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エクトロメリアウイルス

Ectromelia Virus (Mousepox)

 

分類

DNA ウイルス、エンベロープをもつ

 

Poxviridae

 

感受性動物種

実験用マウス、野生マウス、その他の野生げっ歯類

 

頻度

実験用マウスにおいては、まれである。野生マウスにおいても、頻度は低い。

 

伝播経路

エクトロメリアウイルスは、マウスポックス(マウス痘瘡)をひき起こす。エクトロメリアウイルスは、直接接触または器材等を介して伝播する。実験感染においては、さまざまな経路を介して感染させることができるが、自然感染においては、皮膚の創傷を介した経路が一般的である。感受性の系統においては、感染後7-11 日で病変が現れる。その後、ウイルスは3 週間にわたって排出される。しかし、痂皮や糞便中においては、感染後16 週間にもわたってウイルスが検出される。ケージ間でのエクトロメリアウイルスの伝播は、おもに、感染マウスを(人が)取り扱うことによって起こる。

 

臨床症状および病変

エクトロメリアウイルスによる臨床症状や病変は、マウスの系統によってさまざまである。C57BL/6、C57BL/10、AKR マウスのような抵抗性の系統においては、臨床症状がみられないこともあるが、他の動物に対する感染源になることがある。それに対して、A、CBA、C3H、BALB/c、DBA/2 マウスのような感受性の系統においては、感染による死亡率が80-90% に及ぶこともある。これらの感受性動物においては、なんの臨床症状も示すことなく、死亡に至ることもある。そのような場合、マウスはウイルスを排出することなく死亡する。感受性マウスにおいては、脾臓、パイエル板、胸腺、リンパ節などの壊死のみならず、急性の肝細胞壊死もみられる。肝細胞壊死によって、肝臓表面に白斑が見られる。中等度感受性の 系統においては、次のような臨床症状がみられる。すなわち、立毛、うずくまり姿勢、顔面浮腫、四肢の腫脹、結膜炎、皮膚膿瘍、鼻口部・四肢・耳介・尾の潰瘍などである。そして、エクトロメリア(奇肢症)とよばれる病状によって、四肢や尾の脱落が起こる。ウイルスの名称(エクトロメリアウイルス)は、この症状(エクトロメリア)に由来する。

 

診断

動物施設において、動物が上記臨床症状を示したり、あるいは感受性動物集団において、原因不明の死亡が広がったりした場合には、エクトロメリアウイルス感染を疑うべきである。MFIA®/ELlSA やIFA を利用した血清学的診断が可能である。感染から回復すると、動物は防御抗体を産生する。剖検時に、エクトロメリアウイルス感染を強く示唆する病変が見つかる。たとえば、回復した動物においては、脾臓の線維症、そして発症している動物においては、肝臓、脾臓、皮膚などに病変がみられる。組織学的には、皮膚病変において、細胞質内封入体が見られる。確定診断のために、皮膚病変を用いたPCR がおこなわれることがある。実験プロトコールの一部として、ワクシニアウイルスを用いたワクチン接種がおこなわれることがあるが、その結果として、血清学的診断における偽陽性を招くことがある。

 

実験への悪影響

感受性のマウス系統においては、きわめて高い(ほぼ100%の)死亡率を示すので、研究プログラムや動物施設には悪影響を与える。エクトロメリアウイルスの感染によって、抵抗性マウス系統の貪食能が変化することがある。さらに、抵抗性マウス系統においては、感染動物から得られた腫瘍、血清、細胞、あるいはその他の生物製剤の中にウイルスが含まれている可能性があるので、他のマウスや動物施設にウイルスを拡散するおそれがある。

 

予防と治療

動物コロニーにおけるルーチンの微生物モニタリングのなかに、定期的なエクトロメリアウイルス抗体検査を含めるべきである。すべてのマウス由来の生物製剤、たとえば、腫瘍、血清、細胞株などについては、マウス施設や研究室において使用する前に、エクトロメリアウイルスによって汚染されていないか検査すべきである。エクトロメリアウイルスの感染から回復した動物は、防御抗体をもっているので、免疫機能の正常な系統においては、隔離や繁殖の中断によって、エクトロメリアウイルスを撲滅することができるかもしれない。しかし、エクトロメリアウイルス感染症の重篤度を考慮すると、この方法(隔離、繁殖の中断)は推奨することができない。弱毒ワクシニアウイルスを用いたワクチンによって、貴重なマウス系統を保存することは、考えられる方法である。いずれにしても、エクトロメリアウイルスの感染が疑われたときは、ただちに、厳しい隔離策を執らなければならない。エクトロメリアを撲滅するための最善の方法は、子宮摘出または胚移植によってコロニーを再構築(クリーン化)することである。とくに、感染から回復した動物においては、子宮摘出または胚移植によるコロニーの再構築(クリーン化)が有効である。
もし、感染源が細胞株や可移植性の腫瘍であることが疑われる場合は、それらの細胞株や腫瘍は廃棄すべきである。しかし、それらの細胞株や腫瘍をラットで継代培養することによって、ウイルスを除去することができるかもしれない。なぜなら、ラットはエクトロメリアウイルスに感受性ではないからである。動物飼育室は、徹底的に清掃、消毒し、できれば、ホルマリンガス燻蒸または過酸化水素噴霧などで滅菌す るとよい。血中のエクトロメリアウイルスは、室温で11 日間も生存することができる。動物施設内のその他の資材は、有害廃棄物として(焼却)処理またはオートクレーブ処理しなければならない。乾燥処理や界面活性剤処理と同様に、オートクレーブ処理、ホルマリン処理、あるいは一般的な消毒薬によって、エクトロメリアウイルスを不活化することができる。

 

文献

  • Baker DG. Natural Pathogens of Laboratory Animals: Their effects on research . Washington, D.C.: ASM Press; 2003. 385 pp.
  • Fox JG, Anderson LC, Lowe FM, and Quimby FW, editors. Laboratory Animal Medicine . 2nd ed. San Diego: Academic Press; 2002. 1325 pp.
  • Fox J, Barthold S, Davisson M, Newcomer C, Quimby F, and Smith A, editors. The Mouse in Biomedical Research: Diseases . 2nd ed. New York: Academic Press; 2007. 756 pp.
  • Percy DH, Barthold SW. Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits .Ames: Iowa State University Press; 2007. 325 pp.

 

翻訳:順天堂大学国際教養学部 久原 孝俊
©2009, Charles River Laboratories International, Inc.

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