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マウス胸腺ウイルス

Mouse Thymic Virus
(MTV, MTLV)

 

分類

DNA ウイルス、エンベロープをもつ

 

Herpesviridae

 

感受性動物種

マウス

 

頻度

実験用マウスにおいては、まれである。野生マウスにおいて、よくみられる。

 

伝播経路

感染すると、本ウイルスは、唾液腺に長期間生存する。慢性感染を起こすが、臨床症状は示さない。ウイルスは、感染後数か月にわたって、唾液中に排出される。また本ウイルスは、授乳マウスの乳腺組織からも分離されるので、ミルクを介したウイルス伝播の可能性がある。

 

臨床症状および病変

MTV の自然感染においては、臨床症状はみられない。本ウイルスによる臨床症状は、マウスの齢によって異なる。MTV の実験感染においては、新生子マウス(10 日齢未満)においてのみ、病変および免疫抑制がみられる。特徴的な病変は、胸腺細胞の核内封入体および胸腺細胞の壊死である。リンパ節や脾臓の壊死も起こるが、その程度は、胸腺にくらべると軽微である。10 日齢を越えるマウスがMTV に感染しても、胸腺の壊死はみられない。

 

診断

コロニーにおけるMTV 感染の診断は、IFA、CF(補体結合反応)、あるいはPCR を利用しておこなうことができる。新生子マウスが感染した場合は、MTV に対する抗体は陽性にならない。したがって、幼若マウスにおける特徴的な胸腺の病変が診断の助けになる。

(訳注)現在はMFIA® でも実施可能になっている。

 

実験への悪影響

MTV に感染すると、長期間にわたる免疫抑制をひき起こすことがあり、マウスの系統によっては、自己免疫疾患を誘導することもある。

 

予防と治療

おそらく、野生マウスがMTV の自然宿主であると考えられるので、動物実験施設に野生マウスが侵入しない措置を講じなければならない。野生マウス由来のコロニーは、実験用マウスのコロニーから隔離して飼育し、できるかぎり早く再構築(クリーン化)しなければならない。動物コロニーにおけるルーチンの微生物モニタリングのなかに、定期的なMTV抗体検査を含めるべきである。MTV は、実験用マウスにおいて頻繁にみられる病原体ではないので、検査頻度は、各機関が決めればよい。オートクレーブ処理、ホルマリン処理、界面活性剤処理、あるいはヘルペスウイルスに対して効果のある消毒剤による処理はすべて、MTV を不活化する。
子宮摘出または胚移植によるコロニーの再構築(クリーン化)は、MTV を撲滅するための方法として推奨することができる。コロニーの中の抗体陰性の動物を選んで、繁殖のために使用することも可能である。この方法を利用する場合は、動物は隔離飼育し、くり返し検査をして、抗体が陰性であることを確認しなければならない。この方法は、動物の免疫機能が正常で、かつ新生子のときに感染していないときのみに有効な方法である。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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