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ネズミコリネ菌

Corynebacterium kutscheri (Pseudotuberculosis)

 

分類

細菌、グラム陽性、小型桿菌

 

Corynebacteriaceae

 

感受性動物種

マウス、ラット、ハムスター。おそらく、すべての実験用げっ歯類に感染するが、スナネズミにおいては、感染の報告はない。モルモットにおける感染は、1 例のみ報告されている。

 

頻度

実験用動物コロニーにおいては、まれである。ラット(R.norvegicus )において、自然感染が報告されている。野生動物やペット動物における有病率は不明である。

 

伝播経路

ネズミコリネ菌のおもな伝播経路は、おそらく、糞口感染である。実験感染においては、動物は5 か月間にもわたって、糞便中に本菌を排出しつづけることがあり、感染は持続する。動物は、本菌を体内から排除することができない。マウスの系統によって、本菌の定着や発病に対する感受性が異なる。C57BL/6 マウスは抵抗性であり、BALB/c マウスは感受性である。雌雄差もみられ、雄マウスの方が疾患に対する感受性が高く、また保菌状態にもなりやすい。ヒトにおいて、感染ラットに咬まれた幼児がネズミコリネ菌に感染したという報告が1例ある。

 

臨床症状および病変

一般的には、不顕性感染である。動物は、口腔、頸部リンパ節、あるいは消化管に本菌をもっていても、無症状の場合がある。加齢、ストレス、実験処置、あるいは免疫系の乱れなどにともなって、本菌が体内に血行性に拡散することがある。臨床症状がみられるとしても、非特異的な一般的な症状である。すなわち、体重減少や立毛などであり、ラットにおいては、呼吸器症状や紅涙などがみられる。
ネズミコリネ菌感染の典型的な肉眼所見は、マウスにおいて は、おもに肝臓、腎臓、肺における膨隆した灰白色の小結節であり、ラットにおいては、おもに肺における同様な小結節である。これらの小結節は、大きくても直径1 cm くらいであり、通常は、もっと小さな結節である。このような小結節は、上記の器官以外においてはあまり見られないが、ときどき、皮下組織、関節、脾臓、あるいはリンパ節においても見られる。顕微鏡所見においては、病巣の中心部は壊死(凝固壊死または乾酪壊死)しており、その周囲には、好中球の集簇が見られる。このような化膿巣の中には、本菌が容易に見つかる。

 

診断

診断は、まず病巣部の顕微鏡検査によっておこなわれる。組織やスタンプ標本をグラム染色することによって、病巣部における小桿菌のかたまりを見つけることができるであろうが、個々の細菌を見分けることはむずかしい。したがって、確定診断をするためには、培養をしなければならない。フラゾリドン、ナリジクス酸、およびコリマイシンを含むブレインハートインフュージョン培地であるFCN 培地がネズミコ リネ菌を増殖させるための選択培地である。FCN 培地では、グラム陰性桿菌は増殖することができない。ネズミコリネ菌を検出するための血清診断キットは市販されていない。PCRも診断法として利用することができるが、一般的には市販されていない。

 

実験への悪影響

ネズミコリネ菌が動物に感染しても、病的症状、血中抗体、あるいは病巣がみられないことがある。しかし、免疫系になんらかの破綻をきたすと、病気が発生し、臨床症状が発現し、実験に使用することができなくなる。したがって、ネズミコリネ菌をもっている動物を研究や試験の目的に使用するべきではない。

 

予防と治療

ネズミコリネ菌は、動物施設でごく一般的に使用されている消毒薬に対して感受性がある。化学的あるいは物理的殺菌剤を用いて、環境中のネズミコリネ菌を除去することができる。ネズミコリネ菌は、海水からも分離されており、4℃のPBSの中で8 日間生存することができる。しかし、環境中におけ るネズミコリネ菌の生息場所や生存条件などについては報告されていない。動物を抗菌剤で処置すれば、病気を治療することができるかもしれないが、おそらく、動物は保菌状態のままであろう。また、抗生物質を使用しても、床敷やケージの表面から本菌を除去することはできないであろう。したがって、コロニーを再構築(クリーン化)する場合において、臨床症状を改善することが必要なときにのみ、治療は推奨される。動物における本菌の治療に関する報告は、これまでなされていない。Corynebacterium bovis の分離株は、テトラサイクリン、エンロフロキサシン、およびアンピシリンに感受性であることが示されているので、おそらく、本菌の分離株も同様な感受性をもっているものと考えられる。

 

文献

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翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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