情報ライブラリ

Resource Library

PDF版資料のダウンロード

 

ポリオーマウイルス科

Polyoma Viruses
(Polyoma Virus, K Virus
[Murine PneumotropicVirus])

 

分類

DNA ウイルス、エンベロープをもたない

 

Polyomaviridae

 

感受性動物種

マウス

 

頻度

実験用マウスにおいては、ほとんどないといってよいほどまれである。野生マウスには存在する。

 

伝播経路

Polyoma Viruses(PyV)は、野生においては、おそらく、呼吸器を介して伝播する。新生子のときに感染すると、持続感染が成立する。感受性には、大きな系統差がみられ、たとえば、C57BL/6 は抵抗性であり、AKR およびCBA は感受性が高い。
Murine Pneumotropic Virus(MptV)は、汚染された糞便を摂取することによって伝播する。感染時の齢にかかわらず、持続感染が成立する。

 

臨床症状および病変

PyV の自然感染においては、臨床症状はみられない。新生子に実験感染させると、ウイルスは急速に体内に拡散し、さまざまな組織において、溶解性の病変をひき起こす。一般的には、乳腺、毛包、あるいは唾液腺の腫瘍が形成され、3 ~ 4か月で大きなサイズに増殖する。免疫不全マウスにおいては、成体が感染しても、上記新生子と同様の症状を示す。
新生子がMptV に感染すると、感染後6 ~ 15 日ころに肺炎がひき起こされる。マウスは、突然、呼吸困難になり、死亡することが多い。約18 日齢以降に感染した場合は、臨床症状は示さない。感染した新生子の肺には、肉眼病変が見られる。組織学的には、出血、水腫、無気肺をともなう間質性肺炎の像を呈する。病理組織学的検査においては、さまざまな組織において、核内封入体が見られる。肺以外の組織においては、封入体はほとんど見られない。

 

診断

PyV の抗原性はきわめて高いので、すみやかに高力価の抗体が産生される。産生された抗体は、防御能をもつ。抗体は、ELISA、IFA、MFIA® によって、あるいはPCR によって検出することができる。生後数時間以内に感染すると、比較的若齢において、多数の腫瘍が形成されることがある。このような腫瘍がみられる場合は、PyV の感染が疑われる。免疫不全マウスが感染すると、消耗病がひき起こされる。
6-15 日齢のマウスや免疫不全マウスが間質性肺炎を起こした場合は、MptV の感染が疑われる。PyV とは対照的に、MptVによって誘導される抗体の力価は低い。抗体はELISA、IFA、MFIA® によって、あるいはPCR によって検出することができる。
本ウイルスは、きわめてまれであるので、血清学的検査の結果が陽性であっても、かならずしも診断的価値が高いとはいえない。すなわち、偽陽性が多いのである。進行中の研究に影響を及ぼすような措置を講じる前に、再検査を実施することを強く推奨する。

 

実験への悪影響

免疫機能が正常な成体動物においては、PyV の自然感染が研究へ悪影響を及ぼすことはないと考えられる。PyV によって汚染されていないコロニーにおいて、新生子マウスが感染すると、感染動物において、からだの広範囲において腫瘍が形成される。その結果、動物の寿命は短縮し、実験にも悪影響を及ぼす。PyV は、がんの研究において、実験的に広く使用されている。PyV が蔓延しているコロニーにおいて、新生子マウスを受動免疫すると、感染を防御することができる。
免疫機能が正常な成体動物においては、MptV の自然感染が研究へ悪影響を及ぼすことはない。MptV によって汚染されていないコロニーにおいて、新生子マウスが感染すると、約6 ~ 18 日齢において、同腹子の子マウスが死亡する。免疫不全動物が感染すると、肺炎の症状を示す。MptV が蔓延しているコロニーにおいて、新生子マウスを受動免疫すると、感染を防御することができる。

 

予防と治療

動物由来生物製剤は、ポリオーマウイルス科のウイルスによって汚染されている可能があるので、細胞株、可移植性腫瘍、あるいはその他の生物学的製剤は、動物に接種する前に、PCR またはマウス抗体産生(MAP)試験によって検査すべきである。PyV は実験において広く使用されているので、動物実験施設内において、他の動物にウイルスが伝播しないよう注意しなければならない。また、野生マウスもポリオーマウイルスの感染源になり得るので、野生げっ歯類が動物施設内に侵入しないようコントロールしなければならない。飼育している動物の定期的な血清学的検査、ならびに導入動物の検疫を実施することを推奨する。ただし、検査の頻度に関しては、本ウイルスの感染がきわめてまれであることを考慮すると、それほど頻繁に検査をする必要はないであろう。界面活性剤や酸化殺菌剤を併用しながら、化学薬剤を用いて徹底的に除染することを推奨する。感染動物と直接接触した器材は、オートクレーブ滅菌または冷滅菌により処理をする。ポリオーマウイルスは、環境中で安定して生存し、組織懸濁液中では2 か月以上も生存する。ポリオーマウイルスは、凍結融解、エーテル、70℃ 3 時間、あるいは0.5% ホルマリンに耐 性であり、さらに、床敷やエアロゾル(PyV のみ)からも回収される。

 

文献

  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
  • National Research Council. Infectious Diseases of Mice and Rats. Washington, D.C.: National Academy Press; 1991. 397 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

情報ライブラリ一覧へ