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肺炎連鎖球菌

Streptococcus pneumoniae

 

分類

細菌、α溶血性、グラム陽性、莢膜をもつ、好気性双球菌

 

Streptococcaceae

 

感受性動物種

おもに、ラットおよびモルモットの病原体として報告されている。マウスも感染に対して感受性である。ヒトの疾患の病原体であり、ヒトの保菌者が動物の感染源になることがある。動物からヒトに感染する可能性がある。

 

頻度

現在の実験動物コロニーにおいては、まれである。ペットや野生動物集団における頻度は、不明である。

 

伝播経路

おもな伝播経路は、エアロゾルまたは感染動物の鼻汁もしくは涙との接触を介した経路である。肺炎連鎖球菌は、鼻咽頭や鼓室胞から培養することができる。

 

臨床症状および病変

一般的に、不顕性感染であり、動物は保菌状態となる。臨床症状を示す個体は、ほとんどない。大規模な繁殖コロニーにおいて、周期的な流行がみられたものの、ラットにおいては過去35 年間、そしてモルモットにおいては過去20 年間、肺炎連鎖球菌病の大規模な流行は報告されていない。このことは、過去の肺炎連鎖球菌病の大規模な流行は、肺炎連鎖球菌と他の病原体との混合感染であった可能性を示唆している。肺炎連鎖球菌の流行が起こるときは、おもに幼若動物が発症する。とくに、宿主の防御機構が擾乱したときに、発症しやすい。たとえば、他の病原体が感染したり、実験処置を施されたり、あるいは環境条件が変わったりしたときなどである。臨床症状は、一般的にげっ歯類においてみられる症状である。たとえば、丸背姿勢、立毛、摂餌量低下、あるいは前駆兆候のない死亡などである。そのほかにも、特徴的な鼻汁漏出、結膜炎、あるいは前庭の症状などもみられる。モルモットの臨床症状として、死産や流産がみられることもある。
剖検においては、鼻腔内または鼓室胞内に、漿液血液性または膿性の滲出液がしばしば見られる。肺には、硬化した暗赤色のコンソリデーション(硬化)を示す領域が見られる。肺炎連鎖球菌が感染した動物の剖検においては、そのほかにも、化膿性線維素性胸膜炎、心嚢炎、あるいは腹膜炎などもみられる。組織学的病変も剖検所見を裏づけている。すなわち、さまざまな重篤度の気管支肺炎ならびに化膿性線維素性漿膜炎などがしばしばみられる。

 

診断

病変部の塗抹標本において、莢膜をもったグラム陽性双球菌が観察された場合は、肺炎連鎖球菌の感染を疑わなければならない。診断を確定するためには、病変部組織を培養する。肺炎連鎖球菌は、5% 血液寒天培地で最もよく増殖する。コロニーは、α溶血を示す。つぎに、オプトヒン感受性試験によって、暫定的に同定をすることができる。診断用のPCR も可能である。PCR を利用して肺炎連鎖球菌を同定するときは、呼吸器あるいは糞便を材料としてPCR を実施する。PCRは、細菌学的方法による暫定的同定をさらに確かめるために利用することができる。あるいは、組織病変において観察された細菌の同定をおこなうためにもPCR を利用することができる。

 

実験への悪影響

一般的には、肺炎連鎖球菌をもっている動物を研究に使用することができる。しかし、免疫不全動物においては、本菌をもっていることは適切ではない。免疫機能が正常な動物においては、通常、本菌は組織のなかに侵襲することはなく、鼻咽頭の表面に生息しているので、進行中の研究を中止することなく、菌を検出することができる。マウスやラットからヒトへの本菌の伝播は、これまで1 例も報告されていない。

 

予防と治療

肺炎連鎖球菌が動物に伝播することを防ぐためには、厳格な微生物コントロール下、たとえば、免疫不全マウスをヒト由来の細菌から守るためのシステムを用いて動物を飼育しなければならない。実験用げっ歯類にみられる肺炎連鎖球菌は、おそらく、ヒトに由来すると考えられるので、飼育管理スタッフは、マスクを着用し、そしてその他の標準的な個人用防護具を使用して、ヒトから動物への感染の機会を減らすようにするべきである。肺炎球菌性肺炎、中耳炎、および結膜炎に罹患している飼育管理スタッフ、またはその他の連鎖球菌感染症と診断された飼育管理スタッフもしくは連鎖球菌感染症の疑いのある飼育管理スタッフは、抗生物質治療が完了するまでは、実験動物と接触する業務に従事するべきではない。一般的な動物管理上の注意をしていれば、飼育管理スタッフが動物から肺炎連鎖球菌に感染することを防ぐことができる。
肺炎連鎖球菌は、動物実験施設において一般的に使用される多くの消毒剤に対して感受性である。どのような化学的あるいは物理的滅菌法を用いても、環境中の肺炎連鎖球菌を除去することができる。感染動物を抗菌剤で処置すれば、疾病を治療することができるであろうが、動物を保菌状態から解放することは、ほとんどできない。また、抗生物質を使用しても、床敷やケージ表面から本菌を除去することはできない。したがって、治療は、臨床症状を軽減させる目的においてのみ推奨することができる。ヒト由来の肺炎連鎖球菌分離株は、しばしば多剤耐性である。肺炎連鎖球菌フリーのコロニーを得るためには、子宮摘出または胚移植をおこなって、子動物を肺炎連鎖球菌フリーの母親動物に里子に出すことによって、コロニーを再構築(クリーン化)しなければならない。

 

文献

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翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2011, Charles River Laboratories International, Inc.

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