に続発して起こる直腸脱である。ヘリコバクターに感染している動物においては、下痢がみられる場合もある。H. hepaticus は、あるマウス系統、たとえば、A/J 系統において、肝臓がんや大腸がんをひき起こすことがある。病理組織学的には、盲腸大腸炎や肝炎がみられることがある。げっ歯類の一般的なヘリコバクターは、胃には定着しないので、胃炎はみられない。

 

診断

血清学的にヘリコバクター感染を診断することは可能である。血清学的診断キットは市販されていない。なぜなら、血清学的診断法は(抗体が産生されるまでに時間がかかるが)感度は高いものの、特異性が低いからである。また、腸管に定着したすべてのヘリコバクターが抗体産生応答をひき起こすか否かよくわかっていないからである。最もすぐれた診断法は、糞便を用いたPCR である。糞便材料には、PCR 阻害物質が含まれているので、偽陰性/ 検出漏れが起こる可能性がある。したがって、材料を適切に取り扱い、慎重にPCR を実施することが肝要である。PCR を利用して、ヘリコバクター属として同定することもできるし、あるいはヘリコバクターの種を同定することもできる。

 

実験への悪影響

現在見つかっているほとんどのヘリコバクター種は、免疫機能の正常なマウスには病気をひき起こさない。病原性のあるヘリコバクター種においても、感受性のある系統にしか病気をひき起こさない。動物がH. bilis またはH. hepaticus に感染した場合は、腸管や肝臓の炎症反応によって、他の刺激や操作に対する宿主の反応が変化する。さらに、腸管指向性または肝臓指向性のヘリコバクターによってひき起こされる盲腸大腸炎は、炎症性腸炎に似ているので、消化器系疾患の遺伝学的研究や治療研究の実施を困難なものにさせる。H.hepaticus による感染はまた、A/J マウスにおいて、肝細胞がんと関連していることが報告されている。また、大腸がんとの関連も示唆されている。また最近ヘリコバクターに対する炎症反応によって、マウスの乳がんの発生が変化することも報告されている。

 

予防と治療

ヘリコバクターは、実験用マウスにおいてよくみられる。ヘリコバクターに関する微生物モニタリングを定期的に実施すべきである。しかし、本菌は乾燥に対してきわめて弱いので、室間では簡単には伝播しない。また、飼料、床敷、あるいは器材等を介して伝播することもない。したがって、ヘリコバクターのいない動物施設において、ヘリコバクターをもたないマウスのみを導入している場合は、1 年に1 回のモニタリングで充分であろう。無菌的な子宮摘出と清浄な雌への里子、または胚移植による再構築(クリーン化)によって、コロニーからヘリコバクターを排除することができるであろう。また出生後すぐに(24 時間以内に)、子動物を清浄な雌に里子に出すことによっても、ヘリコバクターフリーの動物を得るこ とができる。ヘリコバクター感染は、抗生物質によって治療することができる。また、治療用飼料も市販されている。ただし、治療用飼料によって、感染を防ぐことはできない。本菌は乾燥に弱いので、飼育環境の除染は不要である。

 

文献

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翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2011, Charles River Laboratories International, Inc.

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