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黄色ブドウ球菌

Staphylococcus aureus

 

分類

細菌、グラム陽性球菌、運動性なし、しばしばブドウの房状の(staphylo-)集塊をつくる

 

Staphylococcaceae

 

感受性動物種

一般的な実験用げっ歯類およびウサギ目の動物種を含むあらゆる哺乳動物種は、黄色ブドウ球菌の定着に対して感受性である。黄色ブドウ球菌は、さまざまな動物種に定着するので、動物種間で容易に伝播する。また、ヒトから動物、あるいは動物からヒトへも伝播する。

 

頻度

飼育施設のタイプ、ヒトとの接触、あるいは当該動物の最初の健康状態などによって、よくみられたり、あるいはまれであったりする。

 

伝播経路

黄色ブドウ球菌は、エアロゾルまたは器材、感染動物、もしくは感染したヒトとの直接接触を介して伝播する。健康なヒトの約30% は、鼻咽頭あるいは皮膚に黄色ブドウ球菌をもっている。実験用げっ歯類に関しては、ヒトが実験動物から感染するよりも、むしろ実験動物がヒトから感染することのほうが多い。

 

臨床症状および病変

免疫機能が正常な健康な動物においては、黄色ブドウ球菌が皮膚、腸管、あるいは鼻咽頭に定着しても、一般的に、症状を示さない。大部分の場合において、このことがあてはまる。健康な動物のなかには、膿瘍や病変部から黄色ブドウ球菌が分離される個体もある。このような場合は、分離された黄色ブドウ球菌は、膿瘍や病変部の一時的な原因菌ではなく、二次的に感染したものであることが多い。
場合によっては、黄色ブドウ球菌が皮膚に定着することによって、病変がひき起こされることがある。そのような病変は、通常は非病原性である細菌が存在することによってひき起こされるというよりは、むしろ、衛生的な飼育管理が充分におこなわれないことによってひき起こされることのほうが多い。たとえば、スナネズミにおいては、適切な飼育管理下に置かれていない場合は、黄色ブドウ球菌が急性の瀰漫性化膿性皮膚炎をひき起こすことが報告されている。このような皮膚炎は、おもに、若齢のスナネズミにおいてみられ、たとえば、顔面、鼻、趾踵、四肢、あるいは腹部に湿疹がみられる。ハムスターにおいては、膿瘍の中に他の細菌とともに黄色ブドウ球菌が検出される。ウサギにおいては、黄色ブドウ 球菌が新生子の急性の敗血症をひき起こすことがある。また、膿瘍、乳房炎、趾踵皮膚炎、あるいは生殖路の炎症から黄色ブドウ球菌が分離されることもある。
感受性のマウスおよびラット、または免疫不全動物においては、黄色ブドウ球菌が結膜、眼の付属器、皮膚およびその付属器、あるいは生殖路の化膿性(膿瘍形成性の)炎症をひき起こすことがある。このような炎症の古典的な例として、C57BL/6 背景のマウスにおいてみられる、包皮腺の膿瘍がある。黄色ブドウ球菌は、古典的な日和見病原体であると考えられており、傷ついた皮膚やその他の侵入経路を通って、感染をひき起こす。開放創や障害を受けた皮膚への黄色ブドウ球菌感染もひき起こされることがある。しかし、そのような感染病変からは、ブドウ球菌(皮膚由来)とグラム陰性細菌(糞便由来)の混合コロニーが分離されることが一般的である。

 

診断

健康な実験用げっ歯類の正常細菌叢のなかに黄色ブドウ球菌が存在するという所見には、診断的意義はほとんどない。本菌は、鼻咽頭や皮膚、あるいは疑いのある病変から容易に培養することができる。ブドウ球菌は、血液寒天培地上で、特徴的な光沢を帯びた、不透明な、黄白色のコロニーを形成する。α溶血環またはβ溶血環も観察される。分離されたブドウ球菌をさらに詳細に同定するためのキットも市販されている。また、分離された黄色ブドウ球菌は、ファ-ジ型別法あるいは16S リボソームDNA 型別法によっても、詳細に同定することができる。黄色ブドウ球菌に特徴的な病理組織学的病変として、膿瘍の中に見られる、稠密な球菌塊周囲のスプレンドーレ‐ ヘップリ物質(Splendore-Hoeppli material;ブドウ菌腫(botryomycosis)ともいう)がある。

 

実験への悪影響

一般的に、動物に黄色ブドウ球菌が定着しても、研究、外科処置、あるいは教育における使用には悪影響を及ぼさない。ただし、実験室においてブドウ球菌の研究をおこなう場合においては、黄色ブドウ球菌が感染した動物を使用するのは適切ではない。臨床症状を示している動物を研究の目的に使用するのは適切ではない。そのような動物は、動物福祉の観点から、安楽死処置を施さなければならないであろう。

 

予防と治療

黄色ブドウ球菌が動物に伝播することを防ぐためには、厳格な微生物コントロール下、たとえば、免疫不全マウスを飼育するためのシステムを用いて動物を飼育しなければならない。実際に、多くの免疫不全系統の動物をアイソレーターやマイクロアイソレーションケージの中で飼育しなければならないおもな理由のひとつとして、黄色ブドウ球菌の排除が挙げられる。実験用げっ歯類にみられる黄色ブドウ球菌は、一 般的に、ヒトに由来することが多いので、飼育管理スタッフは、すべての皮膚を露出しないようにし、HEPA フィルターの付いた保護マスクあるいはN95 マスクを着用しなければならない。ファ-ジ型別法によって、実験動物の黄色ブドウ球菌感染と飼育管理スタッフの室間移動とのあいだに関連があることが示されている。一般的な動物管理上の注意をしていれば、飼育管理スタッフが動物から黄色ブドウ球菌に感染することを防ぐことができる。
制限酵素断片長多型(RFLP)解析および培養によって、バリア施設内の異なるげっ歯類飼育室から分離された黄色ブドウ球菌は、それぞれ異なるRFLP をもち、また抗生物質に対する感受性はきわめて高いことが示された。RFLP 解析の結果は、あるひとつのコロニーの中においては、ある特定の黄色ブドウ球菌株が定着していることを明確に示している。特定の黄色ブドウ球菌が占領している部位に、他の黄色ブドウ球菌が侵入することはむずかしい。抗生物質に対する高い感受性は、げっ歯類用のバリア施設内においては、ヒトの臨床分離株とは異なり、抗生物質による選択圧がないことによる。
黄色ブドウ球菌は、動物実験施設において一般的に使用される多くの消毒剤に対して感受性である。どのような化学的あるいは物理的滅菌法を用いても、環境中の黄色ブドウ球菌を除去することができる。しかし、黄色ブドウ球菌は乾燥に強く、たとえば、乾燥した皮膚や乾燥した分泌物の上では、数週間にわたって感染性を維持することができる。感染動物を抗菌剤で処置すれば、疾病を治療することができるであろうが、動物を保菌状態から解放することは、ほとんどできない。また、抗生物質を使用しても、床敷やケージ表面から本菌を除去することはできない。したがって、治療は、臨床症状を軽減させる目的においてのみ推奨することができる。黄色ブドウ球菌フリーのコロニーを得るためには、子宮摘出または胚移植をおこなって、子動物を黄色ブドウ球菌フリーの母親動物に里子に出すことによって、コロニーを再構築(クリーン化)しなければならない。

 

文献

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翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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