マウスサイトメガロウイルス
Mouse Cytomegalovirus
(MCMV)
分類
DNA ウイルス、エンベロープをもつ
科
Herpesviridae
感受性動物種
マウス
頻度
実験用マウスにおいては、まれである。野生マウスにおいては、よくみられる。
伝播経路
本ウイルスは、涙、唾液、および尿中に排出される。垂直感染が起こると考えられている。自然感染における伝播経路は、唾液腺に限られる。
臨床症状および病変
自然感染においては、臨床症状はみられない。顎下腺がおもな病変部位である。他の唾液腺は、ほとんど影響を受けない。しかし、一次感染におけるウイルス血症のために、さまざまな組織において潜伏感染が起こる。自然感染における病変は、唾液腺に限られており、感染動物においては、特徴的な巨細胞性病変がみられ、核内および細胞質内に好酸性の封入体が観察される。マウスの系統によっては、中枢神経系や心筋にかすかな病変がみられることがある。感染に対する感受性は、齢、マウスの系統、および宿主の免疫能の影響を受ける。
診断
MCMV の診断は、血清学的検査(ELISA, IFA, MFIA
®)またはPCR によっておこなうことができる。
実験への悪影響
MCMV の自然感染は、研究に重大な悪影響を及ぼさないことが示されている。しかし、マウスを使った、本ウイルスの実験感染においては、免疫系、生殖器系、あるいは造血系に影響を及ぼすことが示されている。
予防と治療
自然界における本ウイルスのおもな保有宿主は、野生のマウスであるので、動物実験施設は、野生のマウスが侵入しないような措置を施さなければならない。野生で捕獲したマウスのコロニーは、実験用マウスコロニーと隔離して飼育しなければならないし、また野生マウスコロニーは、できるだけ速やかに再構築(クリーン化)しなければならない。すべての実験用マウスコロニーについて、定期的なMCMV抗体検査 を微生物モニタリングに含めなければならない。本ウイルスは、実験用マウスにおいては、よくみられる病原体ではないので、抗体検査の頻度は各機関それぞれが決めればよいであろう。MCMVは、乾燥や界面活性剤によっても不活化されるが、その他、オートクレーブ、ホルマリン、あるいはヘルペスウイルスに対して有効な消毒剤などで処理することによっても、本ウイルスを不活化することができる。
一般的に、MCMVの感染事故が起こった場合は、感染動物を淘汰し、MCMVフリーの動物を補充することが推奨される。MCMVは、直接接触によって伝播するので、マイクロアイソレーター・ケージ・システムを厳重に管理することによって、本ウイルスの流行をごく少数のケージにとどめることができる。垂直感染が起こり得るので、子宮摘出による再構築(クリーン化)よりも、胚移植による再構築(クリーン 化)のほうがよい結果が得られるであろう。
文献
- Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research. Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
- Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
- Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
- Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits . Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.
翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.